第11話 暗号解読……!
「なるほど、新たな手紙ですか」
例の紙切れを並べて見せると、
『次の休み』『楽に始末』
『次の休み』『楽』『に』『し』『ま』『つ』
彼女は一つ目の順番は合っているが、一文字ずつに別れた方は間違っているのではないかと言うのだ。
「考えてもみてください。どうして同じ文章を二度も書く必要があるんですか」
「それは、もしかしたら二人とも同じことを思ってるのかもしれないとか……」
「二人からのメッセージという部分は合っているでしょう。ただ、これは同じ内容ではありません」
彼女は二つ目の『次の休み』を『次の休』と『み』に分解すると、後ろの文字も丸っきり並べ替えてしまう。
そうして完成した文章がこれだ。
『次の休』『楽しみにまつ』
次の休……楽しみにまつ。
つまり、次の休みを楽しみに待っているということ。次の休みに誰かを始末するという内容とは大違いだ。
「始末を平仮名で書くことはまずありません。そう考えれば、こちらの方が自然でしょう」
「でも、待つも平仮名で書くのは変じゃない?」
「おそらく待つではなく、待っているのようにまだ文字が続いていると思います。漢字の後に小さなつが来ることに違和感を覚える人なんじゃないですか?」
「ちょっと強引な気はするけど……」
「それぞれの紙の形からして、この組み合わせが最も有力であることは間違いありませんから」
パズルが得意な彼女が言うならそうなのだろう。
とりあえず、今まで通り自分に対して殺害予告紛いの行為をしているのは片方だけという解釈で良さそうだ。
一人いるだけでも相当辛いことに変わりは無いのだけれど。
「ただ、結論をこれで確定させるととある問題が出てきますね」
「問題?」
「気付きませんか? あなたを始末しようとする人間が減っただけで、結局は次の休みに始末される運命なんですよ」
「……あ、本当だ」
増えてから減ったから楽になったように感じていたが、よくよく考えれば危機的であることに変わりはない。
それに始末という言い方から本気度を感じる。たとえ遂行にまでこぎつけなくとも、何かしらのアクションは起こす可能性が高かった。
「でも、どうして今回は破いたんだろう」
「思い通りに行かなかったか、もしくは一つ目の手紙を誰かに読まれた可能性を考えたのかもしれませんね」
「バレてるってこと?」
「いや、おそらくそうではありません。気持ちを書き出したい気持ちを消化しつつ、また風に飛ばされても大丈夫なように刻んだのかと」
「なるほど……」
実際はどうなのかは本人に聞かなくては分からないが、美涼の立てた仮説も有り得なくはないだろう。
何より、どちらの手紙も一部分しか見えないのでは内容を予想することすら出来ない。
昨晩書いて捨てたとして、明日と書いていないということは『次の休み』は今日ではなく次の土曜日のことを指しているのだろう。
となれば、警戒しなくてはならないのはその日。同時にアクションを起こすべきなのもその日ということになる……と美涼は言った。
「危険な日なんだから、家に引こもるべきじゃないの?」
「引きこもったところで、問題を先延ばしにするだけですよ。男らしく行動して下さい」
「僕は男らしくなくていいし」
「なら、私にまで命を狙われたくなければ行動して下さいに変えましょうか?」
「……わかった、やるよ。何をすればいいの?」
美涼は思ったよりも協力的ではあるが、言動から察するに男を毛嫌いしている。
もしも凛斗が変なことをすれば、刺すまでは行かなくとも叩いてくるか、もしくは秘密をバラされる危険は十分にあるのだ。
「じゃあ、とりあえず刺されましょうか」
「は?」
「だって、それが一番簡単に犯人を見つける方法じゃないですか」
「見つけた時にはもう手遅れだよ?!」
「大丈夫です、私がちゃんと埋めてあげます」
「何一つ大丈夫じゃないから!」
……結局、作戦の方向性は『いのちだいじに』にするように頼み込んで、ようやく生存ルートを考えると言ってくれる美涼であった。
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