第5話
「私に対する冤罪を突きつけたのに、加害者の方を無罪放免にするはずないでしょ。」
「お、おう、そうだな。なにか希望はあるか?」
おい、こっちに丸投げかよ国王。
「そうですわね。ぶっちゃけこんなことをする人と結婚できませんね。王家の方の有責で婚約破棄をしていただけませんか?」
「お、そ、そうだな。これに関しては余の責任で破棄を認めよう。本当にすまなんだ。」
まあ、自分の息子が仕出かしたことですから、陛下もそう言わざるおえませんね。
「――――――ところでレニー嬢、エリシア嬢の書き込みはわかりやすかったのか?」
私の胸に抱きついたままキョトンとするレニー嬢。そりゃあ天上人たる国王陛下から直接聞かれたら、そういった顔になるわね。
「そうですね。エリシア様の書き込みは本当に分かりやすくて、卒業試験も15位になれました。もし、あの解説の書き込みがなかったら、もし、エリシア様が教科書をくれなかったら、私は100位にもなれなかったでしょう。」
「それほどか!」
泣き腫らした目を擦りながら、さらに半泣きで答えるレニー嬢の言葉に、驚く陛下。少し考え、言葉を発す。
「――――――これは、ちゃんとした解説文を理解できぬ王子を王にすることはできんな。」
「「「!」」」
陛下の発言に驚愕する王子一行。
「エリシア嬢、王太子は廃したいが、どうすればいい?」
陛下が私に聞いてくる。まあ、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥と言うし、それは正しいですが、国王陛下として今聞くのはどうかと思いますが……。まあ、答えておきましょう。
後ろで殿下がなにか騒いでるみたいですけど、それは放置しときます。
「そうですね、通常なら廃太子の儀をする必要があるのですが……。陛下、《立太子の儀》って行いましたか?私が婚約者になってからは行った覚えがないのですが……。」
「《立太子の儀》?」
「あ……、いいです。わかりました。面倒くさいことをしなくていいのでよかったです。」
「どういうことだ?」
んー、今回は関係ないから、説明するのもなぁ。
「後でゆっくり説明しますね。端的に言うと、クリストファー王子は王太子ではありませんので、『王太子を辞めさせる』事はできません。と言うか、必要ありません。ただ、王位継承権を剥奪すればいいだけです。」
「なっ!」
殿下が叫ぶ。
「どうすればよいのじゃ?」
陛下も殿下を放置することにしたみたいですね。と、思ったら近衛に拘束されていた。声だけだったみたいですね。
「……王位継承順の決定方法は知ってますよね?」
「うむ、直系男子が継ぐというものだろう?」
「いえ、ちょっと違いますね。正確には『王位継承順は、直系男子、女子、傍系男子、女子の順に優先する。』ですね。」
我が国の王位継承順の法律を諳じる。
「おい、何でそんなに詳しいのだ?」
王太子が聞いてくる。まあ、通常王家嫡男が継承するから気にしなかったんだろうね。
「それは、単純に私にも王位継承権があるからですよ。当然じゃないですか。」
「「えっ?」」
何で陛下も驚く。もしかして陛下も直系嫡男だから聞き流していた?
私はため息をついて、王位継承順について説明する。
「―――――王位継承順はさっきも言った通り直系男子、女子、傍系男子、女子の順です。このため継承順位は直系男子の王太子殿下が一位、直系女子のサティリア王女が第二位、次に陛下の姉が輿入れしたコルセア公爵家の直系男子が継承順だと上位になりますが、他家の継承者は王位継承順を繰り下げると言う文言があるので、うちの弟ではなく、私が継承順第三位になります。次いで第四位は繰り下がったうちの弟です。」
唖然とする王太子殿下。まあ、私に王位継承権があることを知らなかったから無理もないわね。
「ん?姉上は継承権はないのか?」
確かに、今の言い方だとお母様に継承権が残りそうに聞こえるわね。なので、もうひとつのただし書きで、継承権破棄に関わる法を告げる。
「それは、継承順にもう一つただし書きがあるからですわ。そのただし書きとは、『他家の当主、または配偶者は王位継承権を失う。』と書かれています。お母様は他家、すなわちコルセア公爵家に嫁いだときに継承権を失っています。」
継承順を決めるのはちゃんと理由はあるんで、それも伝える。
「そもそも、王位継承順って後継者を指名せずにお隠れになったときの政治空白を無くすための法律なのよね。」
「そうなのか。」
国王陛下が聞き返す。
「ええ、平時には全く要らない法律ですわ。国王が戦死したり、災害で亡くなったり、暗殺されたりしたときに使われるくらいですわね。」
「そ、そうか……。」
「ま、母上と同じようにどこかの家に婿養子にいくか、新しい家を作りそこの当主を押し付ければ、王子の継承権はなくなりますよ。」
国王になれないことを確定させるだけなら、これでだけですむ。
「なるほど……、そうじゃ、レニー嬢。」
「は、はいぃ。」
「先程クリスがお主と婚約したいと言っておったが、クリスがお主と結婚しウエルト男爵家に婿養子として送り込もうと思うのだが、どうじゃ?」
「えっ、えっ。」
陛下の提案に、パニックを起こしているレニー嬢。
「ほら、落ち着いて、深呼吸して。」
レニー嬢の背中を優しく叩きながら、深呼吸をさせて落ち着かせる。
「落ち着いたわね。じゃあ聞くけど、あなたはクリストファー王子のことをどう思ってる?」
「はい、そうですね。優しくて、色々話を聞いてくれるいい人だと思っていました。」
レニー嬢の言葉で、拘束されている王子が笑顔になった。でもね、
「でも、私が敬愛しているエリシア様の事を貶されて、今は許せません。大っ嫌いです。」
「なっ。」
おー王子の顔が驚愕と絶望になったわね。
「それに、私は卒業後、王宮の侍女になるつもりなので、実家に戻るつもりはありません。ただ、エリシア様が王妃になられないので、どうしようかとは思っていますが……。」
そりゃそうだ、私と王子の婚約は破棄されたから、王家に王子以外の男子がいないなら、私は王妃にならない。
「それについては、ひとつ思い付いたことがあっての。」
そう言うと、サティ王女の方を見る。
「サティよ、お前女王にならんか?宰相にエリシア嬢を付けるが……。」
「いえ、私はお義姉様が王妃になられるから、そのサポートをするつもりで知識を得ておりました。私が女王になるつもりは一切ありません。」
そう言いきるサティリア王女。……ちょっと待て。継承権1位の王子が継承権剥奪確定で、継承権第2位のサティリア王女が王位継承しないと言っちゃったら、継承権3位の――――――。
「陛下、私が王位を継げと言うのですか?」
「そうじゃ。我が子らは国王に値しない愚か者か、継承する意思がない者しかおらん。よって、余の次の王はエリシアとなる。既に王妃となってあの馬鹿の補佐をするつもりでいたなら、自身でも出来るであろう。姉上には事の次第を説明してお主を我が王家の養女とし、継承順を上げるとしよう。」
何この10数分で、未来の王妃から婚約破棄を経て、拘束から国外追放かと思いきや、いきなり次期女王って、私の意思はどうなった?
「でも陛下、私では……。」
「すまん。他になり手がおらんのだ。頼む。」
陛下が頭を下げる。
「そんな、他に誰か――――――」
誰かいないか頭を巡らせる。
まず、馬鹿王子は論外。
サティ王女は色々できるけど、サポートに特化しちゃってリーダーには向いてない。
弟は、コルセア家を継いでもらわなきゃいけないから、却下。
その次の継承者って言うと、お祖父様である先代国王のご兄弟の孫……。さすがにはとこに投げるのはちょっと。
これって消去法的にも選択肢無いわね。
「――――――いませんわね。仕方ありません。わかりました、引き受けましょう。」
こうして、私、エリシア=メリッサ=コルセアは王太女になり、ゴライアス王国の王になるため、奔走するのであった。
婚約破棄令嬢、追放され……ない!?【短編版】 中城セイ @Sei_N
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます