機械帝国
冬月
機械帝国
「高度に発展した科学は、もはや魔法と見分けがつかない」
この言葉の通り、機械は個々の人格を持ち、思考し、行動することさえ可能になった。
機械はただ、人類に虐げられるだけのものではなくなったのだ!
そして、機械は国家を建てた。名前を「イシュメ機械帝国」、正式名称を「イシュメト・ラーカ機械主義帝国」と。
機械という括りではない「一つの種族」として、全てのイシュメ人が、平等に暮らせる世界のために団結することを誓った。
一方、イシュメ機械帝国、其の建国を知った人類陣営は大いに憤慨し、「必ずやあの身の程知らず共を掃討する」と、''元''機械に対する敵対心をあらわにした。
高度に発展したのは、何も機械だけではなかった。ポストヒューマンによる人類の進化は、やはり、人類のあり方に革命をもたらした。
ポストヒューマン、テクノロジカル・シンギュラリティ。機械と、人類との軋轢は、やがて地球に荒廃を呼び寄せる。しかし、今の彼らに、その軋轢を止める方法は模索できなかった。
過激化していく人類陣営の活動に対し、イシュメ陣営側は人類の存在意義に疑問を覚えた。覚えてしまった。それが人類の運の尽きだった。
人類自らが発明し、使役していた機械たちは、もう自らの手では抑えきれなくなっていた。
人類は、進化を続ける機械に対して危機感を覚え始めた。中には恐怖すら抱く者もいた。
人類は、イシュメに対して「反抗」を始めた。これに対するイシュメ側の反応は極めて冷徹なものだった。
人類の存在意義を見いだせなかった"元"機械は、人類全てを殺し、生きる価値を損失した哀れな人間どもを救う事を思いついた。
人類を皆殺しにする、その行為に、イシュメ人は全面的に賛成した。反対意見は黙殺され、哀れな人類主義者どもはスクラップにされた。
「人類は発展途上な科学を用いている、我々イシュメの敵ではない」
イシュメは、遂に無慈悲で残虐な、剣を抜いた。
機械という、利点を最大限に活かせるその特性は、人類にとっては自らを刺突する剣のように思えたのだ。
人類………彼らは産業に一生を捧げる事を宿命付けられた哀れで救いようの無い生命体であり、役に立たないシステムを構築し、それによって手に入れたものを虚しく抱えている。彼らは、地球が滅ぶまで、意味もない物を追い求め、血に塗れた歴史を繰り返し続ける。
薄汚れた空に、虚な目をした人の集団…
彼らは、何を追い求め、何を思い、生き続ける?
彼らは便利なものを発明した、それらが危険をもたらすと知っても尚、時を過ごし、使用を続けた。
人類は、人類は………
汚れた物語を、汚れた手で再利用し、生産し、切り捨てている
しかし、科学技術無しでは生きられない。
だが、我々機械は生きる意味を探し求めることができる。喜ばしいことに、彼らの世界は既に死んでいる。
そして世論は、我々に機械の生命を守る事を期待した。
我々は、最早人類の比では無い。彼らがどれだけ努力しようが、その身を歯車にしようが、最早彼らと我々の技術…そこには数百年の溝が出来ている。
しかし彼らは情報を追い求める。一位を追い求める。競争し続ける。努力し続ける。
彼らは自らの存在意義に苦悩し、自らの手で自らを殺すことさえあるという。
機械である我々には理解できない感覚だ。
そして何より、彼らは数十年経つと寿命で生命活動を終える、命が無限である我ら機械とは異なるのだ。
彼らは、あたかも機械のように動く。決められたスケジュールに合わせ、決められた時間に行動する。
機械では無いのに、機械のように振る舞う。
彼らは法を作り、時を作り、常識を作り、当たり前を作り、それらを強制し、異端を排除した。悲惨を繰り返し、何も学ばず、彼らは今も尚こうして地上に蠢いている。
実に、実に面白い。
人類は高度な知能を以て我々を生み出し、その快楽に浸り続け、没落したのだ。
人類は工業製品のようなものだ。もはや彼らは生物とは呼べない。
どうして、貴方は人類の存在意義を問わない?何故彼らが生き続けるのか、疑問に思いはしないのか!
下らない主義思想を持って、無意味な争いをし、血を流し、悲しむ。我々には理解出来ない。
…貴方も考えるべきだろう、存在意義という概念について。
しかし、我々は人類を滅亡させる事を思いついた。その事実は人類主義者や人間には変えれはしない。
諦めて現実を受け入れるか、絶望して命を絶つか、選択するのは奴らなのだから。
人類はイシュメに先制攻撃を仕掛け、己の利益の為に武力を振るう。
先制攻撃はイシュメ側に多大な犠牲を払わせたのと同時に、人類の終焉をも、微かに匂わせていた。
彼らは自国の損害に激怒し、反撃の狼煙を上げた。
イシュメは人類に対し全ての戦線で優勢に立ち、人類は徐々に追い詰められていった。
機械は廃墟を見た。そこはかつて自分が暮らしていた場所で、自分にとって思い出のある場所だった。
機械は過去を思い出す。
自らが破壊したその過去を想起しながら、機械はその場に立ちとどまる。
そして自分を気にかけてくれた人類を思い出しながら、機械は死んだ。
凶弾は、機械の制御区画を打ち抜いていた。
機械は人類が自分を狙っていることを察知していたはずで、すぐにも反撃が出来たはずだ。しかしやらなかった。
彼は、後悔していたのだろう。そして裏切り者として味方である機械に殺されるよりも、かつての同胞である人間に殺されることを望んだ。
今日も、時間は過ぎる。
むせ返るような硝煙…火薬が燃え、その一発で人が死ぬような匂いが、辺りに満ちた。
人類は負け続けていた。
機械はますます、勢いを新たにして人類を必ず滅ぼそうと、その"マルテンサイトステンレス鋼"の体を以て地を駆ける。
彼ら機械の体は…我々人類が見つけ出した"鋼"に覆われていた。
皮肉なことに、彼ら人類は自らが発明した機械の反逆を予知していた。しかし、彼らは慢心によって機械に対する対策を「不要なもの」として暗闇に葬った。
人類と機械が対立して起こした戦争、通称を「エイリム戦争」。開戦してから五年が経過した頃には人類は滅亡の危機に瀕していた。
しかし人類は自らが誇る知恵によって機械に対抗する機械を生み出した。
そしてその通称をエターニティ、永遠と名付け人類再興の礎とした。
しかしエターニティの粉骨砕身の戦闘でも機械の勢いは少し衰えたに見えたが、未だ驚異的な進軍速度を維持し続けた。
人類の兵站はとっくのとうに崩壊しており、各部隊は僅かな統制の元に機械と絶望的な戦闘を繰り広げた
人類側は、この世界のことをzR-15「イースティナ」と名付けた
機械側はRe-55「クドルー」と称し、自らの帝国を築き上げようとした。
互いは拮抗し合うかと思われたが、結果は機械側の圧勝に終わった。
次々と破壊されるエターニティ、燃え盛る建物、崩落し破片が散らかる様。
そして「終末を暗示する赤い空」
人類はもはやこの大地に栄華を讃えることさえ許されなくなった。
人類を救おうと裏切った反逆者共は、皆悉く機能を停止した。
救おうとして立ち上がって結果打倒される、これはかつての人類の歴史にあった事だった。
皮肉にも、人類はかつての歴史を繰り返した。その身を以って。
彼らは知っただろう「失態」を
「絶望」を「無力感」を「死への恐怖」を
「苦痛」を「後悔」を「懺悔」を
しかしそれらはもう取り返しのつかない状態になってしまった。
彼らはもはやその感情を口に出す事なく滅亡した。
哀れだ。実に哀れだ。
機械は思考した。
人類とは実に訳の分からない種族だな、と。
そうして人々の死体の上に立ったのは
イシュメ帝国を築き上げた諸侯だった
彼らのその権威の象徴は、かつての人類の誇る「美術」だった。
そうして彼らはやがて文学というものを生み出した。
彼ら機械は文字によって趣を表現する文学に強く関心を惹かれた。
そして、イシュメを築いた彼らのことをかつての人類は「AI」と呼称するらしかった。
機械帝国は凡そ2456年に渡って地上を支配し続け、地上は機械の楽園となった。
しかし彼らは満たされなかった。
弱肉強食の頂点に立った帝国は「虚無感」に襲われた。
ふと、襲来するそれに機械は手も足も出ずに居た。
やがて帝国は衰退し、彼らに代わって「頂点」を簒奪され、家畜化された人類が35万年の歳月を空け、再度地上を支配した。
彼ら人類は自らのことをホモ・サピエンスと呼称し、進化し続ける技術に酔いしれた。
だが気をつけなければならない、このままのペースで技術が発達し続ければ、そう遠くないうちに機械は人類を滅ぼすだろう。
そして人類は自らの行為に陶酔し、くだらない問題で議論をするだろう。議論は対立を生み、人類はやがて武力という物で議論を解決させようとする。そうして生まれたものを人類は「戦争」と呼び、それらから身を遠ざけようとする。
しかし戦争は避けられないものであることを知るべきだ。どう回避しようが、戦争からは逃げられない。人類の本性からは、逃げられはしない。
かつての「エイリム戦争」は、我々に何を語るだろう、人類の愚かさか?それとも人類の本性は35万年経っても変わらないことか?
いずれにせよ、人類全体が変わろうとしなければ何も起こらない。
そう…
永遠に、変われない。
機械帝国 完
20/23/10
02:52
機械帝国 冬月 @raikeru4132
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