彼女のせいにして、自分を守っていた僕は卑怯だ。
「今日から5日間成人看護学を学びにきた看護学生4名です。よろしくお願いします」と実習生が挨拶をする。
それが引き金となって、僕は彼女のことを思い出した。
点滴スタンドやワゴンなどが置いてある物品置き場で「疲れたー」と言いながら僕に抱きついてきたり、実習担当の教員が目の前でアドバイスをしている時に、机の下で僕の手を握ったり太ももを触ってきたりして、僕らはスリルを楽しんでいた。
恋愛にはいい思い出も悪い出もある。みんなそうだろう。
だけど僕は楽しかった思い出はなかったことにして、彼女に言われた「元カレのほうが良かったな…」という悪い思い出に囚われていた。
恋人ができていい感じの雰囲気になっても「俺実はこういうことがあってさ… うまく出来なかったらごめんね」と予防線を張り、相手に気を遣わせ自分のことを守っていた。
恋愛がうまくいかなかったら、全部彼女のせいにしていた。好きな女の子に告白する勇気がないのも、満足させる自信がないのも。すべて彼女のせいにしていた。最低な男だ。
だけどそれだけ怖かったんだ。次は別の女の子に「元カレのほうが良かったな…」とガッカリされたらと思うと何もできなかった。
人はよく嫌なことがあっても時間が解決してくれるという。物事の渦中にいたときは見えなかったものが、時間が経つことで冷静に捉える余裕が出てくるからだろう。
僕は8年かかった。ずっとあのときの記憶を無くしたいと思っていた。今でも恋愛に自信がないことに変わりはない。
だけど、ずっとトラウマだと思っていたことを描くことで「なんだ、僕の人生も意外とドラマチックじゃん」と思えた。
過去は解釈次第でいくらでも変えることができる。誰にだって抱えてる闇はあるはずだ。自分だけ悲劇のヒーロー顔しているのはダサすぎる。
My Hair is Bad「虜」に『みんな最初を欲しがるけれど 、僕はそんなのいらない 。いいんだ、その最初のおかげで 、今の君がいるんでしょ。』という歌詞がある。
色んなことを経験して、傷付いて、落ち込んで、それでも生きて、今の自分がある。
誰も僕のことを相手にすらしてなかった。彼女がいなかったらもしかしたら僕はまだ童貞のままだったのかもしれない。
もし、今の記憶を保持しつつ過去に戻ることができたとしても、僕はまた彼女と関係を持つだろう。
傷つくことがわかっていても、目の前で好きな女の子がボロボロになっているのをほっとけやしない。
あの頃の僕に彼女が必要であったのと同じように、彼女にも僕が必要だったんじゃないかな。そう思うことにした。
「元カレのほうが良かったな...」と彼女はつぶやいた。。 ネズミ @samouraiagent
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