第26話 迷走する者
流人との会話が終わり、ダレンを待たせている執務室に向かっている。おそらく、タイミングから考えて俺たちの行動を把握して救援要請を寄こしたのだろう。
王女も流人も常識外れの能力を持っている。
王家は先代文明の生き残りとも、新人類の始祖ともいわれている。諸説あって真実は不明ながら、その血統が途切れることなく、現在まで続いていることは確かだ。
俺は人を避けながら、執務室に入った。
ダレンは書類の整理をしている。
「待たせて悪かった」
ダレンは顔をあげて目を擦った。
待ちくたびれて眠くなり雑用を始めたようだ。
「ダレン。それで、悩みとは何だ?」
少し考えこんだあと、ダレンは小声で話しだす。
「僕は剣士に憧れていました。でも、わからないんです。何になれるか」
「それは、今すぐ決めないといけないことなのか」
先行きの不安か。
閉鎖域の出現によって終末思想が広がった。その流れで世界に閉塞感が広がり、人類は緩やかな滅亡に向かっている。
だから、明日への不安は皆が感じていることだ。
……それこそ明日滅びるかもしれない。だからこそ今が重要になる。
「剣士という目標が見えなくなり、どこに向かっていいかわかりません」
「なるほど、俺が基礎に立ち戻れといったからか。魔素を増やし、防御魔法を覚えて、自衛方法を確立しろと忠告したな」
「いえ、そこは納得しました。でも、何にもなれないように感じていて、不安で仕方ありません」
ダレン本人も理解してないのか。自分の悩みを。
「今ひとつ何を恐れているのか見えてこない。それに、誰と比較して思い悩んでいるかもつかめない。エメリか?」
「前をまっすぐ見て強くなりたいと願うエメリは眩しいです。僕には彼女の様な才能がない」
俺はダレンの背中をたたく。
「俺は比べられることの虚しさを知っている。だからといって、お前の気持ちを理解できると口が裂けてもいえない。確かに今は何にもなれないだろう。でもな、俯いて足を止める時間はもったいないぞ。今という時間は取り返せない、そして目の前には選ぶべき幾多の道がある。あとは、厳しくとも道を選び前に進めるかどうかだ」
「その道がわからない」
ダレンは迷子の幼子のような顔をしていた。
何かを選ぶことは簡単ではない。選択には結果がついて回るのだから。
「選択に迷いが生じるなら試すしかないだろう。そして、道が閉ざされたら戻るしかない。また選び直しだ。でも、迷い続けるよりはましじゃないか?」
「楽観視してますね。僕はきっと悲観論者です。師匠のように考えられない」
「おまえは楽観というが、前に進むためには必要なことではないかと俺は思う。悲観して道を選ばなければ何も始まらない」
「それはそうですが……その、第一歩が選べない」
踏み出すこと。先が見えなければ怖いだろう。
であれば、今の自分が何者なのか正しく知るべきだ。何に憧れ、何を目指して努力してきたのか。他にもあるだろう。
「ダレンは父に憧れ剣士になりたかった。その夢は捨てるのか。諦めるなら、今度は何を目指す?」
「憧れて剣士になれるほど甘くない。さすがに僕でも気づきます。それに騎士より魔術師が強い」
「先日の魔帝戦のことか?」
「はい。騎士は壁にしかなっていませんでした。人が張りつく必要性を感じない、結界で十分では?」
確かに攻撃魔法は派手で効果は誰の眼にも明らかだ。
魔法を使い殲滅、エメリやダレンが魔導士を憧れる気持ちはわからなくもない。
しかし、補助魔法と安全圏があっての攻撃魔法。
魔素が枯渇すれば、一番に使えなくなるのが攻撃魔法なのだ。
「魔帝の防御や攻撃は多様だし、高位の者になると攻撃を受けて戦術を変えるものさえいる。変化に対応するには手札は多いほどいい。だから、騎士の連中に結界魔法や補助魔法を覚えさせている。相手は変わるし得意不得意は仕方ないこと」
沈黙が訪れる。悩むのは若者だけの特権ではない。
皆悩んでいるのだ。俺だって……。
部屋に風に乗って流れてきた埃が舞っている。外の明かりが緩やかに流される塵を浮かび上がらせていた。
俺はダレンが話し出すのを待つ。
「ちょっと前までは剣士を目指し、今は魔法に傾きつつある。僕には軸足さえない」
「何が理由で剣士を諦めるのか俺にはわからない。でもな、判断するには早すぎないか?」
「ダメだと思えば楽になる。目移りするのは決断を先送りするため。逃げてるとわかってます」
「逃げると捉えるか、別な道を選んだと考えるか、捉え方は人それぞれだ。ダレン、気持ちの持ち方ひとつで変わらないか?」
「わかってます。気にするのは僕だけ、誰も僕のことなど見てない。だって、僕は弱いから……」
「強さにこだわる気持ちは痛いほどわかる。これは忠告だ。やりたいことを感じるままに学べばいい。でも、魔帝のように個で戦うのではなく、協力し合うのが人間だ。それを忘れないでくれ」
「すみません。整理ができません。また、相談に来ます」
「ああ、吐き出したいことがあれば来い」
俺は部屋から出ることなく後姿を見送る。
ダレンは考え過ぎて身動きができなくなっている。単純な俺では説教するだけで、アドバイスにならないだろう。聞くことでガス抜きしかしてやれない。
思い詰めなければいいが。
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