山の上の社にひとり、気性の荒い神を祀るために据えられた、とある巫女の物語。
純和風のファンタジー、というかもう、ほとんど神話に片足突っ込んでる感じの伝奇ものです。本当に「やまと」という意味での和、神道とかその辺の要素が色濃く存在する世界のお話、だと思います。たぶん。いや学も知識もないのでこの言い方でいいのかどうかわからないのですけれど、とにかくただひたすらに濃密かつ濃厚な、古い日本のエッセンスをそのまま浴びせてくるかのような作品でした。いや浴びるっていうかもう浸かるっていうか。
作品紹介文にある「執筆時間の七割ぐらいが資料集めと辞書引き」という文言は伊達ではなく、他ではなかなか読めない〝この作品そのもの〟が最大の魅力です。作品を構成する語彙そのものが、そのまま世界を構築していると思える、この言葉の選択の徹底ぶり。読むのにかかるカロリーは決して低くはないのですけれど、でもそのコストを支払ったからこそ見える景色が、しっかりそこにあるところがもう本当にたまりません。この世界なら普通に神が存在すると思える、この感じ。
だからこそ物語の部分、特に中盤からの展開にはゾクゾクくるものがありました。序盤に抱かされた何か神々しさのようなものや、それに対する敬虔な思いが、そのまま「惨く禍々しいものへの畏れ」に転換させられてしまう感覚。登場人物たちの持つプリミティブな信仰の形、きっと現代の我々にとっては縁遠いはずの感覚が、でも身に迫るような生々しさをもって読み手の脳内、しっかり再現されてしまうこと。その強烈な威力にただ打ちのめされる、とてつもない濃さをもった作品でした。