「元カレのほうが良かったな...」と彼女はつぶやいた。。
ネズミ
私、好きって言われたら好きになっちゃうんだよね
大学2年の春休み。看護実習のための準備で学校に来ていた。入学式のときから可愛いなとは思っていたが、話したことはなかった。
そんな彼女と実習のグループが同じになったことで、接する機会が急激に増えた。
「春休みに実習かよー」と愚痴をこぼす学生が多い中、僕は浮かれていた。
実習は4人グループで2対2に分かれて、車椅子移乗や体位変換などの練習をしていた。
彼女は身長が145cmで僕が174cm。
約30cm身長差がある僕をベッドから車椅子に移すために密着するたびに、彼女の香りや柔らかさが伝わってきてドキドキしていた。
「ねぇ、ちょっと休憩しようよ」と彼女が提案してきた。
「じゃあジュースでも飲みますか」と応える。
「私カフェラテね!」といい、僕を見上げる。
背が低いという自分の特徴を自覚しているのだろう。そんな上目遣いをされたらどんな男でもイチコロだ。
その破壊力に耐えきれず、僕は目を逸らし、「ほいほい」と返事をした。
「今ドキッとしてるでしょ!」と言いながら僕の顔を覗き込んでくる。
「してねー… うわっ」と思わず情けない声を出してしまった。
動揺して、階段を踏み外したのだ。
「うわー、ダサすぎー」と俺の醜態を見て笑っている。
恥ずかしかったが、隣で笑っている彼女を見れて悪い気はしなかった。
「お待たせしました。こちらカフェラテになります」と喫茶店の店員風に言って彼女に渡した。
彼女はいじっていたスマホを机の上に置き、ありがとうと言って受け取った。
「上村君とあまり話したことなかったけと、かわいいんだね」
「バカにしてるやん」
「おっちょこちょいだしね」と言って笑う。先程階段で落ちかけたのを思い出しているのだろう。
「彼女いるの?」
「いないよ」
「あれ、彼女いるって誰かから聞いたんだけど」と言って首を傾げる。
あー、と言って間をとる。脳内にプールの監視員のバイトで知り合った元カレの顔が浮かんだ。
「去年のことかな。キスすらせずに別れたよ。中学生の恋愛かよって感じやろ」
「もしかしてその子が初めての彼女?」
「恥ずかしながら…」
「ってことは…」
「お察しの通り童貞だよ。ファーストキスすらしたことない」と素直に答えてしまった。
急に恥ずかしくなり、ブラックコーヒーを一口飲み、なんで俺こんなこと打ち明けてるんだろうと我に返った。...もう手遅れだが...
「へー、童貞なんだ」と言って、彼女はいたずらっ子のように微笑んでいる。
「そっちはどうやと?」と話題を逸したくて、彼女に質問した。
「んー、どうでしょうねー」といとも簡単に躱されてしまった。
「じゃあ好きなタイプは?」
「私、好きって言われたら好きになっちゃうんだよね」
普段は学生で溢れかえっている大学の食堂に今は2人きり。目の前にS級の美女がいることにまだ違和感を覚える。
「…そういうもんやと?」
「そういうもんでしょ。好きって言われたら、それまで何とも思ってなかった人でも意識しちゃって、気づいたら好きになってるみたいな」
「俺、谷口さんのこと好きだよ」
告白するつもりなんてなかったが、思わず言ってしまった。
「はいはい」と彼女は軽くあしらった。
「嘘じゃないよ、俺ホントに好きだよ」と彼女の目を見てもう一度言った。
「意識しちゃうじゃん」と言って彼女は笑った。
その日も学校で看護技術の練習をする予定だったが、30分待っても彼女は現れなかった。
『今日も練習やけど、もしかしてまだ寝てる?』とLINEを送った。
しばらくしてブーブーと僕のスマホが震えた。彼女からの着信だった。
もしもしと言って電話に出た。
「…ごめん…ちょっと私のうちに来れる?」と彼女は言った。
いつもより声のトーンが低く、何かあったことは容易に想像できた。多分泣いた後だと思った。彼女から指定されたコンビニの前で待っているとジャージ姿の彼女が現れた。いつもとは違って髪も乱れており、化粧もしてなかった。
彼女の目元を見て、やっぱり泣いた後だと確信に変わった。
「こんな姿でごめんね」と彼女が言ってきた。その声にいつものような力はなかった。
「何かあったの?」と僕が聞く。
「ここじゃちょっと…家に着いたら話すよ」と彼女は言った。
鈍感な僕でも気づいた。彼氏に振られたのだろうと。
コンビニから歩いて約3分くらいで彼女の家に着いた。
部屋は散らかっており、ブラジャーが部屋干しされたままだった。
彼女は童顔で服装もおしゃれではなかったが、下着はとても大人っぽかった。
ギャップがすごいなと思って物色していると、彼女が急に抱きついてきた。
彼女は僕の耳元で「抱いて」と囁いた。
「…からかってる?俺童貞なんだよ」とわざと明るく言った。まさかこんな展開になるなんて思ってもいなかった。
「私が教えてあげる」と言って僕の手をとり、自分の胸に当ててきた。ブラジャーはつけておらず、手に柔らかい感覚が伝わってきた。
生まれてはじめての感覚に、頭は動揺していたが体は正直で何回か揉んでいた。
「はぁ、はぁ...」と彼女の息遣いが荒くなっていく。引き返せないところまで来てしまった。もう友達のままの関係ではいられなくなることを僕は悟った。
「知ってた?左のほうが気持ちいいんだよ」と言って、僕の手を服の下に誘い込む。
「だから童貞の俺が知ってるわけないじゃん」
彼女の目が潤んでいて、何かのスイッチが入ったかのようだった。僕の知らない彼女がそこにいた。冗談で抱いてといったわけないことはわかった。
次は何をすればいいのかわからず、しばらく左胸を揉み続けた。服の上からとは違って、直接触るとより柔らかかった。
昨夜見たAVを脳内で辿って、正解を探す。そうだ、キスをしようと顔を近づける。
「ファーストキスは私じゃないほうがいいと思うよ」と言って、彼女は僕の唇に人差し指を当てた。
彼女はブラジャーをつけながら、「元カレのほうが良かったな...」とつぶやいた。
僕は聞こえなかったふりをしてパンツを履いた。
あの日以降、彼女は淋しくなったら夜中でもスタンプを連打してきた。
僕は自転車を40分間走らせて彼女のもとへ向かった。彼女は元カレに振られた辛さを紛らわしたいだけで、僕のことを好きではないことは知っていた。
だけどそれでいいと思った。どんな理由であれ頼られていることが嬉しかった。
「元カレのほうが良かったな...」
何度も脳内で再生された。それを掻き消したくて、朝も昼も夜も触れ合った。だけど彼女は物足りなさそうだった。
何度目かの夜。僕は彼女とキスをした。
「せっかく取っておいてあげたのに、私で良かったの?」
「谷口さんがいいんだよ」
「なんで?」
「好きだからに決まってるじゃん」
「あーあ、私のこと忘れられなくなっちゃったね」と言って彼女はまたキスをしてきた。
ブーとスマホが唸った。またスタンプの連打かと思ったが、1回しか震えなかった。
何故か嫌な予感がした。
ふぅーと大きく息を吐き、メッセージを見ると『ごめんね。元カレとより戻しちゃった。私とのこと誰かに話したら自殺するからね』と書かれてあった。
僕の目の前でリストカットしかけた彼女から言われると、冗談とは思えなかった。
「元カレのほうが良かったな…」とブラジャーをつけながらつぶやいた彼女がまた浮かんできた。
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