決められた舞台

虹凛ラノレア

第1話 決められた演出


 今日も新たな舞台が始まる。舞台は勇者達が冒険し最後は魔王と戦い勝ち国の姫を助けて…そんなよくある王道な物語だ。


 登場人物は舞台に上がり完璧な演出をしなければいけない。間違った演出をしてしまった場合は強制終了となりまたポイントからのスタートだ。


 登場人物は今日も完璧に演出をする。モンスターを倒して、アイテムを買ったり、宿屋で休んだり。新たな仲間が加わり、一緒にダンジョンに行く。


 しかしある日、思いもよらない行動を起こした人物がいた。それは仲間の魔法使いだ。今回の演出では本来なら魔法使いは武器で殴るのが決められていた。しかし魔法使いはこのままでは自分が戦闘不能になってしまう事を恐れて武器で殴る演出をせず、魔法を唱えてしまった。


 「こ、こわかったんだ…」


 魔法使いはそんな事を震え声で話すが舞台は真っ暗となり強制終了となってしまった。またポイントからやり直しか…。魔法使いはどこかに連れていかれ、記憶はポイントからの記憶になっていた。


 間違えて演出をしてしまった人は前回の記憶がなくなるらしい。他の登場人物はそんな事を考えながらまたポイントからの位置に戻りやり直す。


 周りは真っ暗だったがまた明るい風景が写しだされる。今回こそ完璧な演出をするんだ。


 今回は誰もミスした演出をする事がなく新たなポイントまで行ける事が出来た。誰かが間違えた演出をしても新たなポイントから繰り返せる為、登場人物は安心していた。そしてまた新たなポイントを目指す。


 新たなポイントから目指す為、未知の村に到達した。そこで決められた演出をする為、勇者は村長に話しかける。


 そしてまた新たに問題が発生してしまった。村長がようやく舞台に登場出来るのが嬉しかった様子で本当は悲しい表情をしながら


 「今、この村の人々が急に石化してしまうんです。どうか勇者様…お助け下さい…」


 とセリフを言わなくてはならないのに嬉しい表情をしながらセリフを言ってしまった。


 「あ…。ようやく舞台に上がれたから嬉しかったんだ!!」


 村長は言い訳を言うものの完璧な演出をしない限り、当然のごとく舞台は強制終了され、また真っ暗になった。村長はどこかに連れていかれたようだ。


 先ほど、新たなポイントに到達していたので未知の村までは距離がそこまで無かった。村長に再び会うと、前回の記憶は無いようでどうやら完璧に演出を出来たようだった。


 村長と会話をする演出を何とか完璧にこなした後、ダンジョンの一番奥にいるボスを倒さなくてはいけない。


 ダンジョンは敵が強くなっており、敵を倒しては村の宿屋に戻り体力回復をする。そんな事を何度か繰り返していた。


 繰り返している中、段々とダンジョンの敵も余裕で倒せるようになり、いよいよダンジョンの一番奥にいるボスとの戦闘の演出をする。


 ボスは嬉しくて笑みを浮かべている表情をしているが、ここでのセリフは笑いながらのセリフだったので強制終了される事はなかった。登場人物は皆、安心する。


 ボスが完璧なセリフを演出をした後に戦闘シーンの演出に突入した。


 しかし、再び事件は起こる。その戦闘シーンでボスは技を演出するがようやく登場するのが嬉しいあまりかカンストしたダメージを勇者達に喰らわせてしまったのだ。当然、勇者達は皆、戦闘不能になってしまう。


 ボスはありえもしないダメージを与えてしまったのだ。完璧な演出が出来ずまたもや舞台は強制終了となってしまう。


 「お、お前たちより私が下な訳がないであろう!?私はお前たちより強くなくてはならいのだ!!」


 ボスは怒りながら勇者達に向い発言をするが、舞台で感情なんてものはいらない。上も下もそんなプライドもいらない。完璧な演出こそがこの舞台では必要な事なのだ。ボスはどこかに連れていかれたようだった。


 先ほどのポイントでまた村長に話し…、敵を再び倒し…先ほどと同じ演出をする。何度も何度も同じ演出をする。


 そして先ほどのボスに再び出会い、先ほどの記憶は無いようだ。今回は完璧に演出を出来たようで新たなポイントに辿りつけた。ここで一度、舞台は休憩となり真っ暗になる。登場人物は皆、内心嬉しくなる。


 何を隠そう、舞台はクライマックスを迎えていた。そうこの舞台が終わらせる事ができたらようやく完璧な演出をした舞台を終わらせる事が出来るのだ。登場人物は皆、張り切っている様子だった。


 そして時はきた。舞台は明るくなり演出をするのを再開する。いよいよ舞台を終わらせる事が出来る…。その後は皆でどのような宴会をしようか。


 勇者達は魔王城に侵入する。魔王を倒す為に、姫を助ける為に…。


 魔王城の敵は強敵ばかりだった。魔王に到達する為、戦闘をし、宿屋に戻り体力を回復し…。何度も…何度も…。しかし、舞台はクライマックスを迎えているのだ。このぐらいの辛抱はなんとかなるであろう。


 そうしていよいよ魔王の所に到達する。


 魔王はセリフを堂々と言い、堂々な振舞をしていた。魔王は完璧な演出をしていた。勇者達も負けずに完璧な演出を見せる。そしていよいよ戦闘シーンだ。


 迫力のある戦闘シーンを演出し、この舞台を終わらせる為に完璧な演出をスムーズにこなした。


 ようやく勇者達は魔王との決着が着き、魔王は倒れ込む演出をする。


 あぁ、長かった。ようやくこの舞台は終わるのだ…。勇者達は姫を救出し国に戻る。


 そうして勇者は姫との結婚が決まり、2人は末永く幸せに暮らしましたとさ…。めでたしめでたし。勇者と姫が笑みを浮かべると魔王まで舞台に上がり込み、一緒に笑みを浮かべながら肩を組み喜ぶ。登場人物皆、肩を組み喜ぶ。


 その時、舞台は強制終了となった。


 それもそのハズだ。勇者と姫と魔王が肩を組み喜ぶ…?しまいにはダンジョンのボスまで舞台に上がり村長と勇者の仲間と肩を組む…?そのような演出など聞いたことも無いであろう。


 ここの完璧な演出は勇者と姫が結婚してその後は子供を産み、幸せな家庭を演出する予定のハズだ。


 完璧な演出を出来ず、強制終了となりこの舞台は再び再開される事はしばらく無かった。


 舞台がようやく再開された時は…登場人物の記憶は全て無くなっており、また最初からスタートだった。


 「このゲーム、不具合多いんだって。この前ようやく不具合修正されたんだよ」


 「え~…バグゲーか~。しかもまた最初からだね」


 2人の少年は画面を見ながらそう呟く。




 

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決められた舞台 虹凛ラノレア @lully0813

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