47:エピローグ

 



「ママ~、どうしたの?」

「何でも無いわよ」

 手を繋いで歩いていた5歳になる息子に笑いかけます。


 幼い我が子と散歩中に、広い公園の前を通りました。

 そこでつい、足を止めてしまったのです。

 ここは元は伯爵邸が在ったのですが、覚えている方はどれほどいるのでしょうか?


 私は元婚約者の屋敷跡なので、勿論覚えております。


 初対面で舌打ちされたのは、後にも先にもあの一度きりですわ。

 タウンハウスを貶されたのも、でしたわね。


 そういえば一度、領地の屋敷へ招待した事がありました。

 私の学園入学前でしたわ。

 確か親戚の集りがあるので、顔見せした方が良いのでは?とその頃はまだ思っておりました。


『田舎なんて行ってもつまらない』


 そう断ってきたのでしたわね。

 王都より栄えていると言われているアンドレオッティ子爵領を、なぜ田舎と呼ぶのか当時は不思議でした。

 サンテデスキ伯爵領が基準だったのですね。

 今なら理解出来ますわ。


 手紙でのやり取りでしたが、季節の挨拶も何も無く、ただあの一文だけのふみでした。




 今頃、どこで何をしていらっしゃるのかしら?

 まだ慰謝料を払い終わっていないはずです。

 弁護士に任せきりなので、よくわかりませんが。




「ジュリア」

 後ろから名前を呼ばれました。

 あら、グズってた娘を抱っこで連れて来たのですね。

 マルツィオったら、娘には甘いので困ってしまいますね。


「泣いてるからって抱き上げてばかりいては駄目よ」

 泣けば良いと覚えてしまうわ。

「でも、君に似ていてつい甘やかしてしまう」

 もう。駄目な夫に、駄目な父親の典型ね。


 これで仕事では、情け容赦ない商売人なのですから、人間って不思議ですわね。




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後1話、勘違い男の話があります。

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