妖精会議(とある妖精の一日)

帆尊歩

第1話  妖精会議

「榊原洋子です。土の妖精を今回拝命いたしました」貸し会議室の入り口で、洋子は名乗った。

受付に座っていたのは長い髪のお姉さんだ。

「妖精なのだから、本名は名乗らなくていい。まあ君が名前を教えてくれたから、私の名前も特別に教えよう。

木幡紀子だ、花の妖精をしている」

「ああ、よろしくお願いします。父が引退したので私が」

「ああ、頑張るんだな。私たち女性の妖精はまだまだ少ない、嫌なことも多いとは思うが、共に力を合わせて、頑張ろう」

「はいよろしくお願いします」訳も分からず洋子は頭を下げた・


会場は確かにおじさん比率が多く、とても定例の妖精会議とは思えない。

木幡紀子などは一番若い、多分洋子より五、六歳上な感じなので、二十後半それでも異彩を放っているから、洋子なんかもう、お子ちゃまである。

会場が閉まり、洋子は紀子にくっついて一番前の席に着いていると、おじさんと言うよりおじいさんと言った方がしっくりくる妖精が近寄ってきた。

「おお、花の妖精のお嬢ちゃん。あれお嬢ちゃんが、もっとお嬢ちゃんを連れてきた」

「土の妖精を仰せつかった。榊原洋子です」

「名前はいいから」と洋子に言われる。

「ああ、代替わりか、まあがんばってね。分からないことがあったら、とりまとめの風の妖精のわたしに」

「はい、ありがとうございます」洋子が頭をさげるやいなや、老人は去っていった。

「用心してね、一番の食わせ物だから」

「はあ」


生きとし生ける者、いや命がない物でも地区ごとに担当の妖精が付く、今日は東京多摩、第五地区の妖精会議の日だった。

第五地区は多摩に統括され、さらに東京、日本、アジア。

最終的に世界連合に統括される。

「席は決まっていないのだけど、下っ端は前なのよ」と紀子、

「女性は、いないのですか」

「いるよ、でも、虫と動物と火の妖精は女性だけど、おばさんだし、考え方はおやじ、仲間と思ったら大間違いだからね」

「はい」

「アッ始まるよ」


「えー本日はお忙しい中、妖精会議へのご参加ありがとうございます。司会は私、風の妖精が勤めさせていただきます」

会議が始まると、風の妖精に名指しされた妖精たちが、次から次へと発表をして行くが、愚痴と文句ばかりだった。


「そもそも水を大事にしない。人間は水がなければ生きていけないのに河川の汚染。ゴミ、目を覆うばかりだ」


「人間は火を悪く言い過ぎる。どれだけ火で助かっているかというの。

火事でも起きれば火が全て悪いみたいに」万事こんな感じだった。


「あのー」洋子が紀子に話しかける。

「何」

「これ人間への悪口大会ですか」

「まだ良い方だ。もっと酷いこともみんな言うぞ」

「はあ」

「次、花の妖精のお嬢ちゃん」

「はい」紀子が立ち上がった。

洋子は紀子に期待した。

「人間は花のことをなんだと思っているのだ。可憐な花を引き抜き、汚い水道水の花瓶に差し込んで、枯れてくれと言っているような物だ」その後も花の妖精紀子の罵詈雑言は続いた。洋子は紀子がだれよりも人間に対しての文句を言っているように聞こえてならなかった。

「次、土の妖精のお嬢ちゃんのお嬢ちゃん。まっ、今回が初めてだから無理しなくて良いからね、出来る範囲で」

洋子が立ち上がった。

全員の目が洋子に向かう。

「あの。あっ、初めまして、土の妖精です」

「よっ、がんばれ」どこかのおじさんが声を掛ける。

「すみません、私は初めてなので分からないのですが。皆さん、もっと対話をしてみたらどうでしょう。能動的に動かないと何も変らないと思います」

その場がシーンと静まりかえった。


これが妖精界と人間界の間で350年にわたる長い戦乱の世の発端だった。

350年の間に多くの人と、妖精が命を失い、あまたの街が焼かれ消滅していった。

世界は混乱し、人々は飢え、文明すらも崩壊仕掛けた。

戦乱を終わらせたのは、妖精の勇者、直子だった。

直子がこの世に生をうけるのは、300年の月日が必要だった。

でもそんな事が起こるなんて、今日ここに集まった妖精は誰一人として知らなかった。


「土の妖精」

「はい」

「このあと何かあるのか」

「いえ別に」

「だったら、自分とお茶でもどうだ、うまいケーキ屋があるんだ」

「ぜひ、今日あれで良かったのか、アドバイスもらいたくて」

「うーん、ちょっと正論を言いすぎかな。自分のように、控えめが良いんだ」どこが控えめだ。

と洋子は思った。

この二人が何千万という死傷者を出す大戦争の引き金を引いたことなど、二人はまだ知らない。


「帰り一杯どうです、風の妖精さん」

「いいですな。ならカラオケにしましょうよ、仕入れた曲があるんですよ」

「お好きですな」

「これが好きで妖精をやっているような物ですから」

「違いありませんな」

親父たちは笑いながら会議室を後にした。

この後の戦乱の350年のことなどつゆ知らず、今日も親父妖精はカラオケに興じるのであった。

そして、長きにわたる戦乱の物語は、次の機会にするとしよう。(気が向いたら)


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妖精会議(とある妖精の一日) 帆尊歩 @hosonayumu

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