第百二十八話 王と鴻樹の内緒話
耀藍が姉・紅蘭のことを「実家に確認する!」と言って王城内の私邸へ戻った後。
「そういえば亮賢様。例の末の姫の件ですが、亮賢様のお考え通りのようです」
「見つけたのか?」
一瞬、入城の儀式のときに妹・佳蓮につかみかかられたことを思い出す。
王城術師は入城したら、王家の末の姫を娶るのがしきたりになっている。
幼い頃から耀藍に憧れている佳蓮にしてみれば願ってもない話ということで、婚儀の衣装から趣向に至るまで婚姻の話は円滑に進んでいたのだが。
ここにきて、先王、つまり亮賢や佳蓮の父にもう一人姫がいるかもしれない、という話が出てきて、佳蓮は怒っているのだ。
「耀藍様と結婚するのはわたくしですから!」と叫んでいた様子を思い出し、亮賢は疲れた溜息をつく。気の強い妹は、言い出したらきかない。
「佳蓮には余が調査を続けてること、バレてないよね?」
「もちろんでございます。というか、この件はまだ検証が必要ですし、王の術師の花嫁のことなので国家級の極秘事項ですよ」
「そうだね。くれぐれも余と鴻樹の間だけの話にしてくれ。で? どこまでわかった?」
「はい。先の御后様が佳蓮様を身ごもられていた時期、王城へ旅の一座を招いたことがあったそうです。呉陽国と芭帝国を行き来するその一座は評判が高く、ちょうどその時期に建安に滞在していたのを王がお知りになり、王城へ召したとのこと」
「なるほどね……父上は演舞や竪琴の演奏がお好きだからな。もしかして、その一座に綺麗な娘でもいたのかな?」
「御明察です。当時の王の側近に問いただしましたところ、一座で最も評判の高い舞子を先王はたいへんお気に召し、一座が建安に滞在していた間、たびたび個人的に王城へ召していたらしいのです」
「父上め……そういうことか。で、女の子が生まれた、ってことだね」
「はい。佳蓮様より一年ほど遅れて生まれたその女の子はひた隠しにされたそうです。御后様の逆鱗に触れないように、と」
「母上はすごいやきもち焼きだったからねえ。父上はお亡くなりなるまで頭が上がらなかったしね。で、その娘は今どこに?」
「それが……生存がはっきりしないのです」
「なんだって? まさか、母上にバレて暗殺された、とか?」
「いいえ。その娘は御后様に知れる前にと、一座が移動するのと共に芭帝国へ去ったそうです。そして……芭帝国の後宮へ入ったらしいのです」
「なんだって?!」
「どうやら先王の側近から、身の安全を保障する代わりに芭帝国後宮に入って芭帝国の内情を定期的に伝えるように指示されていたようです」
芭帝国とは良好な関係だが、国境を察している大国の内情を知っておくのは国益になる。
王の落胤であれば、いざというとき外交の切り札になる––––当時の側近たちはそう考えたのかもしれない。
「ま、つまり、間諜ということです。数年にわたってその娘はよく情報を流していてくれたそうなのですが、内乱の戦禍で皇城が炎上した際、後宮から脱出したらしいのです」
「なんだって? それはまずいね。すでに皇帝や皇太子の目に留まって後宮の印でも押されていたら、理由はなんであれ脱出は大罪だ。でも、どうして脱出したとわかった?」
「その女官と外を繋いでいた宦官の遺体が、我が国の国境付近で見つかったらしいのです。おそらく芭帝国の難民に紛れて国境を越えたのかと。国境付近の山の民に聞きこみをしたところ、その老宦官は数名の宦官と少女を一人、連れていたというのです。しかし、遺体で見つかったのは老宦官だけでした」
「うわー……てことは、その少女が間諜やってた我が王家の末の姫で、生きてこの国の中にいるかもしれないってことだね?」
「山の中で御命を落とされていなければ」
亮賢は腕を組み、さらに声を低くした。
「術師の花嫁であり、芭帝国後宮の情報を持つ間諜……これは必ず見つけて保護しなくてはね。芭帝国より先に、だ。意味、わかるよね?」
「はい。すでに芭帝国が手を回しているであろうということですね?」
「うん。追手が掛かっていたということは、我らの姫は芭帝国後宮で放置できない身分だった可能性が高い。もう建安に捜索の人手が入っているかもしれない。急いでほしい」
「御意」
「で、くれぐれも佳蓮にバレないように。耀藍と結婚できないと知ったら、あいつは余の寝室に火でも放ちかねない」
「……それはシャレになりませんよ。ただちに、末の姫捜しに取り掛かります」
鴻樹は一礼し、急ぎ王の私室を出た。
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