第5話 口止めには恐怖か報酬が必要になる
何十……いや、何百はあったであろう紙のパズルを完成させた彼女は、それをセロハンテープで綺麗な一枚にくっつけてくれる。
善意の元での行動なのかもしれないが、内容を読まれたくない
「何をそんなに慌てているのですか」
「いや、その、直してくれたことはありがとう。だけど、内容は知られたくないって言うか……」
「それならもう手遅れですよ」
「手遅れ?」
「パズルを完成させるのに、そこに描かれているものを理解しないはずはありません。私、こう見えてパズルが得意ですので」
これが俗に言う天才と言うやつなのかもしれない。凛斗はそう関心ながらも、今は内容についての口止めをしなくてはならないという焦りの気持ちの方が前に出てくる。
「文字が書いてあるパズルは簡単です。その内容が意味を成すように並べればいいのですから」
「じゃあ、読んじゃったってことだよね?」
「そうなりますね」
「だったら仕方ない。親切な君にこんなことをしたくないけど、黙っていてもらわないと……」
手段もモラルも選り好みしていられない。彼はバッテンにしたセロハンテープを図書委員の彼女の口に張り付け、両腕をぐるぐる巻きにする。
しかし、「この粘着力じゃ口封じにもなりません」とあっさり剥がされ、腕の方も手首を捻っておくというトリックであっさり抜けられてしまった。
「もうダメだ……。殺害予告が知られたと分かったら僕は殺されてしまう……」
「何をそんなに落ち込んでいるのですか。私が誰かに言いふらすなんて言いました?」
「逆にこんな面白そうなことを言いふらさないの?」
「私には人の不幸を笑う趣味はありますが、面白い話を伝える友人はいませんから」
「……せめて逆であって欲しかった」
「同情は無用です。面白いことを伝えてくれる友人ならたくさんいます」
「それって本のことでしょ?」
「よく分かりましたね、見所があります」
彼女はそう言いながらウンウンと頷くと、何かを思いついたようにカウンターから身を乗り出して顔を近付けてくる。
表情こそ無機質ではあるものの、メガネを通した向こう側にある目はおもちゃを見つけた子供のようにキラキラと輝いていた。
「この手紙、書き主の名前が書いてありませんよね。もしかして誰が書いたのか知りたいのでは?」
「その通りだよ」
「でしたら、私が手伝ってあげます」
「え、いいの?」
「犯人を見つけるために手がかりを集めて組み合わせる。こんな複雑でエキサイトなパズルは初めてですから」
「楽しまないでよ、こっちは命懸けなんだから」
「人生なんて楽しんだ人が勝ち組なんです。口出しするなら、その手紙をどこかの本の間に挟んで貸し出ししますよ」
「……助力願います」
「素直でよろしい」
そんなこんなで、図書委員の
探偵小説を読んでから犯人探しを実際にやってみたかったものの、平和な学園で事件なんて起こるはずがないため退屈していたらしい。
助っ人となる同期はいささか不純ではあるものの、一人であれこれ悩んでいるよりかは、本好きの知識を味方につける方がいいに決まっている。
「じゃあ、早速だけどこのノートの文字とこっちの手紙の字が同じかどうか確認してくれる?」
「どうして私がそんな地味な作業をするのですか」
「手伝ってくれるんでしょ?」
「……そっちは見たところラブレターですよね。人の恋文なんて吐き気がします、絶対に嫌です」
「だったら殺害予告の方にする?」
「あなたが殺されるところを想像すると笑ってしまって作業が進みませんね」
「本当に手伝う気あるの?」
「あります。私がやりたいこと限定で」
「……左様でございますか」
好きなことを好きな時に好きなようにしかやらない助っ人。果たしてどんな役に立ってくれるのか、はたまた足を引っ張られるのか。
これから先が一気に不安になる凛斗であった。
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