第八十三話 褥の中で、耀藍は
物心ついたときより、周囲から「じゅつし」になるのだと言われていた。
「異能を操り、王の
「百官には決して真似のできないやり方で、あなたは王をお支えするのです。それは代々、術師を輩出してきた蔡家にとってもこの母にとっても、とても名誉なことなのですよ」
王を支える、ということがどういうことなのかはよくわからなかったが、母が喜ぶなら、と耀藍は異能を制御することを懸命に覚えた。
いつしか異能を自由に操れるようになり、蔡家術師の意味もわかったとき、母が亡くなった。
王をお支えする、というのはどういうことなのか。
どうして自分は異能をもって生まれたのか。
自分は、どう生きるべきなのか。
わからないまま、しかし耀藍の将来は決まっていた。
二十歳になれば王城へ入り、王城術師として王に仕える身となるのだという。
宙ぶらりんなやり場のない気持ちを抱えて、耀藍は建安中をさまよった。
ときには騎獣に乗って建安より外へ出ることもあったし、隣の大国・芭帝国の国境まで行ったこともある。
さまざまな人に出会い、ときに騙され、危険な目にも遭った。
そうしているうちに、ひとつ、わかったことがある。
異能を使うというのは、ひどく腹が減ることだ、と。
幼い頃から食べることが大好きで、美味しい物が大好きだった。
それはどうやら異能と深く関係がある。
当たり前のように食べ物が出てくる屋敷を飛び出して、それがはっきりとわかった。
危険な目に遭ったり何かを為そうと術を使うと、とても腹が減る。
それからというもの、耀藍は食べ物にこだわった。
贅沢な食べ物がいいというわけではない。
実際、耀藍が好む物は、素材の味を活かした飾り気のない料理が多い。
耀藍が舌だけでなく心から美味しい、と感じる物が、どうやら異能を高めるようだった。
そして今のところ、
「しかし、そんなことはどうでもいいのだ!」
耀藍は
「オレはただ、香織の作ったご飯が毎日食べたい。香織と一緒に食卓を囲みたい。それだけなのだ!」
王城へ入れば、蔡家術師は王城から出ることは許されない。
王家の姫を娶り、時の王に仕え、命尽きるときまで王城の中で生きる。
「香織のご飯を食べず、香織と食卓を囲まず、香織の笑顔を見ることもできず、香織と一緒にいられないまま残りの人生を過ごすのか、オレは」
そう考えただけで、一筋も光の差さない真っ暗な穴へ入っていくような気持ちになる。
そんなのは、耐えられない。
「だが……オレには、香織が望んでいることを叶えてやれる異能がある」
王は、耀藍が異能を以て芭帝国との外交にあたることを期待しているという。
つまり耀藍の異能は、国境紛争を解決し、建安の商人たちの利益を守り、物流を速やかにして民の暮らしを安定させてやることができるのであり、それは今まさ香織が望んでいることだ。
正義の観点からいけば、ただちにそうするべきだ、とわかっている。
そうすれば香織を笑顔にしてやることもできる、とも。
だがしかし、そのためには香織と離れなくてはならない。
それは身を切られるようにつらい。
「ううう、いったいオレはどうしたらいいのだあ!」
耀藍は
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