第14話 再起への道
ギルドで必要な用事を済ませた俺達はエントランスに直行した。ダレン達がいないか辺りを見回す。
見るつもりはなかったが内装が気になってしまう。ギルド室内の白い漆喰壁は薄汚れ、怪しげな染みが不気味さを増長させていた。素材の由来から精神的な圧迫を感じてしまう。
ここは寛げる場所じゃない。
目を強く瞑り気持ちを入れかえる。
今は日中なのでギルドに人は少ない。この時間帯は収集依頼を終えた探索者がガラクタや遺物などを背負って擦れ違っていく。
エントランスに待ち人はいないので、外に向かって歩いている。
出てすぐの軒下で、あさっての方向を向いているダレンを見つけた。
そんなに緊張しなくてもいいものを。
「待たせたな」
ダレンは飛び跳ねるようにこちらを向いた。
「あ、いえ、先ほどは失礼しました。勇者様とは知らなくて、すみませんでした」
そこで膝を折って俺に
最悪だ。
「気にするな。とりあえずギルドから出るぞ」
「はい」
俺はダレン達をともなって荒野を目指している。話すにしてもサンクチュアリでは目立つので、郊外に出るだけだ。緩衝地帯から抜けなければ危険度は低い。
「まず、お前たち! 俺は初対面の人間だぞ。郊外まで警戒もせずついて来るのは危機意識が乏しい」
「えっ!」
「まあ、用心しろということだ。人は善人にも悪人にもなれる。それに甘い言葉には注意しろ」
「はい」
「そこの空き地に座って話そうか」
エメリと俺を中心にダレンと仲間たちが取り囲むように座る。自己紹介したあとで違和感を覚えた。
俺はそれが何か気づいてしまう。このパーティーは誰が見ようとダレンハーレムそのものだった。実際のところ、雑用しかできない女子グループに、役立たず認定されたダレンが放り込まれたようだ。
納得である。であるのだが、この雰囲気は何だ。
「お前たちが攻略隊から外された理由に心当たりはあるか?」
「んんっ、足が遅いから?」
妙な口癖の女が一生懸命に回答した。どうも、何も考えていないらしい。
「料理下手」
この女は適当に答えたようだ。横着そうな感じがする。
「性格が暗い」
回答した女の容姿は飛びぬけていて、顔は整っているが思い込みが強そうだ。
あと一人は俺を見て微笑んだ……。前歯が一本なかった。
俺は頭を抱えた。本質はそこじゃないだろ。
エメリは面白そうに笑いながら、地面に絵を描いている。
「質問を変える。サポート要員に必要なものは何だ?」
「んんっ、移動の準備に荷物運び?」
「武器や防具などのお手入れや機材の修理」
「夜のお相手」
「おい、最後のは絶対にやるなよ!」
先が思いやられる。
俺は肩の力を抜き、女達を見てため息をつく。喋らないのはもっと質が悪いが、ダレンがなぜ喋らないのかも気になる。
「えっとだな、機材の運搬は収納箱があるから不要だ。それに修理や手入れなどは、ゲートの魔道具を使って攻略隊拠点に転移して行う。要するにサポートメンバーの主要な仕事ではない」
「知らなかったよー」
「サポート要員の使命は撤退経路の確保と仮想安全地帯の設営にある。あとは探査や結界維持くらいか」
「ふぇーそうなの?」
変な口癖の女が食いついてくる。というか、相槌の一種かもしれない。
「話していて思うのは、お前たちは本当に深層部に行く気はあるのか? 潜る目的はなんだ」
「んんっ、ロマン」
「有名になりたい」
「婚活」
彼女たちの考えを聞いて俺は無意識に息を飲む。これは探索者失格である。当然ながら攻略隊から切られるわけだ。
「なんとなく理解した。ところで、攻略隊から外されたことについて、今どう思ってる」
「んっ……悔しい。でも努力しなかった」
「まだ、諦めない」
「呪い人形で呪殺する」
「きっと僕は恨みを晴らしてやる!」
その後も後悔や寂しさ等の意見が出た。ネガティブ思考に気が滅入ってくる。
しかたない、この俺が矯正しよう。
まだ潰れて無いようだし。矯正してやろうじゃないか。
その後も意見交換してある程度の本音は掴むことはできた。まだ、諦めない。それが今の彼らの気持ちだ。俺はそれを尊重しよう。
「よし、このくらいにしようか。もし、本気で深層を目指すなら俺のところに来い。ギルドのフラン嬢に話してくれ、正式に受け入れてやる。個人単位でもいいぞ」
「はい、相談して決めます」
「ところで、ダレン少し残ってもらえないか」
「はい?」
俺は女子共がサンクチュアリに消えるまで待って話し出す。エメリは気を利かせてサンクチュアリに戻っていった。
緩衝地帯からは荒野が一望できる。そこには多肉質の植物と草が所々に生えた荒れ地だ。荒野は人を拒絶している。
何の気なく上空を見上げると、空高く鳥が舞っていた。
俺は
「ダレン、お前はサポート職を望まないのか?」
「お気づきですか、僕の父は探索者で憧れでした。父のように前線で戦いたい。それが目標。ですから、サポート要員など……」
「話してくれてありがとう。希望は理解した。だがな、役割に上下はない。それに攻略を目指すとき必要なのは自立することだ。自らの身体を守れぬ者が、他人を守ることなど不可能!」
閉鎖域、それも深層に潜る場合、自衛手段はなくてはならない必須技能でである。生存して帰れるか、その指標になるのが防御術なのだ。
ダレンはこだわりがあるようで、堰を切ったように話し始める。
「僕は戦闘職に向いてない。それでも、剣士として生きることを諦めたくないのです。僕をレイリーさんの弟子にしてください」
「弟子など取らん」
「えっ……」
ダレンは酸欠の魚のように口を開け閉めしている。
おい、鼻水を垂らして絶望するな……。
「勘違いするな。こんな俺が弟子など取れるわけがないだろう。俺に付いて来ることができるなら鍛えてやろう」
「あ、ありがとうございます」
「パーティーメンバーの彼女達とは別行動になる。よく話し合うことだ」
「はい」
ダレンと別れた俺はサポート要員を一から育て、ダレンのような者も鍛え上げることを誓う。今の俺にはそれしか方法がない、情けなくなるがこれも試練と諦めることにした。
しかし、廃棄騎士や脱落探索者を迎え入れるとなると準備が大変だ。
いやいや、ネガティブに流れるな、ものは考えようだ。
やっと前に進みだせたと捉えよう。
気配を感じる。それは、枯れ木に止まった小鳥だった。
午後の日差しが眩しい。
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