第百五十四話 王と鴻樹の内緒話②
「亮賢様! たいへんです!」
珍しく急ぎ足で入ってきた若き宰相に亮賢は驚いた。
この友とも言える有能な側近は、あわてたり騒いだりしない。常に穏やかで冷静。もう一人の友であり生涯の側近である術師とは対照的だ。
「どうしたのさ鴻樹。そんなにあわてて、君らしくない」
「それが……」
亮賢は扉を固く閉ざし、さらに王の執務室の続きの間や窓の外まで確認する念の入りようで人払いしてから王の耳元に近付いた。
「例の末の王女様、建安に入っている御様子」
鴻樹の言葉に、亮賢は眉を上げた。
「……ほんとうかい?」
「調べさせている間諜によると、王女は国境で老宦官と離れ離れになったあと、いくつかの村を転々として建安にたどり着いたようです。そのあとどこへ行ったのかは不明とのことですが、そこで足どりが途絶えていることから建安にいるのはほぼ間違いないだろうと」
「それは僥倖だ。すぐにでも迎えに行きたいな」
「無論です。ですが、厄介なことに追手がすでに建安に潜入している様子」
「なんだって?」
「幸い二人組だそうで。それくらいの人数なら、こちらが人員を増やせば対抗できるかと」
「わかった。人員の配置は鴻樹に任せる。あまり騒ぎにならぬよう、芭帝国の追手より早く王女を奪取してくれ」
「御意」
「はあ、それにしても、本当に余にもう一人妹がいたとはねえ。なんだか変な気分だなあ。どんな子だろう。佳蓮みたいな気が強い性格だったらどうしよう」
「まあ、有り得ますが……それよりも、その御方が耀藍様と御結婚されるのですから、亮賢様は佳蓮様に事情をご理解いただくという大仕事の心配をしてください」
「う……その役、鴻樹がやってくれないかなあ」
「無理です。嫌です」
「そんなにきっぱり言わなくても……だって余が話したところで素直にわかってくれる佳蓮じゃないよ?」
「私が話しても同様です。耀藍様の浮気調査にわざわざお忍びで外出するくらい、佳蓮様は耀藍様に御執心ですから」
「は? 浮気調査? お忍び? なにそれ」
「女官たちの噂ですよ」
「浮気調査って……まあ、耀藍だって立派な耀藍なんだから、王城に来る前にそういう仲の女の子が一人や二人いたことあってもおかしくないと思うけどね」
「私もそう思います」
「で、耀藍の想い人ってどんな子なんだろう。花街の美女かな? それとも深窓の令嬢?」
「いやどちらでもないような……少なくとも、昨日の状況では」
「?」
「私、佳蓮様をお見かけしたのです。おそうざい食堂で」
「は? おそうざい食堂で? 佳蓮、何してたのさ」
「それが……出てきた料理にがっつり文句をつけていました」
「………………何をしてるんだ、あいつは」
若き王と宰相、共に有能と謳われる二人だが、佳蓮の行動の謎は解けないのだった。
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