第10話 エピローグ
三月の第二土曜日に俺たちは曙高校を卒業した。
曙高校の卒業式はどんな格好で出席してもいい。ほとんどの男子生徒は大学の入学式も兼ねて作り立てのスーツで参加し、女子生徒は晴れ着やドレスで参加する。
俺と伽藍は無難な黒のスーツを作り、進藤は明るいグレーのスーツを着てきた。
「お前らもうちょっと遊べよな。高校の卒業式なんて人生で一回しかないんだぞ」
「一回しかないから使いまわせる無難なスーツがいいんじゃないか?」
「俺も黒だから人のこと言えないけど、伽藍は背が高いからその分圧が凄い」
ライラと千夜子さんと珊瑚は晴れ着を着ていたが、愛里はドレスだった。
「私も晴れ着にしておくべきだったかなー。着付けが面倒だし別にいいかなと思っちゃったんだけど、他の生徒もほとんどみんな晴れ着だね」
「愛里はスタイル良いからドレスの方が似合うよ」
「アイリのドレスもサンゴとチヨコの晴れ着も可愛いよ!」
「ありがとう。ライラちゃんの晴れ着も珍しい色だけど凄い似合っているよ」
卒業式はあっとう間に終わってしまい、卒業アルバムに寄せ書きをしたり、各自写真を撮りまくり、それが終われば他のクラスの友達が来たり、こちらから出向いたり、部活で集まるからと集合をかけられたり、とにかく忙しかった。
卒業式のテンションの高さはそこまで仲の良くなかった同級生との垣根を壊し、もう会わないであろう友達と別れを交わした。
最後ぐらい挨拶しておくか、と物理準備室に寄っていく。
写真を撮りたがる生徒が多く、しばらくカメラマンを任されてしまった。
一通り生徒が用事を済ませるのを教室の端でぼんやりと待つ。
いつでも会えるのだが、せっかくなので生徒のうちに挨拶をしておきたい。
「卒業おめでとう。あっという間だったね」
「この二年間は特にね。叔母さんの掃除の手伝いなんてしてなきゃ、もう少し落ち着いた高校生活だったんだけどね」
「私の物持ちの良さのおかげで楽しい思い出が出来たんでしょ。感謝してほしいわね」
「そうだね。めちゃくちゃ感謝しているよ」
「春休みに顔を出すって姉さんに言っておいて」
「わかった。ついでに大学の入学祝も期待してるよ」
物理準備室から出ると、そろそろ下校の時間だった。
教室に戻り、みんなと合流して校舎を出る。
俺の中にまだ悪魔はいるんだろうか。俺が気付いていないだけでみんなも悪魔と戦っていたのだろうか。
卒業することは寂しいはずなのに、みんなの顔は晴れやかに見える。
三年間通った通学路を噛み締める様に、ゆっくりと蟻の様に列を作って立川駅に向かう。
四月から別の道を歩むことになっても、四年後に住む場所が遠く離れてしまっても、一生付き合っていける友達ができたことに感謝する。
左手にはめた指輪を触る。
何回擦ってももう願いは叶わない。
これからは自分の力で手に入れなければならない。
いや、友達と好きな人と力を合わせて手に入れよう。
履き慣れない革靴と下駄で七人の歩幅は合わないが、向うところはみんな一緒だ。
青春に巣食う悪魔と私を救う青春 アミノ酸 @aminosan26
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