48:勘違い男の末路 ※暴力・残酷な描写があります。




「俺を誰だと思ってる!」

 俺に命令してきた男を向かって怒鳴りつけてやる。

「あ?馬鹿な事して婚約破棄された上に、逆恨みして罪人に落ちた最低野郎だろ?」

 心底あざけるように言った男は、あろうことか俺に水をかけてきた。


 ここは、罪人が罪を償うという名目で扱き使われている開拓地だ。

 とにかく力仕事しかない。

 罪人は金がかからないから、都合が良いんだろうな。

 俺みたいにで来た奴はいないらしい。

 皆、諦めて暗い顔で大人しく働いている。


 石を運んでいたタイヤが1つしかない荷車をひっくり返した俺は、そのまま寝転がっていた。

 もう体力の限界だったからだ。

 それを罵倒し、よりによってこの男は水を掛けてきたんだ!

 ふざけんな!



「しょうがない。明日からお前は力仕事はしなくていいぞ」

 水を掛けられた事により、俺は熱を出した。

「は?」

 意味が解らず聞き返すと、丁寧に説明された。

「力仕事が出来ない奴用の仕事がある。お前なら。明日からそこへ移動だ」


 何だよ、そんな所があるなら、最初からそこで働かせろよ。

 俺は熱で朦朧としながらも、力仕事をしなくて良くなった事を喜んだ。




 抱えるように運ばれた場所は、今までの板の上に布を敷いただけの硬いベッドとは違い、ちゃんとした布団があった。

 こんな良い所があったなんて!

 喜んだのもつかの間、見知らぬ男達に拘束された。

 ベッドに寝転がらされた俺の上に、押さえつけるように三人の男が乗ってきたのだ。


 俺は、熱で力の入らない体で抵抗した。

 いわれの無い暴力。

 顔を殴られ、無理矢理押さえつけられた腕は、変な方向へ曲がった。

「ぎゃあああああぁぁぁ!!」

 俺が悲鳴をあげると男達は笑い、「おっと、貴族様はもろいな」と馬鹿にしたように吐き捨てた。


『力仕事では無い仕事』の意味を理解した時には、俺は尊厳も体も犯された後だった。


 利き腕を折られた俺は、全てを他人に世話される事になった。

 そして、世話した男にお礼として体を差し出すのだ。

 やっと腕の骨折が治ったら、今度は足を折られた。


 ここは働けない理由が無いと、居る事が出来ない部屋だからだ。

「働く!力仕事でも何でも真面目にやる!」

 俺はそう訴えたが、男達は下卑た笑いを浮かべるだけだった。



 腕も足も、何度も折られた。

 理不尽な暴力。

 何で俺がこんな目に遭わなければいけないのか。

 納得出来ない。だが、俺には何も出来なかった。


 俺が諦めると、折られるのは指になった。

 もう逃げないのだと、自分の仕事を受け入れたのだと、そう理解されたからだ。




 あれから10年近く経ち、俺は刑期を終えた。

 殺人未遂罪にしては短いが、模範囚として刑期短縮されたからだ。

 何度も骨折した体は、普通の力仕事をするのも厳しかった。


 だが慰謝料はまだ全然払い終わっていない。


 何となく昔の屋敷跡に来ていた。

 今では公園になっている。


 幸せそうな家族が、俺と同じように公園を眺めていた。

「マルツィオ、帰りましょうか」

 女の方が子供を抱いた男にそう声を掛けた。


 俺をおとしいれた男だとすぐに気付いたが、今の俺は平民で前科者、相手は貴族だ。

 何かすれば、それこそ罵倒しただけでも俺は地獄あそこへ逆戻りだ。


 俺は、幸せそうな貴族の家族を、睨む事しか出来なかった。




 終

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

これにて終了です。


また次作でお会い出来たら幸いです

(*^_^*)

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思い込みの激しい方ですね 仲村 嘉高 @y_nakamura

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