活動日記  後編

下の階に降りると、先ほどまで感じていた微弱の振動を悠々と上回るほどの振動が終始起こっていた。それほどまでに巨大なミュータントなのだろうか。これだけの振動を起こす敵と今尚、澪は戦っている。その証拠にこの振動と共に暗闇の奥の方から銃を発砲した際に見られる、微かな橙色の火花の光と共に銃声がこちらまで届いていた。この暗闇の奥で現在、戦っているのだ。


 私と透は、銃を構え銃声の鳴る方向へと暗闇の中進んでいった。一階だけあって、二階の明るさとは段違いの暗闇だった。辺りは目を凝らさなければ見えないほどであり、目が暗闇に慣れたとしても敵の不意の襲撃に対処できるほどの明るさはない。この音を聞きつけて、一階に敵が集まればそれこそみんな揃ってあの世行きだろう。敵が一階に集まる前に澪を助け出さなければ…!


 暗闇の中、前へ前へと進んでいくとようやく、それらしき敵を見つけた。ここまでくる途中で銃声が止み、不気味な静けさを纏う空間となったが、もしかすると澪がすでに敵を倒したかもしれないという微かな希望も感じていた。


 そして、だんだんと目が慣れて状況をはっきりと理解する――絶望した。


 四足獣の巨大な片手で澪は押さえつけられており、今にも噛みつかれてしまいそうな勢いだった。


「おい!こっち見ろよ!ワン公!(バババババババッ)」


 透が噛みつこうとしていた敵の注意をひきつけ間一髪のところでその結末を回避した。だが、銃撃を受けた四足獣はダメージを負うどころかその銃撃を意に返すことなく、再度澪の方に視線を戻した。


「くそっ!弱点はどこだよ…」


 私は、澪の方に視線を向けた。私の位置から澪までは少し距離があり、微かにしか澪のしていることは把握できないが、それでも何か藻掻き苦しんでいるようだった。どうにかして、巨大な手の拘束から逃げ出そうとしているのだろうか…。すると、四足獣の巨大な手の間から頭を出した澪は鬼気迫った表情をしていた。


「そいつにはしっぽがある!!」


「やべっ」


 透は、死角からの一撃により横腹にもろに攻撃を食らってしまった。そして、数メートルほど飛ばされて壁に背中から強く激突し、項垂れるようにぐったりと動かなくなった。


 視界の悪さに加え、しっぽの付け根が高い位置にあったため暗闇にうまく隠されており、認知することができなかった。


 私は、どうしたらいい…?どうすれば、うまくいく?分からない。怖い。手が震える。私に何ができるの…?銃すら扱ったことのない私は、みんなみたいに戦えない。無理だ。逃げたい。助けて。誰か、助けてよ…。


 異形な存在の唸り声だけが辺りを包み込むこの空間で私の動悸は、最高潮に達していた。だが、そんな私の焦りを唸り声だけが残る静かなこの空間で小さく呟かれた言葉が静めた。


「会いたいよ…。もう一度、ひぐぅ…。お兄ちゃん――」


 澪は小さく泣き声交じりに呟いた。


 いつも好戦的で戦いになるとはしゃぎ、それでいて仲間想いで私にだって優しい言葉をかけてくれたあの澪が泣いている。。私は、その目的をサポートしたい――。


【私は、まだ結衣のことを仲間として信じてないけど…】


 なんでこんな時にこんなこと思い出して……。


【使うときは、自分の身が危険に晒された時だけだ。約束な】


【誤って、仲間に発砲なんて笑えないからな】


 分かってる…。分かってる…けど、それでも私がやらなきゃ……。


【仲間に銃口を向けなければそういうの起きないから】


 そうか…。私、怖いんだ。この化け物に怖がってるんじゃない。仲間に弾が当たるのが怖いんだ。私は、銃を使ったことがないから…。恐れてる。澪に弾が当たってしまった時のことを想像してしまう。

 私が撃った弾で傷み苦しむ澪を見たくない。だから、私は今足が竦んでる。なんて、自分は情けないのだろう…。


【私は、まだ結衣のことを仲間として信じてないけど…。それでも、一つだけ言わせて。旅の目的があるなら旅をし続けるべきだと思う。後悔しないように。私は、その…。


 私は、強く拳を握った。


 そこで倒れている透に頼るため起こしにいくのは、確実に時間が足りない。その間に澪は四足獣に噛まれてやられてしまうだろう。それなら、私はどうすればいい?そんなのもう一つしかない。


 私…。私は――。


 ◇◇◇


 《澪視点》


「これで粗方、おしまいかな」


 私は、大量のミュータントの山を作り、手をぱんぱんと払い合わせて掃除完了といったモーションをとった。


『み、澪、弾の使いすぎだよ…。あ、あれだけ無駄遣いはするなって言ったのに…』


 満はいつものように私に対しての文句をぼやいていた。私もできることなら節約したいと思っている。ただ、敵が目の前にいるのだ、仕方がない。


『そ、それよりも目的地が近いよ。す、数メートル先にある施設の中に置いてあるみたい』


 あれのことだろうか。薄暗くてよく見えないが、店?というよりも壁に近いような…。もしかしてあれって…。


『ま、待って!なにこの反応…。ま、まさか…!進化体!?』


 満の声には、動揺が混じっていた。それもそのはずで、進化体というのはノーマルのミュータントとは格が違う存在だ。弱点を突くことでしか倒す手段はない。そして、厄介なのがだ。足だったり、手だったり、背中だったり、どこにあるかは手当たり次第といった感じなのだ。しかし、そう簡単に攻撃をさせてくれないのも厄介なポイントだろう。


『ば、ばれないように進もう』


「それはちょっと無理かも…目的の店前にいる。しばらく動かなそうだし、ここで待ってると他のミュータントが来る。ここで倒すしかないかも…」


『で、でも澪だって知ってるだろ?進化体の強さを…』


「分かってる。でも、ここで部品を手に入れないと次の探索地点でリスクが大きくなる。もう、弾を作る材料もないんでしょ…」


『わ、分かった…。上の階にいる二人に連絡を入れるよ。で、でも、それまでは絶対に戦わないこと!いいね?』


「ごめん…。それも、無理そう」


 目的の店前にいた四足型の進化ミュータントは、鼻をすんすんと鳴らし、そして何かに気付いたかのようにギョロッと私の隠れている場所に顔を向けた。


『死なないで!』


「健闘する…」


 そして、私は物陰から飛び出した。


 ◇◇◇


 四足型の巨大ミュータントは、一直線に私めがけて猛進する。私は、銃を構え私めがけて駆けてくる敵に真っ向から向かい合う形で走り出した。巨大犬型ミュータントと私の距離は、ものすごい勢いで接近する。


 もっと、もっとだ。もっと、ぎりぎりを狙え。


 敵と私の距離が近距離になった時、敵は向かってくる私を真っ向から噛みつくように姿勢を低くし口を開いていく。そして、敵と私の距離が目と鼻の先になった瞬間、私は敵の下に滑り込むようにスライディングをし、それを回避して敵の裏側に回った。敵は、一気に低くなった私に既に噛みつくモーションをとっていたので対処ができなかっただろう。


 私は、がら空きになった敵の背中に向けて銃を連射する。そしてすぐに近くの物陰に駆け、身を潜めた。


 ダメージはなし…か。


 背後には弱点がないらしい。弱点の位置が分からない以上、手当たり次第に確認していくしかない。しかし、残弾数には限りがある。手持ちの弾を見ても、残り三十発容量のマガジンが二つ。そして、今ので一つ使い切ったので、交換してあと一つしかない。


 戦慄が走る――。


 この残弾数で敵の弱点を見つけ倒すのは、正直不可能に近い。弾が尽き、あの鋭い歯で噛みつかれ四肢をもがれるのが容易に想像できる。


 冷汗が頬を伝う。


 分かってる。いくら足が竦もうが怖気づこうがやらなければならないのだ。仲間のためにも。逃げるわけにはいかない。まだ旅がしたい。旅をし続けたい。仲間たちと。ここで、あいつを倒さなければそれは叶わない。なら、私に与えられた選択肢は一つだ――。


 私は、残り一つとなったマガジンを強く握った。


「あいつを倒す――」


 敵は、キョロキョロとあたりを見渡し私の姿を探していた。すると、動きをぴたりと止め息を吸い込み始めた。そして――。


「ガオォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


 このショッピングモール全体に響くほどの大音量の叫びが辺りを包み込んだ。


「うるさっ…」


 私は、耳を強く抑え何とかその叫びに耐える。だが、その後急に敵は暴れだした。そして、近場の物を次々と片っ端から壊し始めた。私が隠れている瓦礫もまもなく壊されてしまうだろう。その前に私は瓦礫から飛び出し、敵が手を大きく振りかざし近場の瓦礫を壊して隙が生まれた瞬間を突き、敵の横に回り込んで攻撃を続けた。しかし、敵は意に返すことなく私の方に顔を向け、手を横薙ぎに振り抜いた。


 私はそれを間一髪で避け、相手の顔を狙って攻撃を続けた。それでも私が放った弾は、相手の弱点に当たることはなかった。ちょうど今の間で私が放った弾は三十発。残りマガジン数はたった一つだ。私は、マガジンを取り換える。


 敵は、私の姿を捉え、その鋭い歯が付いた口を大きく開き、私めがけて飛びかかってきた。私は少しだけ高さのある瓦礫を足場として使い、タイミングを合わせ敵の背中に飛び乗った。そして、銃を構え敵の背中の上を駆けながら、銃を連射していく。


「これでも…くらえぇぇぇえええ!!!」


 だが、背中側にも弱点はなかった。それと同時にある違和感を感じた。暗闇で視界が狭いのもあり、はっきりとは分からなかったが、高く持ち上げられた何かがあるのは確かだった。そう、それは…動物で言うところの――。


 そこで敵が激しく暴れだしたので、私は敵の背中から飛ぶように勢いよく飛び降りた。しかしそのまま無事に着地することはできなかった。その違和感の元。高く持ち上げられていた何かが空中に躍り出た私に向かって鞭のように叩きつけられた。


 私は、訳も分からず血反吐を吐くほどの痛みを感じた。そしてそのまま、床に強く身体を叩きつけられ数回転ほど繰り返し、仰向けの状態で勢いは収まった。だが、衝撃は身体に残り続けすぐに動かすことはできなかった。そして、敵は獲物を捕らえたといわんばかりに勢いよく飛びかかり、私をその巨大な手で床に押し付け、逃げられないように動きを封じた。


 残りの残弾数は、十五発。分かっていた。こうなることは――。それでも、私は。諦めたくなかった。そんなに簡単に仲間たちとの旅を諦めることなんてできなかった。透も満も私にとっては家族みたいな存在だった。まだ一緒に旅がしたい。したい――。


「おい!こっち見ろよ!ワン公!」


 それは、紛れもない仲間の声だった。


【ピンチになったら助けにくる。それが、ヒーローだ!かっこいいだろ?俺がいつでも澪のこと助けてやるよ。だって、俺はお前の――『ヒーロー』だからな】


 朧げな記憶。私の幼いころの思い出。いつも私のことを守ってくれる。助けてくれる存在。私はあなたにもう一度――会いたい。伝えなきゃ。


 私は、必死にもがき敵の拘束から無理やり脱出しようとした。押し付けられる強さが先ほどよりもさらに強くなる。息ができないほどにその拘束は強いものだったけれど、私はそれでも仲間のために必死に藻掻き続けた。その結果、その拘束から頭だけだがようやく抜け出すことに成功した。そして、私はできるだけ仲間に伝わるように大きな声で叫んだ。


「そいつにはしっぽがある!!」


 だが、その言葉を告げた時にはすでに手遅れであった。私が声を発した瞬間、すでに尾の攻撃は透に向かって迫っていた。そして、尾は透の体に勢いそのままめり込み、透は弾き飛ばされ壁に勢いよく身体を打ち付け、ぐったりと倒れこんだ。


 そこで、私は絶望した。唯一の希望であった透がやられてしまい、私に残された道はただ『受け入れる』それだけだった。私は、また家族を失った。どうして、私からいつも奪っていくの?私は、ただ幸せになりたいだけなのに。楽しくみんなと笑っていたいだけなのに。どうして、私から幸せを奪うの……。私を助けてよ…。


「会いたいよ…。もう一度、ひぐぅ…。お兄ちゃん――」


 自然と口から零れ出ていた。その声を言い終えて気付く。私は、泣いているのだ。死を受け入れられない自分がいるのだ。私には、。だから私は――死にたくない。諦めたくない。もう一度、会いたい。


「私だって!澪の仲間なんだぁぁぁあああああああ!!」


 その声は、私の不安を吹き飛ばした。


 ◇◇◇


 それなら、私はどうすればいい?そんなのもう一つしかない。


 私…。私は――。


「澪を助ける…!」


『決めたんだね。結衣ちゃん』


「私に銃の使い方を教えて」


『分かった。今から僕の言うとおりに操作するんだ』


 満の声は、普段と比べてとても落ち着いていた。私は、その声にすぅーと心が軽くなるのを感じる。心では、銃を撃つことを決意したとしても私の手は不安と緊張で震えていた。しかし、満の落ち着いた声はその緊張を解して溶かすように私の心に自然と入ってきた。


『その銃は、もうすでに撃てる状態にある。あとは、安全装置を外すだけだよ。右側面にあるセレクターの位置をAUTEに合わせるんだ』


 私は、SAFEの位置からAUTEの位置に変えた。


『そして、あとは引き金を引くだけで弾が出る。行っておいで、結衣』


 私は、銃を強く握りしめ澪にも届くほどの大きな声で叫ぶと同時に引き金を引いた。


「私だって!澪の仲間なんだぁぁぁあああああああ!!」


 思った以上に銃の反動が大きく、放った弾はあらぬ方向へと飛んで行った、しかし、数発は敵の横腹にばらばらな位置だが着弾した。敵は、私を相手にもしていなかったのか、こちらを全く見ていなかったが私が撃ちだした瞬間驚くほどの速さでこちらに目を向けた。


 次の瞬間私の放った一発がクリティカルにヒットしたのか、敵が急に怯み後ずさりした。そして、私の銃は弾切れとなり引き金を引いても弾が出なくなってしまった。その瞬間、私の前に先ほど床に押し付けられていた澪が颯爽と現れ、流れるように銃を構えた。


「危なっかしいわね」


 そして、澪の放った弾は敵の治りかけていない傷部分にすべて着弾し、敵はモール全体に響き渡るほどの絶叫と共に大きな音を立てて倒れた。


「た、倒した…」


 私は、今までの緊張が一気に解け、崩れるようにその場に膝をついた。


「大丈夫?」


 澪は、そんな私に優しく手を差し伸べ、立ち上がらせてくれた。


「ありがとう、澪」


「ん…それよりも、あのバカ起こして早くここから出よう」


 その後は、澪に所持していたマガジンを渡し、荷物回収をする自分の代わりに戦ってもらうことにした。澪の戦い方は、鬼神が如き豪快で素晴らしいものであり、目の前に現れたミュータントはその瞬間次々と澪によって倒されていった。透は、その後しばらくして目を覚まし、私と共に荷物回収を行った。透は澪から全く役に立たなかったからと澪の分の荷物も持たされていた。「あんまりだぁ…」と泣きべそをかきながらも、結構な量の物資を詰めた二つの荷物を悠々と持って歩いていた。


 そして、ようやく私たちはモールの外に出ることに成功した。


 ◇◇◇


 暗い室内から明るい世界に出たことにより、改めて実感する。


「私たち、生き残ったんですね」


「だね。まぁ、結衣に殺されかけたんだけどねぇ」


 澪は、私のめちゃくちゃな銃の使い方について、いたずらっぽく笑いながら肩をすくめて言った。


「い、いいじゃないですか!それで、生き残ったんだから…むぅ」


「いやいや、そういう問題じゃないだろ。これからビシバシ練習しないとな」


 透がその会話に便乗するように楽しそうに笑いながら加わる。


「戦ってすぐやられた透には、言われたくありません」


「それは言えてる。ぷっあはははは」


「こいつらぁ…」


 そんな会話をしていると、気付けば車の前にまで着いていた。


「み、みんな、お帰りなさい」


 満は、優しい笑みを浮かべて私たちを出迎えた。私は、あの時落ち着いて私に指示を出した満ちゃんに感謝を述べるべく、満ちゃんのところにすぐに駆け寄った。


「満ちゃん!あの時は、本当にありがとね!とても心強かったよ」


 その言葉に満ちゃんは、なぜか俯き、うわ言のように何かを呟いた。


「……ちゃん?」


 私の背後では、笑いを堪えきれず爆笑している二人の存在を感じ取った。


 もしかして、私は何か触れてはいけない部分に体ごとダイブしてしまったのだろうか…。今の空気は完全にそういうときの空気である。


「ぼ、ぼく、僕は、男だよぉぉぉ」


 その言葉と共に満の両目からは滝のように涙が流れだした。その涙を見て、私は確信した。私の勘違いを。満は、女の子ではなく男…だったのだ。


「ごめんなさぁぁぁあああい」


 ただ私は、満が泣き止むまで勘違いについて心の底からの謝罪を繰り返すのだった。


 ◇◇◇


 私は、探索で持って帰ってきた大きなリュックを開き、そこから一冊のノートを取り出した。探索中にいいことを思いつき、このノートをリュックに詰めておいたのだ。


「何か書くのか?」


 私がノートを取り出したことに興味を持ったのか透は、私の背後から顔を覗かせノートに目を落とした。


「これからの旅を日記に残そうと思って」


「いいじゃん。面白そう」


 横で話を聞いていた澪も日記を書くことについては賛成のようだ。


「でも、文字だけだとなんか寂しくないか?」


 透が抱いた疑問はもっともで私も同じことを考えていた。できることなら、この先見返したときに鮮明に思い出せるような何かがあればいいなとは思っているのだが…。


「あ、そ、それなら…。その場で撮った写真を貼るのは、ど、どうでしょうか?」


「満ちゃ…。満くん、ナイスアイデア!」


「……ちゃん?」


 都合の悪いことは無視することにしよう…。とにかく、写真のアイデアはとても良いと感じた。そこでみんなに提案をした。すると、案外みんなはあっさりと承諾してくれた。そして、私たちはショッピングモール跡地の入り口付近に集まって写真を撮ることにした。幸いにも、分解する目的で私が保護される前に集められたガラクタの中にカメラも混ざっていた。


「と、撮るよーー」


「ちょっと、押さないでよ」


「できるだけ真ん中で撮られたいんだよ…!」


「子供ですか…」


 透と澪と私は、押し競まんじゅうのように押し合いながら位置についてもめていた。私からしたら正直どうでもいいことなのだが…。それよりも私は、三人ではなく四人で撮りたいと思った。


「満くんも一緒に撮ろう!」


 私は、両側にいる二人からぐいぐいと挟まれながら満くんに声をかけた。満くんは最初こそ恥ずかしそうにしていたが、心を決めたのか「分かった!」と返事をした。


「タイマーを開始するよ!3!」


 そう言って、私たちのところに満くんは駆け寄り、すぐにみんなは押し合うのをやめカメラに目を向けた。そうして撮られた写真を私は、日記に貼ったのだった。透は、快活そうな笑顔で。澪は、片手でピースのポーズを作りながらとても楽しそうに。満は、恥ずかしそうにしながらも優しそうに笑っていた。そして、私自身も仲間に囲まれて嬉しそうに幸せそうに笑った顔が写っていた。


 これから、少しづつ日記を埋めていこう。みんなとの思い出が新しく形として残ることを嬉しく思いながら、私は優しく日記を抱きしめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る