第05話 エメリ
ビオニクと別れてギルドのエントランスで人を待っている。攻略隊に関しては数日待てば何か情報を入手できるだろう。神父に会うには王家の伝手か、聖教会に出向く必要がある。
当面は単身で訓練するしかないということだ。
考え事をしていると見知らぬ少女に声を掛けられる。
「レイリー様ですね」
栗毛をポニーテールにした痩せ気味でそばかす顔の少女。愛嬌あるしぐさの少女だ。この年齢の少女に知り合いはいない。
「ああ、そうだ。君が担当員か?」
「はい、初めまして。担当を任されてしまったギルド職員見習エメリです。宜しくお願いします」
「よろしくな。ところで、任されてしまったとは俺に不満でもあるのか」
「あ、本音が口から洩れました。だって、巷で有名な働かないナンバーワンの担当ですよ」
歯に衣を着せない物言いは、少女のキャラクターから許せてしまうが、なんとなくいい気はしない。
「手厳しいな。事実だけに」
「思ったより変人ではなさそうですね。働かないおじさん!」
「何度もそれを口にするな。気が滅入るだろ……」
「ところで、私は何をすればいいのでしょうか。上司からは侍女のごとく身の回りの世話、事務手続き、掃除洗濯といったところを指示されています。抜けていればおっしゃってください」
テンポよく思ったことを羅列する少女は妙な魅力を振りまいている。頭の回転は速そうだが、かなりマイペースだ。
「話の切り替えが早いな。侍女と洗濯婦を兼ねるとはハードだな。住み込みで働くつもりなのか?」
「内容からすると住み込みが理想ですね。でも、夜のお相手は辞退します」
「お前何歳なんだ。子供とやる性癖はないぞ。だいたい、俺の娘はお前よりも年上だ」
「まあまあ、恥ずかしがらないでください。こんな美少女だからって」
「どう見たら美少女になる。愛嬌はあるが美女設定には無理があるぞ」
「ねえ、おじさん。どこに住んでるの。私は着の身着のままなので、すぐ転居できますよ」
非常にやりにくい。話は折られるし、興味本位に話は流れ、行きつく先が予想できない。わかってやってるのだろうか。
「人の話を聞かないな。まあいい、王家に相談するから住居はどうにでもなる。今日から働くなら侍女の詰め所を使え。今は無人だ」
「ちゃんとした部屋なら大歓迎です」
「そういえば、何年も人が住んでないから掃除しないといけないかもな」
「大丈夫ですよ。路地で寝ていたこともありますから」
さらっと重い話題に飛ぶし、過去に訳ありというか出自に何かあるのだろうか。興味は尽きないがあまり踏み込まないほうが良いだろう。
「浮浪者か孤児だったのか」
「はい、お気になさらず、過去は遠い昔ですよ」
「何歳なんだよ……おまえ」
「エメリは12歳」
「若いな」
エメリの相手をしていると心がチクチク痛くなる。イオラとはこんなに会話したこともなかった。俺はイオラへの贖罪としてエメリに対峙しているのだろうか。
違うな。罪から目をそらすため、父と娘を演じているだけだ。
エメリを連れてギルドを出ようと総合受付に通りかかったところ、若い身なりのいい男が先ほど案内してくれた受付嬢に絡んでいた。
「あ! おじさん! ナンパ師のニコラウス王子ですよ!!」
「なんだ、有名人か」
「反応薄いですね。もうちょとリアクションの練習をしてください。えっと、王子は若くて綺麗な女性なら妾、ハーレム要員としてしか見ない。やることしか考えないクズですよ。危険人物ですよ」
「お前は対象外だと思うが何か恨みでもあるのか?」
「あ、痴漢してる!!」
確かに抱き寄せて触りだしたな。さてどうしたものか。
まあ、止めに行くしかないのだが。
俺は魔法で王子とやらの髪を燃やした。無詠唱なので誰がやったかわからない。髪の焼ける異臭があたりに充満して。王子も異変に気づき騒ぎ出す。
「君、こっちに」
王子に絡まれていた受付嬢の手をとり、騒ぎの只中を職員の詰め所前まで誘導した。犯人捜しで忙しそうな王子は、こちらのことなど気にしてない。
エスコートしている受付嬢と目が合う。
「助かりました。ありがとうございます」
「なに、礼はエメリに言ってくれ。気がついたのはこの子だ」
「おじさんいい人だね。助けるとは思わなかったよ」
俺は受付嬢と別れて先ほどの騒ぎがどうなったのか確認に向かう。どうせ八つ当たりか魔女狩りでもしていそうだが。
王子は予想どおり犯人捜しの最中で、輝く頭を落ち着きなく動かし何やら叫んでいる。笑えるが、髪がないと中年男と区別がつかない。
「禿げると20歳くらい老けて見えますね。おじさん」
「案外老け顔だな。あいつ……」
「おじさん面白いですね。さて、誰が犯人にされるか賭けをしませんか?」
「悪いが、興味ない」
エメリはぶつぶつ文句言っていたが、賭けるものがないので辞退しただけだ。
どのような落としどころを見出すのか興味本位で観察していたが、取り巻きの女たちが争いだした。女共も面倒な奴らだ。
関わり合いになるのは避けたい。
「泥沼だな。ところで、王子は閉鎖域を攻略してるのか?」
「痴女ハーレムで深層目指してますよ。サポート要員が優秀ですから……」
「親の権力を借りて好き放題か。名ばかりということなのか」
「二人の王子と違いコリンフィールズ王家ではマデリー王女が実力者です。母親の違いが頭の出来に関係しているとか。もっぱらの噂ですが」
エメリは妙に情報通だ。オバサンネットワークに属しているのだろうか。俺もおっさんだから人のことは言えないが。
観察していると一人の青年が王子の前に現れる。
どう見ても貴族だ。
「殿下、宮殿に戻る時間にございます。犯人捜しは我々にお任せください」
「あぁ、時間か。あとは任せた」
女どもと王子は男の提案に乗りギルドから立ち去った。残った男は王子が去ったのを確認して、俺のところに来る。
「先ほどは機転を利かせていただき有難うございました。王子は明日には忘れていますから、お気になさらず。それでは失礼いたします」
「気苦労が絶えないな」
男は爽やかに笑って立ち去った。
あの役は大変だろうな。どう考えても尻拭いばかりだろう。
「さっきの騎士も有名ですよ。フレーゲル侯爵」
「若いのに当主か」
「おじさんからしたら誰でも若そうですよね」
屈託なく笑うので突っ込みにくい。エメリ相手は面倒だ。
ギルドからの帰り道でも会話は途切れず、完全にペースを握られている。
そして、住居の隔離域に戻ると面識のない女が一人待っていた
見覚えはない。
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