第50話 心の体幹はふらつき続ける
メインの出場種目が決まった後、次に行われるのは今年の特別種目の発表だ。
これが例の目玉競技というやつで、出場は完全に個人の任意。つまり、人数が集まらない可能性もあるということ。
その場合は勝負にならないので、出場を表明してくれた人にポイントを与えるらしいが、せっかく準備するのだからどうせならそうはならないで欲しいというのが生徒会の気持ちだろう。
そんなことを考えつつも、どうせ自分には関係の無いことだろうと頬杖を付く
そんな彼は手元の資料に目を落とす
「えっと、今年の種目はピンポンリレーらしいわ」
彼女の説明によると、頭の上に固定したボウルの中にピンポン玉を沢山入れてリレーを走るというものらしい。
第一走者がスタートする時の玉の数は全員共通らしく、各チームは第四走者まで手を使わずに玉を受け渡ししながらゴールを目指す。
そしてタイムと最終的にボウルに残っていた玉の数との総合スコアで一位を決めるんだとか。
足が速ければ勝てるという訳では無いシステムの辺り、なかなかに難しそうな競技である。
「という競技なのだけれど、参加したいという人はいるかしら」
秋葉が教室全体を見回しながら問いかけるが、挙がる手はひとつもない。
特別種目は毎年配点が高いのだ。面白半分に出場して負け、そのせいで負けたりなんてしたら本人もいい思いはしないだろう。
きっと、みんな同じ考えなのだと思う。こっそりと周りの様子を確認しつつ、さりげなく秋葉から視線を逸らしていた。
沈黙の中、三十秒ほど待った彼女は小さなため息をひとつ零して「まあ、いいわ」と呟く。
「こうなることは分かってたもの。だから、既にこの中から三名を選んで登録しておいたわ」
秋葉の言葉にクラス中がどよめいた。ヤジとも言える言葉もいくつか飛んでくる。
しかし、彼女はそんなことを気にする素振りも見せないまま、ゆっくりと教室の一番後ろまで歩いて来た。そして―――――――――。
「あなたたちのことよ」
両手で慧斗と
「な、なんで僕たちが……?」
「アキ○イターに聞いたら、それは慧斗ですねって答えが返ってきたのよ」
「あれはそんな万能ツールじゃないんだけど?!」
「適当にダーツ投げたらあなたの顔に刺さったのよ」
「……ちなみに、何を的にしたか聞いていい?」
「家族写真のアルバム」
「そりゃ、クラスの中で僕しか居ないだろうね」
彼女とは昔から家族ぐるみの付き合いがある。アルバムの中にも慧斗の姿はそこそこあるはずだ。
写真を的にしたというのは正直引くが、秋葉が確実に自分を狙い撃ちしたことは間違いない。
後々、ダーツの件は冗談だと伝えられた時には、心の底から安堵したけれど。
「慧斗を選んだら私も一緒に出るしかないじゃない? あなたと一緒に走りたい物好きなんてそうそういないでしょうし」
「秋葉は物好きなんだね」
「……うるさい。とにかく、あなたと
「任意なのに強制するなんて悪魔だ」
「仕方ないでしょ、出来れば各クラスから出場させて欲しいって頼まれてるんだから」
きっと、体育祭委員も色々と大変なのだろう。彼女は真面目だから、頼まれたことはしっかりと成し遂げようとするタイプなのだ。
結果的に人を巻き込むことにはなっているが、幼馴染のよしみで助けてあげないこともない。
少なくとも、秋葉が居れば負けてもクラスメイトたちから文句を言われることは無いだろうし。
「荒木さん、ごめんね。僕のせいで厄介なことを任せられちゃったみたいで」
「何言ってるんですか、これはチャンスですよ!」
「チャンス?」
「一緒にリレーに出られるってことですから」
言われてみれば確かにそうである。それに、懸念材料だった足の速さについても緩和されたルールであるため、それほど悪い条件でもない。
秋葉の独裁政治にしてやられた気持ちでいたが、偶然にも乃愛に諦めさせてしまったものを取り返す機会になっていたというわけだ。
「えへへ、良かったですね♪」
「だね」
嬉しそうに肩を弾ませる彼女の姿に、慧斗は心の中で秋葉への感謝を述べておく。
おそらく本人は有り難がられているとは微塵も思っていないだろうけれど。
「あ、そう言えば出場は四人だよね。もう一人はどうするの」
「それはこれから勧誘するのよ。幸いにも、学年が別でもクラスが同じなら良いみたいだから」
「は、はぁ……」
何が思い当たる節があるらしい彼女に、今は素直に従っておくしかなかった。
ギャルな幼馴染に毎日していたスカートめくりを卒業してから、彼女の様子が何だかおかしい〜ねえ、今日はアレ……しないの?〜 プル・メープル @PURUMEPURU
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