第13話 人の繋がり

 ギルドに到着した俺は、フランに連れられて前回よりも上等な部屋に通された。とりあえず、ビオニクが来るまでソファーに座って待つ。


「まもなく、ビオニクが参りますのでお待ちくださいませ」

「いつもありがとう」

「いえいえ、仕事ですから」


 微笑みを浮かべてフランは退出した。


 さて、どのような話になるのやら、先行きの不透明さから少し緊張してきた。ソファーに座って待っているとエメリが横で居眠りをしている。緊張感などないのか自由過ぎて羨ましいくらいだ。

 そんな考え事をしているとビオニクが現れた。


「お待たせして申し訳ありません。早速ですがパーティーの勧誘状況について報告させていただきます」

「ああ、聞かせてくれ」

「探索パーティーの募集ですが難航しております。候補は異世界の巫女、木人に絞られました。問題は彼らとコミュニケーションが難しいことで、もう少し時間をいただくことになりそうです」

「俺たちの世界の住人は望み薄なのか?」


 異世界の住人とは、現在の閉鎖域がしたときに登場した者たちのことをいう。

 それに、例の白昼夢と一致する。


「さようにございます。彼らのサンクチュアリは遠方にあり、異界や閉鎖域には精通していますが、個人主義で協調性が乏しい傾向にあります」

「言葉は問題なかったはずだが、パーティー組んで大丈夫なのか」

「レイリー様次第です」

「俺に丸投げか。まあいい、相手が了承すれば一度会ってみよう」

「承知致しました。話を詰めてみます」

「ああ」


 異世界人とこの異界の住人である魔物は全くの別種族で、異世界人も閉鎖域を攻略している。侵入エントランスは異なるが内部で繋がっていて混成パーティーも珍しくないそうだ。


 閉鎖域は異次元とか時空トンネルといった仮説があり、距離を無視して連結される不思議な構造体である。

 俺に言わせれば仮説に無理がある。謎だらけだ。


「そうだ、教会より召喚士を斡旋された。面接して双方合意できれば連れてくる」

「はい、手続きが円滑にできるように準備しておきます。そういえば、先ほど総合受付のフランから専属の打診があったと聞きましたが如何いたしましょう?」

「ギルドに異論がなければ是非ともお願いしたい」

「この件も早急に対応します。フランの両親は貴方様に助けられています。よほどのことがない限り裏切ることはないでしょう」

「なるほど、そんな理由か。まあ、優秀な人材であるのは間違いない、経緯は問うまい」

「人のつながりは不思議ですな」

「ああ」


 熟睡しているエメリが俺にもたれかかってきた。どうしようかと思案しているとビオニクが忍び笑いする。


「レイリー様、エメリは役に立っているのでしょうか?」

「問題ない。優秀過ぎて俺でいいのかと疑問に思うくらいだ。まあ、ギルドの意図は聞かぬ」

「ご想像にお任せします。エメリはすぐに勇者として目覚めるでしょう」

「俺より優秀だ」


 ビオニクは首を振り、優しく微笑みながら話しはじめる。


「攻略に必要なのは技能でも技術でもありません。当然素質など誤差範囲であることは勇者のあなたがよくご存じでしょう」

「まあそうだな……同期の勇者の中で俺は最弱。底辺だったからな」

「残念なことに、ほかの方々は強く輝いて瞬く間に消え去りましたから」

「俺が、弱く慎重だっただけだ」

「ご冗談はおやめください」


 俺は苦笑いしながら過去に思いをはせる。

 抜かれた者たちに追いつき追い越すのは、精神的にきつかったことを思い出す。俺は単に事実を直視できず、闇雲に鍛錬しただけだ。

 運が良かったに違いない。


 そこでふとダレン達のことが頭をよぎる。


「話が脱線したな。そうだ、最近の攻略ではサポート職は軽視されているようだな」

「といいますと?」

「いや、先ほど攻略隊の傘下から切られるパーティーを目撃して感じたことだ」

「第一閉鎖域の攻略を完了されて以来、流行りスタイルですね」

「俺たちはサポート要員を待機させていたぞ。上辺しか見ていないのか?」

「目立つところに目が行くのは人の性、こればかりは仕方ないことかと」

「まあ、俺も武闘派の師匠を憧れたように、模倣者を否定できないが……」


 ビオニクが何か思い出したのか。書類を机に置いた。俺はそれを眺めると王家からの協力要請だった。強制ではないので断れるが、それなりの理由が必要になる。


「王家依頼なのにギルド経由か、何か裏情報があるなら聞かせてくれ」

「王家の抱える騎士団は選民思想が高まり、平民出身の騎士を排除したいのが真意でしょう」

「それで、平民で外郭警護の騎士を面倒見ろということか。面倒な案件だ」

「王家や貴族社会以外でも似た流れは見受けられます。教会も同様ですね」

「教会も複雑だな。まあ、面接して受け入れると伝えてくれ。もしも、渋るようであれば全員受け入れる」

「先ずは面談ということで話してみます」


 働かない奴は抱えたくないが、俺の言えた義理じゃない。

 問題は拠点と住居か。


「そうなると、今の隔離施設では受け入れが難しいな」

「そのことも含めて交渉いたします。人員収容に余裕のある物件をフランに探させますので、一度下見をしてください。ご希望があれば事前にフランまで」

「よろしく頼む」


 会話が終わったようになく、俺はビオニクの様子を窺う。

 ビオニクはこめかみを押さえ喋りだす。


「あと、ここで申し上げてよいか迷いましたが、王家の後継者争いはご存じかと思いますが、泥沼で末姫様が閉鎖域にて行方不明になっています。極秘情報ですのでご内密に」


 確か、俺のところに現れた王女のことだ。閉鎖域に友人探しだったか。どうも嫌な予感がぬぐえない。


「排除されたのか?」

「王女は簡単に死ぬことはありません。おそらく、理由があって戻らないのでしょう。状況によってはギルドから指名依頼するかもしれません」

「王家も俺が行動開始したのを知り、勇者の実績から依頼するのか。きな臭いが訳ありのようだな。断れないだろうし、その時には声をかけてくれ」

「有難うございます」


 帰ろうとしてエメリを担ぎにかかると、なぜかビオニクと目が合う。

 まだ話が終わってないようだ……。


 なぜだろう、会話が終わって立ち上がると、呼び止められることが多い。

 俺はせっかち過ぎるのだろうか。


「先ほどのサポートの件で妙案が浮かびました。お急ぎでなければ話してよろしいでしょうか」

「ああ、話してくれ」

「サポート職、まあ不遇職がほとんどですが、新人が多く荒野で野盗や盗賊になるものが後を絶ちません。ギルドでも対応を苦慮しているところです」

「すでにならず者になってしまえば矯正は難しいぞ」


 一度堕ちたものは矯正が難しい。

 俺の知人にそんな奴が何人もいたので、経験から戻れないことを知っている。


「はい、その層は既に討伐対象になっており、犯罪予備軍としての脱落者をどうするかという話になります」

「確かに問題だな。どうせ騎士の面倒を見ることになる。多少増えても問題ない」

「では、対象者を絞ります。無駄な忠告かもしれませんが、派閥ができることにご注意ください」

「騎士と探索者、水と油か。忠告感謝する」


 俺はエメリを肩に担いで部屋を退出した。外にはフランが待っていて先に退出したビオニクと話していた。俺はまたしても呼び止められて攻略隊の拠点となる物件についてフランに希望を伝えた。


 エメリを起こしてギルドの受付前を通り過ぎる。

 フランと一緒なので視線が痛い。


 噂は早いものでフランの専属は知れ渡っているようだ。

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