第12話 休みの日に学校に行くと二倍疲れる

 暗号を解読してくれた美涼みすずにお礼を伝え、ちゃんと指紋も渡してから帰宅。

 休みの日に学校に行くという奇行をする凛斗りんとは、心配して部屋で待っていてくれた千夏ちなつ千冬ちふゆに見つかるなりものすごい勢いで挟まれてしまった。


「どうして制服を着てるのか不思議に思ってたんだけど、凛くんには考えがあるのかと思ってたから言わなかったの」

「千夏だって慌てて起きてきたでしょ。知ってたなら教えてくれればよかったのに」

「私も寝惚けてよく覚えてないの。途中で気が付いたけど、休日にお弁当なんてピクニックでも行くつもりなのかと思い込んでたから」

「僕がそういうタイプじゃないことくらい知ってるでしょ?」

「寝起きの判断能力を舐めないでもらいたいわ」

「どうしてそれで胸を張れるの」

「誰が張れるほど大きくないですって?!」

「そんなこと言って無――――――――――」


 そこで意識がプツリと途切れ、気が付いた時にはソファーの上で寝転んでいた。

 どうやら千夏の理不尽右ストレートをまともに食らったらしい。

 目が覚めるなりすぐにやり過ぎたと謝ってくれたから、こちらも意地にならずに許してあげることにする。

 何より、千夏が胸のことをそんなにも気にしていることを知れて良かった。次からは気を付けて言葉を選べるのだから。


「ところで、さっき言ってたピクニックだけとさ。もしかして千夏は行ってみたいの?」

「あれは寝惚けてたからそう思っただけで……」

「寝ぼけてたからこそ、本心が漏れたのかと思ったんだけど。違うならいいか」

「…………たい」

「ん?」

「凛斗が行きたいって言うなら、仕方なく私も着いて行ってあげてもいいけど?」

「僕は別に行きたくないけど」

「あ、そう……そうなのね……」


 はっきりとした返事に、千夏はソファーの端っこに腰掛けてしゅんと俯いてしまった。

 普段はうるさいくらいにお節介で元気な相手が急にしおらしくなったら、気にするなという方が難しいというもの。

 その変化がこんなにもあからさまだったら尚更だ。見て見ぬふりをしたら、自分が悪人のように思えてしまいそうで怖い。


「なんだかピクニックしたくなってきたなぁ〜」

「……」

「誰か一緒に行ってくれる人、居ないかなぁ〜」

「……どうせ私とは行きたくないんでしょ」

「千夏と一緒に行きたいなぁ〜!」

「ほんと?!」


 目をキラキラと輝かせながら、グイッと顔を近付けて聞いてくる千夏にウンウンと頷いて見せる凛斗。

 彼は子供のように喜ぶ彼女の姿を見て正直戸惑っていた。あれ、千夏ってこんなに可愛かったっけ……と。


「凛くん、私も行っていいの?」

「当たり前だよ。千冬だけ仲間外れにするわけないでしょ?」

「そう思ってるけど、やっぱり直接誘って貰えないと不安なんだもん」

「……ああ、やっぱり千冬は可愛いなぁ」


 千夏の可愛いなんてこれに比べたら屁でもない。一時の気の迷いでトゥンクなんてことにならなくて良かったぜ。

 凛斗が心の中でそう呟いていると、背後から「誰が屁でもないって?」とワントーン低い声が聞こえてきた。


「心の声、全部漏れてるわよ」

「全部?! じゃあ、千夏の下着がうちの庭に落ちてたけど、触ったって殴られそうだからまだ返せてないこともバレてるのか?!」

「ええ、たった今バレたわよ」

「くそぉぉぉぉ!」


 床を叩きながら悔しがる姿に若干引いた千夏は、今回は自分にも非があるからとNO暴力で許してくれた。

 次の「どうして私のだって分かったの?」という質問に対し、「匂いが千夏だった」と答えた時にはボコボコにされたけれど。


「嘘だよ、嘘だからもう殴らないで」

「あまり冗談ばかり言ってると痛い目見るわよ」

「本当はベランダから落ちるのをちょうど見てたからだよ。珍しくベランダで干してるのが不思議だったから目に付いちゃって」

「……ま、干してる下着を見たことはいいわ。所詮幼馴染だもの、何も思わないわよね」

「そうだね。無感情だったよ」

「ちょっとくらい興奮しなさいよ!」

「……理不尽過ぎる」


 その後、渋々「興奮しました」と言ったらゴミを見るような目で睨まれた。

 女心というか、千夏心は解読不可能だ。きっと、一生かけても読み解くことなんて出来ないのだろう。

 深いため息を零しつつ、金庫に保管しておいた彼女の下着を返却する凛斗であった。


「どうして金庫なのよ」

「それくらい大事かなって」

「……一応、ありがとうと言っておくわ」

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どうやら僕は幼馴染の双子から【溺愛/殺害予告】されているらしい プル・メープル @PURUMEPURU

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