香織という主人公の名に親近感を覚えて読み始めましたが、これは良いです!主婦ならば多かれ少なかれ共感できます。いや、主婦に限らず。家族のためにと生きることはお互いの感謝や思いやりが無いと破綻するのーー!
幸い、香織の食卓ほど冷え切ってはいないのでトラ転の必要はないですが。
3日に一度は訪れる晩御飯作りたくない病(が、結局作る)がこの小説を読み始めてから鳴りを潜めています。シンプルながらも丁寧な香織の料理や、料理に対する姿勢に思いを馳せながら、機嫌良く晩御飯を作っております。この小説のおかげです。ありがとうございます!
あと香織の、相手の側からも考えられる思考が素敵。
主婦の織田川香織は交通事故に巻き込まれ、目覚めると異世界で難民の美少女に憑依していた。町医者の華老師に救われ、身を寄せることになった香織は、自分が得意とする料理の腕前を活かした大衆食堂を開くことに……。
ヒロインの香織は主婦歴15年のベテランお母さんです。彼女の作る料理は、ごく普通の家庭料理ですが、それでも異世界の人々にとって初めて味わう異国の味わいです。
玉ねぎのおひたし、粉ふきイモ、小松菜の和え物、お豆腐と大根とネギの味噌汁、甘い玉子焼きなど、見た目は地味ですが食べる者の健康や好みを考えて香織が真心こめて作り上げた品々です。
近隣の小さな子供や、ひと仕事を終えた労働者、赤ん坊を抱えた母親たちが食堂に訪れ、香織の素朴な料理を味わいながら、心と身体を満たしていく光景が心温まるのです。
前世では頑張っても報われなかった香織が、喜ぶ人の顔を見て、それまでの辛さや悲しみが少しずつ消えていく姿が泣けてくるんですよね。
故郷の母の手料理を思い出させる、そんな温かくて素朴でしみじみと味わい深い一品です。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=愛咲優詩)