活動日記 前編

 私たちは、大型ショッピングモール跡地の入り口の前で降車した。


「で、では…これから、探索概要をは、話していきます」


 満だけは降車せず、車の中から窓を開け話し始めた。


「こ、今回の探索地点はショッピングモール跡地です。そして、結衣さんはこ、今回が初めての探索参加となります。な、なので今回は透くんと共に行動してもらいます」


「ああ、任せろ」「よろしくお願いします」


「そ、そして、今回の探索地点の内部構造と必要な物資の位置を調べたところ…ほ、保存食品類は二階に、そして銃関連の部品は一階に置いてあることがわ、分かりました。ですが、下の階は埋もれているので今回は、さ、三階からの侵入となります」


 三階からってちょっと新鮮な感じでドキドキするかも。それもどこから侵入するかと言えば、どう見ても目線の先にある割れてる窓から…!窓からの侵入って悪いことしてるみたいでさらにドキドキする…。


「やっぱり結衣ちゃんって少し変わってるよね…」


 透が、何か変な人を見るような目で私を見つめていた。


 もしかして心の声を…読んだ…というのか…!?


「結衣ちゃんが分かりやすすぎるだけだよ」


「ナチュラルに読むのやめてもらっていいですか」


「そ、それじゃあ、食料担当はと、透くん。銃の部品担当は、澪さんで探索をか、開始します」


 ◇◇◇


「はい、これ持って」


 透から渡されたのは、少し傷の入った銃だった。銃なんてものは今までの人生で持ったことがないので、ずっしりと手に伝わる重さはどこか新鮮に感じた。記憶はないから、実際には憶えていないだけだけど…。こんな感覚は初めてだった。


「銃の経験は?」


「ありません」


「そうか。まあ、最近目覚めたやつで銃の経験あったらかえって怖いけどな」


 じゃあ、聞くなよ。


「今、じゃあ聞くなよって思ったでしょ?」


「ナチュラルに心の声読むのやめてもらっていいですか」


「まあ、銃の経験がないならむやみに使わないことだな。使うときは、自分の身が危険に晒された時だけだ。約束な」


「分かりました。あっ、銃ってどうやって使うんですか?」


「うー-ん。この銃はババババッって撃てる銃なんだけど。まずは、この弾が入ってるのをここに挿して、ここ押してこの部分をオートに合わせて、敵が襲ってきたらババババッて倒す!」


 説明が雑すぎないか…。なにも理解できなかったんだけど…。


「た、弾は無駄遣いしないでって言ったよね」


 車の中から私たちの会話を聞いていた満が、怪訝そうな表情で言ってきた。


「ぴゅるるる(口笛)。分かってる分かってるって。結衣ちゃんは、初心者だから一発だけじゃ外して危ない目に遭うかもだろ?だから、とりあえず連射にすれば何発か外しても倒せるかなって思ってさ」


「ま、まあ確かに。そうだね。今回は初めてだし…まだ、銃に慣れてないから少しづつ練習していこうね」


「は、はい!」


 満ちゃん、女の子なはずなのに…少しだけかっこいいって思ってしまった…。優しく語りかけてくれる感じがなんかいい…。


「あと、これは大事なことだけど。銃を撃たないときはオートに合わせてた針をセーフに合わせるようにしろよ。誤って、仲間に発砲なんて笑えないからな」


「ごくり…」


「大丈夫大丈夫。仲間に銃口を向けなければそういうの起きないから」


「はい…!」


 その後、銃に紐をつけ肩から降ろすように装備する。すると、透は車内から取り出した箱の中から謎の銀色の棒みたいなのを取り出した。


「それは?」


「あぁ、これはアンテナみたいなもんだな。探索中に適当な場所に取り付けるんだよ」


「どうしてそんなことを…?」


「ふふふ。それはなぁ…今の段階では、大まかな内部構造ぐらいしか分からないがこのアンテナを跡地内で取り付けることによって…詳しい内部地形と敵の位置を読み取ることができるようになるんだ!」


 おぉ……!!なんか、すごい…!


「満が!!」


 満ちゃんすげぇ…!すごすぎて正直、何もピンと来ていない…。


「とにかくすごいことは分かりました!」


「だろ?」


 多分この人も分かってないんだろうなぁ。


「今、多分この人も分かってないんだろうなぁって思ったよね?」


「ナチュラルに――」


 ◇◇◇


「よし!リュックも持ったし、銃も持った。アンテナも持ったし、ロープもあるな。あ、耳にイヤフォン型無線機は取り付けたか?」


 先ほど、満ちゃんに渡された無線機のことだろう。しっかりと耳につけています。


「はい、つけてます!」


「よしっ!じゃあ、行くとしますか」


「ふっ、ふふふ。やっと、思う存分体を動かせる時が来たか!狩りつくすぞぉ!」


 謎にテンション高めの澪がノリノリで拳を突き上げて自身を鼓舞していた。


「ほどほどにな。それじゃあ、入るぞ!」


『い、いってらっしゃい』


 無線機から満ちゃんの声が聞こえた。後ろにある車を見ると、今から探索に向かう私たちに手を振っている満ちゃんの姿が目に映った。私は、小さく手を振り返し透の背を追った。


 ◇◇◇


「昼間なのに案外暗いんですね…」


 私たちは、ロープを三階から下の階に行けるように頑丈そうな柱に括り付け、下に降ろした。室内は円を描くようなホール上になっていて中心は下の階を見渡せるほどの広い吹き抜けが上から下まで丸々とくり抜かれていた。私たちは、ロープを使い三階から二階へと降りる。澪は、そのまま一階フロアへと降りて行った。


 室内に入ると、窓から差し込む光のみが中を照らし、それ以外で中を照らす光源はなかった。しかし、何も見えないほど真っ暗というわけではなく、少し暗いが慣れれば普通に活動できるぐらいには明るい方だといえる。一応、ライト付きのヘルメットを被ってきているので有効活用しているが、そこまで辺りを照らしてはくれなかった。不意を突かれて襲われでもしたら、視界の悪さにより対処に遅れて呆気なくやられてしまうぐらいには危険なところである。


「しぃーーー。静かに」


 透は、いつものお茶らけた感じではなく、いつにもまして真剣であった。物陰から物陰へ移動するときも迅速であり静か。走っているというのに銃のカチャカチャ音も全く聞こえない。そして、肩から下げている小銃を持たずに腰から小さなピストルを取り出し構える。


『ぜ、前方に一体の敵性反応を確認。ノーマルだよ』


「了解。直ちに排除する」


 透は、静かに息を吐きピストルを構え正確にそして素早く敵に照準を合わせて引き金を引いた。


 プスップスッ


「敵を排除した。任務を続行する」


 なんか、かっこいい…!物陰から物陰へ素早く移動し、敵に気付かれずに対象を速やかに排除するその姿は、さながらスパイ映画などに出てきそうなプロのエージェントの姿そのものだった。


「透のこと見直しました…!」


「え、何が?」


「探索に真剣に取り組んでる姿に正直驚きました」


 その言葉にお互いの間で暫し沈黙の時が流れた。


「俺、真面目にしてないぞ?」


「……え?」


「今のは、スパイ映画でありそうなかっこいい感じの奴を真似してただけだぞ」


「感動を返してください…」


「だってさぁ、真面目にやっても疲れるだけだろ?こういう時にふざけないでいつふざけるって言うんだよ」


 いつもふざけてるじゃないですか…


「いつもふざけてるじゃないですか…とか思ったでしょ?」


「はい、思いました」


「いや、開き直らないでよ。まあ、確かにそうだけど。この雰囲気でしかふざけられないこともあるだろ?ピリピリとしたこの空気感。スパイになるチャンスだろ!」


「なんて馬鹿な人なんだろう…」


「おーい。もはや心の声漏れてるぞ。でもまぁ、今のスパイの物真似で大事な部分もあるんだよな」


「大事な部分…?」


 そういうと、透が先ほどミュータントを倒すときに使ったピストルを取り出した。


「この銃口の先についてるやつが大事なんだけどな。これは、サプレッサーって言うんだけど。銃の音を極力低減してくれるんだよ」


 だからさっき、銃を撃っても大きい音が鳴らなかったのか…。まさにスパイの使う武器そのものって感じでちょっとかっこいいなって…少しだけ思った。


「まあこんなところで大きな音なんて出したら上の階にいるミュータントたちもこっち側に集まってきて面倒なことになるからな。敵を倒すときでも出来るだけ静かにな」


「ひゃほーーーーーーーーーーーう!!(バババババッ)おらおら、まとめてかかってこい!!!全員まとめてあの世いきだおらぁぁぁああああ!!!(バババババババッ)」


 下の階からは興奮気味な澪の大きな声が上の階にいる私たちのところにまではっきりと聞こえた。どうやら、多数のミュータントと交戦しており、銃を敵に向かってぶっ放している最中なのだろう。


「はぁ~またかぁ」


『む、無駄遣いするなってあれほど言ったのにぃぃぃ!!』


 二人とも苦労してるんだなぁ。見てると澪はどうにも戦うことが好きそうだ。好戦的というのだろうか。まんま言葉の意味そのものだけど…。でも、あれだけのミュータントに襲われても平気な顔をしているあたり実力はあるのだろう。


「澪はちなみに相当強いぞ」


 もう心の声を読むことについてはスルーしていこう…。


「だから、頼りにはしてるんだが…。あの性格だからなぁ…」


 言いたいことは、自然と理解できました。


「まあ、とにかく俺たちは食料を確保するぞ」


「はい…!」


 私たちは、下の階から今もなお聞こえ続ける澪の声と銃の連射音を放置し、自分たちの任務を続行した。


 ◇◇◇


 私たちは、棚に置かれている保存食品を一つでも多く袋の中に詰め込んでいた。


「やっぱり、人手があると収穫が大きいな」


 最初、探索を開始する前に渡された大きなリュックの中にはすでに大量の食品が詰まっていた。それはもちろん、透のリュックも同じ感じである。


「同じ場所に何度も行けばいいじゃないですか」


「それはできないんだよ。一度行くと、上の階にいるミュータントたちが目的地点前にぞろぞろと集まるんだよな。いちいち対処してたらきりがないし、弾にも限りがあるだろ。それに出来るだけリスクは避けたいんだよ。死にたくはないしな」


 そうか…。ちょっとした物音とか匂いとかでミュータントは集まってくるということなのかな。だからこそ、いろいろな場所に寄りながら探索しているのか。


「だからこそ、一度の探索で二人分の収穫を得られるのは俺たちにとっては大助かりってわけ」


「最後の缶詰を頂いた恩もありますし、お役に立てたのならよかったです」


透とそんな話をしていると急に無線機からジジッと音が鳴る。


『進化ミュータントが出現した!現在、澪が交戦中。すぐに援護を!』


 緊迫した状況だとすぐに分かるほど、無線を通して伝わる満ちゃんの声には切迫したものを感じた。透と私は、荷物をその場に置きすぐに階下に駆けつけることにした。


「ガオォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


 下の階からは悍ましいほどに歪で周りのミュータントとは桁違いのあたりに轟く声が伝わってきた。


 この下にそれほどの声を発する化け物がいる。私なんかが戦ったらきっとすぐにやられてしまうだろう。だが、そんな相手と今現在、澪が戦っているのだ。仲間がピンチに陥っているのにここで足がすくんでいては永遠に澪から仲間として信頼されないだろう。


 私は、不安を振り切ってロープに掴み、下の階へと降りて行った。

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