今日は妖精のように(とある妖精の一日)

帆尊歩

第1話  今日は妖精のように

朝、目覚める。

朝日がまぶしい。

なんて良い天気なんでしょう。

何だか今日はとても気分が良い、ちょっと起きてみる。

今日は良い日になりそう。

昨日までの落ち込んだ気分からは想像も出来ない。

今日は何をしようかしら。

今日は気分が良いから、妖精にでもなろうかしら。

妖精だって変なの、この私が妖精、でもいいわ、今日くらい妖精になって見ようかしら。

何もかも嫌になっちゃった。

だから私は、自分に正直に生きることにしたの。

昨日までの私は、ちょっとがんばりすぎたな。

あれ、窓の外、なんていい景色。

遠くまで見渡せる。

ここは、あたしの部屋?タワーマンションという物かしら。

白を基調とした、きれいなお部屋。

とても気持ちが良いわ。

朝は、ハーブティーとシナモンロール。

その後は観葉植物に、お水を上げないと。



「浪速洋子さんですね」

「はい」

「警察なんですが、課長の佐久間さんについて、お聞きしたいのですが」

「どうぞ」

「すでにご存じだと思いますが」

「はい、亡くなられたと」

「ええ」

「自殺、と言うことなんですか」

「いえ、まだそれは、事故と両方で」

「ああ」

「よく一緒にいた方などは?」

「あっ。確証はないのですが、白木舞さんと」

「白木さん?ご関係は?」

「いえ、まあ」表情で、ただならぬ関係と言うのは分かる。

「佐久間さん、奥様いらっしゃいますよね」

「あっ、はい、その、なんというか」

「白木さん。今日はご出社されていますか」

「あっ、そういえば今日は見ていないですね」

「元々お休みとかですか」

「いえ、そういうことではないと思いますが、」

「ちなみに白木さんの家はご存じですか?」

「いえ、タワーマンションと聞きましたが、行ったことは」

「そうですか。では住所とかも、おわかりになりませんか?」

「はい、それも。人事とかに」

「まあこの際だから言いますが、実は奥様にもご連絡が付かないので」



そういえばあの人は、ちゃんとお家に帰れたのかしら。

随分酔っていたから。

奥様とお茶をしていたときに来られて、奥様と急に言い争いになって、でも助かっちゃった。

だって奥様なんだかすごく怒っていて、あたしの首を絞めるふりなんかして、脅かすために果物ナイフとか、私刺されちゃうんじゃないかってハラハラしちゃった。

でもすがすがしく目覚めたんだから、結果オーライかしら。



「主任」

「ああ」

「佐久間さんの奥さん、自宅にいません。連絡付かずです」

「そうか」

「あと、主任に言われていた白木舞さんの自宅分かりました」

「そうか、誰か向かわせているか」

「加藤を」

「タワーマンションなんだろ」

「いえ、二階建ての木造アパートみたいですよ」

「そうなのか」

「はい。それも家賃三万」

「話が違うな」



もうお昼。

お昼はパスタかしらね、このパスタあの人と一緒に食べたかった。

その前に奥様が来てしまった。

早く奥様と別れられれば良いのに、もう一年以上待たされている。

まあいいわ、今日は気分が良いし、ここは快適だから。

今日は妖精のように過ごしましょう。

でも外には出られない、なぜかそれが私には分かる。

なぜここから出られないの、だってここはあたしの家、でもあたしの家ってタワーマンションだったかしら。

まあいいわ。



「主任」

「どうした」

「白木舞の部屋から。白木舞自身と佐久間の奥さんの遺体が発見されました」

「どういうことだ」

「今鑑識が向かっています」



もうすぐ夕方。ここは夕日も夜景も綺麗でしょうね。

そういういえば、こんな所に住むのが夢だった。

そもそも住んでいるって嘘ついちゃったし。

あの人が、あたしを派遣から正社員にしてくれれば、こんな所に住めたかもしれない。

ああ、夕日が綺麗、ベランダには出られそう。

わー、すごい風。

思えば私はあの人の事が好きだったのかしら。

正社員にしてやるって。

それで好きになっていたのかしら。

だとしたら奥様に、口汚く罵られた私は損な役回りよね。

私のせいじゃない、あの人のせい、って言っていたら、あたしはおなかを刺されなかったかしら。

そうだあたし、おなかを刺されたんだ、なんで生きているのかしら。

でも、そんな私を見て、あの人は奥さんの首を絞めたの。

そして。

「舞。本当はお前のことを本当に愛していたんだ」って言ってくれた。

薄れ行く意識の中で息絶えた奥さんを見てあたしは満足だった。

勝ったのよって。

ああ、なんて夜景が綺麗なんでしょう。



「つまりこういうことか。佐久間は正社員の話で派遣の白木と付き合っていた。そこに佐久間の妻が乗り込み、白木舞を刺した。それに逆上した佐久間が妻を絞め殺し、その後自殺したってことか」

「おそらく」

「ヒデー話だな」

「白木舞は、派遣で仕送りもしていて、生活は相当厳しかったようです」

「で、正社員にしてやるって言われて、付き合ったのか。タワーマンションを夢見て、なのに恨みを買って刺された。かわいそうにな」

「佐久間は、白木舞を愛していたのでしょうか」

「それならまだ救われるんだけどな」

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今日は妖精のように(とある妖精の一日) 帆尊歩 @hosonayumu

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