異界に侵入成功したけれど、この異界は実際の空間よりも広がっているタイプだったらしい。

それに元のデパート4階とどれだけ同じか分からない。

電気がついて暗くなっているだけではない闇がある。遠くにある壁を見るが窓もなくなっておた。明らかに通常の状態ではない。

(とはいったもの元の形が結構残っていて妖がびっしり蠢いているわけではないな。これまで経験してきた中では比較的易しい部類だ)

まだ過負荷解放の影響が残っている五感で空間内を探ってみるが、ルーティの気配は感じ取れない。

離れた位置にいる可能性が高い。

突っ立ていると棚の陰から爛れた皮膚の死体が飛びだし襲い掛かってきた。

ヒュッ

掴みかかってきた腕を後ろに下がることで回避、ここに来た時点で既に取り出していたナイフで難なく首を斬り飛ばし対処する。

(存在している妖も弱く知能も低いな…)

探った時にルーティは確認できなかったが、低級の妖の気配は確認できていた。

(速度も遅く落ち着いて対処すれば怖い相手ではない…だけど)

彼女はある程度、戦えるとは聞いているが妖との戦闘は一瞬のミスが命取りになりかねない。

早く見つけるにこしたことはないらしい。

注射器を使って過負荷解放の%を上げたい所だが、ルーティを見つけられたとしても、アレの効果時間中にこの異界にケリがつけられなかったらまずい。

強力な切り札であるが諸刃の剣であり、使用タイミングは慎重になるべきだ。

(とにかく足を動かしてこの空間の把握をするか)

行動方針を決めてから歩き出す。


服の掛けられたスタンドを横切って進む。服が並べられた棚を通る。テントが展示されているコーナーを素通りする。

(予想の範囲内であれどデパート4階の一部異界化が行方不明の答えか。)


服の掛けられたスタンドを横切って進む。服が並べられた棚を通る。テントが展示されているコーナーを素通りする。

(突発的に発生するものと、妖やそれに類する存在が作為的に作るものがあるが、強力な妖の気配はないから前者かな)


服の掛けられたスタンドを横切って進む。服が並べられた棚を通る。テントが展示されているコーナーを素通りする。

(誰かが悪意を持って作ったものでないのならば、行方不明者達も全員とは行かずとも数人は助け出せるかもしれない)


服の掛けられたスタンドを横切って進む。服が並べられた棚を通る。テントが展示されているコーナーを素通りする。

(いや、僕は善人じゃないんだ……依頼は妖災と思われる事件の解決。行方不明者の救助でなくもうこれ以上、異界で行方不明者が出ないように対処することを考えればいいんだ……)


服の掛けられたスタンドを横切って進む。服が並べられた棚を通る。テントが展示されているコーナーを素通りする。


(キリがないっ!ループしてるのか!!)

試しに服やテントをずたずたに切り裂いてから先へ進むことにする。が、その先では切り裂かれた服やテントは一切なかった。

後戻りしてみると僕が切り裂いたものがそのまま残っている。

(……同じ空間をずっと回っているのではなく、ちゃんと進んではいるのか。だとしても広すぎて終わりがない可能性がある。…

…このままルーティを探すのではなくこの異界の破壊を優先目標とすべきか…いや時間間隔が外とは違うかもしれない、だとしたら彼女が既に危機に陥っているかも…?)

何を優先すべきか立ち止まって思考する。答えが出る前に


バチチチチッ

強化されていた五感が微かな音を捉えた。音のするあたりで何かが光ったような気もする。

(どうする?アレがルーティかどうかの確信が…持てないな…僕を嵌めるための罠の危険性が…空間把握に長けたヒューミリエに同行してもらうべきだったか…)

チッ舌打ちをする。すぐに臆病風に吹かれて保身を考え立ち止まる自分の悪癖に反吐がでる。


(善人を見捨てるのは後味が悪い。任務達成のためにも情報を得る必要がある!考えていて止まっても仕方ない、動くぞ!)

そう自身に叱咤して、音と光のした方向へと走り出す。

さっきまで音と光は何回か聞こえたし見えたが走っているうちに静かになる。

(!手遅れになったか!…クソッ!急ぐぞ)

方向を覚えているうちに進もうと更に速度をあげる。


「誰かあ!」

「助けてくれーー!」

声が聞こえるルーティの声ではないが誰かがピンチに陥っているようだ。

彼女でなかったことに落胆すべきか、危機に陥ったのが彼女でなくて安堵すべきか。

(であれば、ここで切り札は切るべきではない…か?)

「助けてーーー!助けてーー」

声は止まらない。

(………………クソッ…これで本当に助けを求める人だったら見捨てるのは後味が悪い……後のことは後で考えるか)

自分の面倒な性格に嫌気がしつつもやむを得ず過負荷解放を使うことを決める。


(通常解放時の%以上の力を出すために注射器を使うべきだな)

懐から取り出した注射器を右脚へと刺す。

(過負荷解放25%脚部強化)

じゅくっずくずっううう

膝からどろりとした漆黒の液体が染み出し両脚全体が肥大化し固い殻に覆われていく。

足指は爪のように鋭く尖り、そこ以外の部分も所々が刃物の様な突起が飛び出している。

異形の両脚だ。

肥大化した黒い足で強く地面を踏みしめる。右脚を後ろに引き前屈みとなる。前にある左脚へと体重をかけた。

そして悲鳴の聞こえた方向へ向かって力を込め脚で地面を押し出し駆けた。

一歩で数十メートルは進む。前方にある棚等の障害物はその勢いのまま吹き飛ばす。(道中、何体か妖も巻き込まれていた)

段々と助けを呼ぶ声が近づいてくる。老夫婦が泣きながら叫んでいた。

(見た所、ケガはしてないが走っているから誰かに襲われていた、という所か)

「大丈夫ですか?助けを求めていたようですが」

一瞬、僕の脚を見てギョッとしたように固まった。

(しまった、今の僕の状態を忘れていた)

あまりにも単純な凡ミスに後悔の念が押し寄せてきたが、

「お願いしますっ!!死体に襲われてっ!私達を助けるために残った女の娘が後ろにいるんですっ」

夫婦は最終的に今はそんな場合でないと結論したのかそう訴えてきた。

(いや待てよ、まさかその娘って)

すぐに夫婦の後方へと五感を集中させる。

(これは多数の妖に襲われている!かなり善戦できているが、いつまで持つか)

状況を理解し、再び脚に力を入れて走り出す。

かなりの速度がでているはずだが、気を急いているためか遅く感じる。

(もっと速く、速く!)

すぐに死体に襲われ、今にも食われそうになっているルーティが見えてきた。

(間に合ってくれよ)

「おおおおおおおおおおおおお!」

右脚へと力を込めて一気に跳躍する。

ダンッ 

音を立てて死体型の妖の群れへと降り立ちその衝撃で数体が吹き飛んだ。

「!?がっあああ、ぐうううう」

「あ゛…あ゛あ゛…あ゛」

こちらの存在に気付いた死体たちが押し寄せてくる。


体を掴まれる前に脚をしならせ鞭のように蹴りつけ纏わりついてくる死体達を退けていく。

何体かは僕の脚を掴もうと腕を伸ばしてくるが大した筋力はないらしく、そのまま脚を蹴りで振りぬくことで肉体は破壊できた。

「っ!っ!っく!!!っ!!っ!」

繰り返していくうちに死体の数はどんどん減っていった。

「ふーーーっはーーーっっく」

殲滅が終わり、力を抜くとどろりと足を覆っていた黒い甲殻が溶けて元に戻っていく。

目を下の方へやるとへたり込んでいたルーティが見えた。どうやら無事だったらしい。

安堵するが、

(ひょっとして助けが入ることが遅かったことに文句を言われるかもな…)

と別の心配が湧いてきた。

(そもそもこういう状態ではどう話しかけるのが正解なんだ?)

第1声をどうするか適切な答えは出せなかったので、できる限り刺激しないよう、自分なりに無難だと思われるものを選択した。

「ゴメン、遅くなった……あー待ったよね」

と話しかけた。





目の前にいたルーティは放心状態らしく、ぼんやりと僕を見つめている。

どうしていいか分からず、無言で見つめあう時間が続く。


「あー大丈夫?ってそんなわけないかハハハ…どこが痛い?」

「…………」

沈黙に耐え切れず何とか発言を絞り出したが反応は帰ってこなかった。

途方に暮れたが、

ルーティが立ち上がろうとする。まだ、足に力が入らなかったのか震えて転びそうになったので体を支えた。すると、

「うぅぅぅ…ええええええん…まっマっマガツさああん」

と泣き出した。体が震えている。

どうやら後から様子を見に来たらしい老夫婦が視界に映った。こちらに腕を広げて締めるジェスチャーを送ってくる(案外、余裕あるのかこの人達)

それはともかく鈍い僕でもようやくこの局面で何をすべきかはわかった。

彼女をそのまま抱きしめ、あやすようにポンポンと背中を叩く。

ルーティが泣き止むまでそれから数分はかかった。



合流もできたのでお互いの持つ情報を確認を行った。老夫婦は近くで休んでもらっている。

やはりこちらと外との時間軸はズレがあるらしく、ルーティはこの世界で数時間程は過ごしていたようだ。

行方不明者である老夫婦は自分達以外の人間は見たことがないら他の生存者は不明。

異界の出口も不明。

まだ僕は見かけたことはないがナメクジ型の大きな妖をルーティは目撃している。

以上を踏まえて作戦会議を開く。

「そこまで脅威度の高い異界ではないけど、常人にとっては十分死ねるし、発狂しそうな空間だね」

「どうすれば出られるでしょうか…」

「異界を出る方法は、基本的にその異界に適した手順を踏んで出る。異界を形成した原因である核を発見して破壊。の2つの方法がある」(例外的には外側から空間ごと破壊する方法もあるけど現在の状況では不可能だ。)

異界のことはあまり知らないようなのでルーティに説明をする。

「核ですか?」

「ああ核といってもその異界によって形状は異なる。元となる妖である場合、何らかの物品である場合、建物や空間全体が核そのものである場合もある。」

要するにケースバイケースで決まった形はないのだ。

「それですと今回の場合は…」

「ルーティが見かけたナメクジ型の大きな妖は聞いた情報から察するにボラバドサスという妖だと思う。さっき僕が強化していた時に五感で探ったら一際大きな力を感じた妖がいた。」

「なっなるほど、アレですか…じゃあ私が見かけた時にすぐ攻撃してれば…」

どうやら見逃してしまったことを悔いている。

「いや敵の力は分からない以上、ルーティ一人では危険だった。逃げた判断は正しい、僕に任せてくれた方がいい」

と気にしないように伝える。


「場所は把握できたからそいつの所に向かいたい。ただ行方不明者の夫婦も放ってはおけないからルーティは夫婦を守ってついてきて。核の破壊は僕に任せて。対象に近づけたら僕の認識できるある程度の距離までに離れておいて」

「はいっ!」

作戦はまとまったため行動を開始する。

老夫婦には悪いがもう少し歩いてもらうことになる旨を伝えたが、理解を示してくれて夫の方はガッツポーズまでしてくれた。




ボラバドサスのいるエリアまで移動してすぐに見つけられた。速度が死体以上に遅く、さっき認識できた位置から大して動いていなかったためだ。

(高く見積もっても精々Cランク程度だな…もっとも人間を殺すには十分な機能を備えているのだろが)

視認できた所で改めて分析する。強敵ではないだろうが、油断できる相手ではないって所か。今ままでだって退治したことのあるランクだ。

何とかポジティブになろうと努力する。内心、誰かに任せたい気持ちでいっぱいだが、この場で一番強いのが僕なのでどうしようもなかった。


ルーティ達に手を上げてこの辺りで待つように伝える。3人が頷いたことを確認し、僕は後ろからゆっくり近づいていく。

注射器を用いた過負荷解放を使いたいところだが、短時間で2回以上使用は正気を失ったり肉体が壊れるリスクが格段に高いため使用は控えることとする。

実際、表情には出さずバレないようにしているが今も両脚は痛みがあり思うように力が入らない。

息を潜めて妖へと近づく。早めに決着をつけようと急く気持ちを抑えて銃を構え狙いを定めた。

パンッ

狙いを定め、中心部分へ向けて撃ち込んだ。が、何の変化もしない。

パンッパンッパンッパンッ

連続で撃つがダメージを与えられている気がしない。

(というか皮膚で弾かれている)

藻が生えているうえにヌメヌメしている諸そうな皮膚だが、想定以上の硬度をもっているようだ。安全圏から仕留めたかったがそうもいかないらしい。

僕の人生ではよくあることだ。

ぎゅるっ

(!?)

何度も撃ち込まれ怒ったのか急に素早く振り返り顔を、向けてきた。

ギシャアアアアアッ

つるっとした体の前面に切れ目が入って開く。中には赤く鈍く光る玉、何本も触手のように生えている舌と牙が見えた。

(あんなでかい口があったんだな…それよりあの赤い玉から強い力を特に感じた…核で確定か…)

こちらの体を捕えようと舌を伸ばしてきた。僕は銃は左手で持ち、右手でナイフを取り出した。

(っ!!っ!)

ぐちゃぐちゃぐちゃ、ベタタタタタ

殺到してきた舌達をナイフで捌く。

ザンッザンッザクッザン

(切断できる…できるが切った傍から再生していて終わりが見えない…)

ナイフで舌を切り裂きながらバックステップで距離を取る。

服の棚を盾にしようと陰に隠れたが、

「ぢぇあああああああああああ」

舌で棚全体を掴んで持ち上げた上に隠れていた僕へ向けて振り下ろして来た。

「っくっ!!」

持ち上げられた時点で回避行動のために動き始めていたので何とかぶつからずに済んだが、ぶつけられて破損した棚の破片がこちらに飛んでくる。

(このまま長引けば体力の差でこちらが負ける。危険だが奴の口の近くまで駆けそのまま口内の核を撃ちぬこう)

再度、こちらを発見したボラバドサスがまた舌を伸ばしてきた。

「行くぞっ」

脚に力を込めて舌に触らないように前方へ向かって回避する。

敵の表情が分からないため確実なことは言えないが口へ向かって僕の方から駆けてくることが予想外であったらしく、舌は僕の背から結構な距離ができる。

(ここで決める!)

舌を潜り抜け目的の口まで接近できた。

(ここまで近づけば舌に邪魔されることなく仕留められるっ)

核である玉に狙いを定めて…

ドクンッ  心臓が大きく跳ねた

(がっあっ!!)

どうやらこんな時に反動が起きたらしい。

(まずいッ脚が…いや全身の力が抜けるっ…ここまでの反動も久々だ…異界の影響もあるのか?)

などと考えている内に複数の舌が伸び全身を掴まれ手足が封じられた。

抵抗するがとても弱弱しい力しかでない。そのままボラバドサスの口へと運ばれていく。

(当初の予定どおり…過負荷解放はキメ時まで…使うべきではなかったな…僕ってやつはどうしていつも判断を誤るのか…)

こんな状況なのに自分の判断の愚かさに呆れて苦笑してしまう。諦めてさっさと楽になろうと力を抜き目をつぶる。

(できるだけ痛くありませんように)

ぐいッ

(?)

ボラバドサスとは逆方向に体が引っ張られた。

何事かと思って振り向くとそこには老夫婦が僕の両腕を掴んで引っ張ってくれていた。ボラバドサスの舌も引きはがそうと顔を真っ赤にして力を入れてくれている。

(はっっっ!…っっなっ!?)

「まってろよお!助けてやるからなあっ」

「この化け物っ離しなさい、離しなさいっ」

(……………っ!!)

言葉にならない思いがこみ上げる。それは悔しさか怒りか喜びか驚きだったのかわからない。

ただ、自分がしなければならないことはわかる。

この人達を助けた判断を誤りだったと笑うような奴を助けようとしているのだ。その助けられている当人が簡単に諦めていい筈がない。

既に全身から力は抜けていたが、

「がっがああああああああああああああああ」

なけなしの力を振り絞って体を動かして抵抗を行う。

「おおおお!その息だっ」

「あとちょっとよ」

3人で力を合わせ一瞬、わずかだが僕とボラバドサスとの間に距離が隙間ができる。


「今ですっ!!」

電撃を溜め攻撃のタイミングを見計らっていたルーティがその隙間に飛び込み、ボラバドサスの口にスタンロッドを突っ込む。そして

「最大電力解放!!」

バチチチチチチチチチチチチッバッチイイイイイ

「ぎゅああああああああああっ」

眩い閃光に辺りが包まれた。ボラバドサスが苦しみのたうち回る声が聞こえる。

バキキキイッ

核にヒビが入った。僕を掴んでいた舌達は本体を守ろうと拘束を解き口内へと戻ろうとする。

「逃すかっ」

突然、口へと引きずり込もうとする力がなくなったことで老夫婦は地面へと倒れた。

自由になった僕はナイフを構えて奴の舌よりも速く核のヒビへとナイフを突き刺した。

バキバキバキキキイッ

ヒビが広がり完全に核が砕け散った。


「はあっはあはあ」

「ひーっひーーっ」

「ううう…」

「っはあ、っはあ、っや、やりましたねマガツさんっ!」

4人とも息が荒く疲労困憊状態だった。

「っそうだね、これで核は破壊できた。直に異界が消滅して元通りになっていくよ…」

そう言いながら周囲を見回すとさっきまで薄暗く息苦しさを感じたフロアが端から透明になっていっている。異界全体が光へと包まれそしてーー。




気付くと僕達は元のデパートの4階にいた。窓から日差しが入ってきており、もう朝になったみたいだ。

4人で顔を見合わせる。

無言で老夫婦の夫が拳を顔の前に上げた。それを見て

「ふっ」

「ふふふふっ」

「あらあら」

皆で笑いながら拳をぶつけあった。皆で帰ってきた、皆の勝利だ。

僕は一人で動くのが好きだが、たまにはこんなことがあってもいいのかもしれないな。

らしくもなくそう思った。




元の世界に戻ってきた時間は朝だったが、まだ4時半だった。

さすがにもう誰も残っていないだろうと思いながらもバックヤードを覗いたがまだオーナーは起きて椅子に座っていた。消えた僕達のことが気になっていたので帰っていなかったみたいだ。

見上げた職業意識の高さだ。皮肉抜きで見習いたい。

事の顛末を報告する必要があったが、まず行方不明者達(意識不明ではあったが、老夫婦以外も数人がこちらに戻ってこれていた。)を病院で連れて行ってもらうようにお願いをした。

僕たち自身の疲労も相当溜まっていたため、もう事件は起きないことを伝え詳細は後日改めて伝えるという話で納得してもらった。

そして帰り道、

「お疲れ、ルーティ。今回は君がいてくれて良かったよ、本当」

「いえそんな、私なんてマガツさんがいなかったらどうなっていたことか…」

手をぶんぶん振って否定している。

「ああ、謙遜はしなくていいさ、死体型妖への立ち回りは見事だった。正直舐めてた自分を反省したよ。あの状況であそこまで上手く立ち回れる奴もそうはいない」

「本当ですか!そう言ってもらえると私も嬉しいです」

少し顔を赤らめて照れていた。

「だけど、どうする?」

「えっどうするとは?」

「今僕が言ったことは本心だけど、また同行するなら今回みたいに危ない目に合う可能性は高いよ、それでも続けたい?」

確かにルーティの戦闘力、頭のキレは想定以上に良かった。才能だけなら僕を超えている。(僕が非才なのもあるだろうが)

しかし、彼女の本分は学生である以上、危険に突っ込むことはおススメできなかった。


「……………………私、自分の至らなさを、また実感してしまいました…」

沈黙の後、静かに話し出した。

「そして妖災に苦しめられる人間は、私の知らない所でもいることも実感しました」

目を上げてこちらの目線に合わせてくる。

「私もっと強くなりたいです!!それに少しでも苦しむ人の力となりたいと思いました!ご迷惑でなければ続けさせてくださいっ」

頭を下げられる。意思は固そうで翻すことは難しそうだ。


「分かった。迷惑だなんて思ってないよ。君は十分強いと思うけどね。こちらこそよろしくルーティ」

「よろしくお願いしますねマガツさん!」

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マガツ異形怪奇譚 ~異形を体に宿した男が裏社会を生き抜く~ 佐口木座九 @naroukizaku

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