第31話 追跡
俺達はサンクチュアリを抜けて閉鎖域のエントランスに到着した。女騎士を実家に帰そうとしたが、本人が強く否定したので連れてきている。他のメンバーは特に問題なく突入準備を終えていた。
フィースは髪を結い上げて戦闘スタイルにしている。フランはウイザード衣装、占い師のライーは色褪せた修道衣、女騎士のロセンダはいつもの革鎧だ。
俺はサバイバル衣装と呼ばれる機能性を重視したものを羽織っている。
我ながらアースカラーで地味だと思う。
女騎士の名前をこの時覚えたのは秘密にしている。
「ロセンダは俺のあとに続け、その後をフラン、ライー、フィースの順で突入する」
「召喚獣の希望はあるのかな?」
「乗れる魔獣系なら何でもいい。逃走など、いざという時のためだ」
「まかせて! 出てきなさい。ルーファント」
砂の中から召喚獣が三頭身震いしながら出現した。フィースは歌うように囁いて獣を押し鎮める。
美女に一本の角を持つ巨獣が寄り添うさまは幻想的だった。
獣は三方向に散って警護を開始する。
「よし、突入する!」
俺達は何層もの霧のように儚いベールを越えて、灼熱の閉鎖域に侵入した。
突入した先に敵の姿はないが、油断できず警戒は怠らない。
入り口付近に広がる地域は古語でステップと呼ばれる場所だ。木は数えるほどしか生えておらず、草丈の高い植物が辺り一面を覆っている。牧草地帯とは異なる殺風景な場所だ。
殺伐としているが砂漠よりは過ごしやすい。
俺達は三日かけて三層の領域を超え、黙々と深層を目指している。何度かエメリが報告に訪れ、その都度ダレンの愚痴を言って帰っていった。
傍で聞く分には少し甘酸っぱく、微笑ましい。
まだ恋愛感情ではなさそうだが、仲はとても良いようだ。
ロセンダは慣れない閉鎖域ということもあり、気が張っているのか問題行動は起こしていない。ロセンダをナチュラルに支え、寄り添えるライーの心配りに俺は感謝している。
同じ最愛の者を失った境遇でも、余裕のない俺とは大違いだ。
後悔という言葉が頭をよぎった。俺はそれを振り払うように景色に注意を向ける。空には雲がなく、天を仰いでも赤熱する太陽しかない。
俺は胸につかえたものを吐き出す。
他人と比較しても意味はない。先に進もう。
「方向はこっちでいいのか? ライー」
「ええ、間違いありません」
別に祈るわけでもなく、淡々と方向を指示する占い師は異質だった。
好奇心は膨らむばかりで、フィースが止めなければ質問攻めしていただろう。
所々に砂礫に埋もれた構造物が頭を出していて、見渡せる範囲に限っても多数点在していた。好奇心を押さえられず近寄って観察を始める。
俺の悪い癖だ。
「レイリー様、これが何かご存じですか?」
「いや、わからん」
サンクチュアリの構造物よりも複雑な様式だ。当然、異界の様式でもない。
俺は回答を促すようにライーに顔を向けた。
「これは遺跡の残骸と噂される過去の遺物。異世界人の研究成果ですから、正しいかどうかは存じ上げません」
「面白いな。建築様式がまるで違う。この遺物のサイズ感から考えて、想像さえできないほどの巨大遺跡だったのだろう」
「レイリー様は博識ですね」
「いや、経験則だ」
フィースが真面目な顔して見つめている。別にライーに恋愛感情はない。
ただの同志だ。子を亡くした……。
何かが心の隙間に入りこんできた。俺は何故か目を細めてしまう。
きっと風が強くなったからだろう。
夕闇が迫り夕食の準備をはじめる。野営も慣れてきて、土魔法で簡単な地下壕を掘って、天井を構築した。俺は昔ながらの焚火の前で食事をとることを提案する。
「室内でも食事はできるが、外で食べないか?」
「飛んでくる砂が嫌だわ。なぜ外なの?」
フィースは首を傾げて不思議そうに聞いてくる。
「いや、焚火をするとだな……舞い上がる火の粉と夜空が見えるだろ」
「顔に似合わずロマンティストね。おもしろいわ!」
「おい、笑い過ぎだ」
「わ、わたしは外で食べたいです。ねえ、ロセンダ」
「フランにお任せします」
ライーは食材を抱えて場所探しをはじめ、何食わぬ顔して食事の支度をはじめた。
他の連中は三者三葉というか、好き勝手しているようだ。
「みなさま、夜空を見上げながらの会食に決定です。お手伝いください!」
結局、ライーが仕切った。
渋々と準備を始めたフィースを笑うと、丸い野菜を投げつけてきた。
俺は難なくキャッチする。
「ありがとう。運ばせてもらうよフィース」
「どうでもいいところで、動体視力の良さを示さないでよ!」
フィースは面白くなさそうにしていたが、ライーに連れられて準備を始めた。
上下関係がわかりやすい。
ロセンダとフランは室内で寝床の準備をしている。
魔法で構築した室内は砂を押し固めたものと違い、下手な鉱物よりも硬度は高い。透明にもできるが、女性ばかりが寝泊まりすることを考えてサンドカラーにしている。単なる手抜きともいう。
室内は俺の絶望的なセンスから装飾はない。適当に机や椅子を魔法で作成していく。砂の構造を変化させてインテリアを造るのだ。
ロセンダを椅子に腰かけさせて、フランにお願いする。
「フラン悪いが、ロセンダと室内の準備を頼む。俺は巡回してくる」
「大丈夫ですか?」
俺はフランの耳元でロセンダを頼むと囁いた。
フランは小さく頷く。
外に出てライーとフィースに見回りに行くことを伝えた。フィースが同行したいと言ってきたが、ライーにたしなめられる。
「フィースさん、子供のお散歩ではないから、食事の準備手伝ってくれるわね?」
「えっと、はい……」
俺が噴き出すとフィースが睨みつけてくる。
「忌々しい。すぐにでも見回りに行ったら!」
「フィースの美味しい手料理。期待してるからな」
「私が料理下手を知っていってるでしょ! 砂を入れてやる」
文句を言うフィースは、見かねたライーに引っ張って行かれた。
暗くても問題ないが、肉眼で見えるうちに行動したい。
俺は薄暮の草原で見回りを開始した。
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