3

 くりかえし、くりかえし。かえし、くりかえし、くりかえし。わりはどこにもない。


 なぐられることにれたからだはゆっくりかたむき、こころゆがむ。他人たにんいためつけることを許容きょようするなやみだ思春期ししゅんきに、いったいどんな意味があるんだ。あれをあいだの、しんらいだの、あまえだのとぶにはあまりにあたまがおかしくないか。

 うるさい、うるさい。いいかげんにしろ。

 みみりがこえて、かいおとはまるきりとおい。かみうえおどだけはたしかにおとかんじたけれど、それだけだ。

 べつ昨日きのうは、あしかれただけだけど、明日あしたかはわからない。

 らいげつもわたしはこうしてきていられるだろうか。


「ごめん、サト。今日きょうむものなんにもないんだ」


 そうげれば、サトはきょとんとしたかおわたしつめた。


「どうして? なにがあったの?」


 それから、ちょっとあんそうだった。ああ、ぜんぜん、いつもみたいにつくろえていないみたい。

 うまくわらえ、うまくわらえ。こわれていないふりをしろ。


やぶられちゃった」


 ふざけたようにわらってわたしふくろからひろげたかみくずをサトはひょうじょうつめていた。


「もうしょうせつくのはやめようかな」


 なんでもないようにじょうだんめかしてった。


 なにもかも、つかれていた。


 つかれることにすら、つかれていた。


 だから、ばらばらとゴミばこにゴミをれる。いえのゴミばこてるのは、なにけたがするから。


「キクちゃん、さすがにそれ、ひどすぎじゃない? だれかにった?」


「ムリムリ。どうせ、きょうだいげんでしょってわれるだけだし、おばあちゃんのいうことなんかかないし。けんしつせんせいは、おねえちゃんもなやんでるからってってた」


 どこまでっても、おんなじだ。ごくべたできゅうをするだけ。いたいたいとわめいてせても、みんなどおりするだけ。うばわれて、だまらされるだけ。

 だれわたしきょうなんてない。

 みんなのへいおんせいかつのために。なにもんだいがないようにせかけるために。


かえろうか。明日あしたなにさがしてるよ。なにがいい?」


 わらえ。わたしもおまえわらえ。


 つよがるしかない。なにもできなくても、わたしはきっとつよいし、かしこい。だから、だいじょうだ。きっとしなない。でも、しにたい。


「キクちゃんは、かえっていいよ。わたし宿しゅくだいしてからかえる」


 そのへんとうくるったあたますこしだけ、すとんとれいせいになる。だから、うまくわらえた。たぶん、きっと。


「そっか、うん。わかった。じゃあ、またね」

「うん、またね」


 かばんかついで、うしでがたんととびらめる。

 くるったしゅんのきょうだいがいるははおやのいないいえと、のつながらないきょうだいとははおやがいるいえ、どちらのごこわるいだろうかなんて、だれめられるだろうか。

 それなのにどこにもけやしない。どこにもまだ、けない。

 いたらこうぶってるって、またなぐられる。

 つかれた。しにたい。どうにもならない。しにたい。しあわせになんて、なれない。


 このこころもじんせいもすべてててしまえたらいいのに。


 そして、そんなことやしないとかんがえなくてもわかってしまう。

 わたしがわたしをころしたとき、それはいったいだれにころされたと、うったえるひとがいるんだろうか。

 ながし、あねはあれほどおこっていたのにもかかわらず、うはずもないたんじょうプレゼントのやくそくをしてくれた。

 でんぐちちちおやはいつもどおり、のらりくらりとごとゆうなにもするはないらしい。


 かいかなしみにちている、かいくるしみにたされている、ぜつぼうに、いたみに、きょに、うそに、あきらめに……。

 かいいたみにたされている。

 たぶん、これがきっといちばんうつくしくて、ふさわしいことだ。



 ああ、あきれた。


 いつものくせことさがす。わらうことも、あるくことも、べてねむることさえいやがさしているのに。

 わたし結局けっきょく、そういうものらしい。


 ぐるぐるとねつびたこうおかされている。けいこうとうかれるで、うすぐらでむさぼるようにものがたりした。

 こわれたせいしんばんそうこうるように、わりにじゅぎょうちゅうねむくてかたなかった。きょうのがなるようにったこえは、たんじゅんあたまひびいてつらい。からまわった換気扇かんきせんみたいだ。

 れいせいさをいている。きょうはくかんねんじみている。ぐらぐらとかいゆがんでれて、せかいのどこにもっていられない。

 まえあしかせてぶらつかせながら、しょしつからてきとうりてきたどうしょのページをめくる。


 まないとやってられなかった。どうしようもなく。


 がらりととびらひらく、せっまったいきおいでサトがずんずんわたしまえにやってた。


「えっとね、キクちゃん、これ!」


 サトはわたしねこおおきくプリントされたクリアファイルをした。


「なにこれ?」

「いいから! けてみて」


 やけにうから、ちゃひまもない。わたしはファイルをって、ぺろりとねこかおをめくる。

 てきたのは、セロハンテープでつぎはぎにられたノートのページだった。


「どうして」

「だって、わたしはまだんでもらってないもん」


 たのしみにしてるから。と、サトはくったくなくわらって、がんったでしょ、とむねった。


 わたしだけのどくしゃわらった。


もうか。うん。もう」


 てらてらとひかるページをゆびでなぞる。ふたりだけのきょうしつわたしこえろうろうひびく。

 ゆうれのきょうしつにはいろいろおとこえる。そして、それよりもおおくのかんじょうわたしなかうずいている。

 しにたいとおもう。まだりないからしねない、ともおもう。


 ものがたりを、ものがたりを。


 まぶたのうらにもっとものがたりを。

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ふたりぼっち朗読会 あいさ @aisakatagiri

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