三百代言

結騎 了

#365日ショートショート 300

「そんな言い方は三百代言さんびゃくだいげん的だ!」

「おっと、久しぶりにそんな言葉を聞いたよ。意味を説明してごらん」

「詭弁を用いるな、という意味だよ。これは君を正面から罵っているんだぞ」

「そこまで言うなら、三百代言の由来は知っているんだろう」

「えっ」

「なぁんだ。知らないのか」

「くっそ……」

「いいかい。明治時代に、三百代言乃介さんびゃくだいげんのすけという商人がいたのさ。彼は口が上手く、やり手だった。いわゆるセールストークに長けていたんだな。だから、同業者からひどく妬まれたという」

「そ、それで」

「同業者たちは当てつけのように彼の名で悪口を言ったのさ。口先だけの男を、三百代言と。しかしまあ、これはなんというか、根性が曲がった話だ。腹の底では彼の成功がさぞ羨ましかったのだろう。人間のなんとちっぽけなことよ」

「つまり君が言いたいのは……」

「そう。わざわざそんな罵り方をして、君は本心では俺のことを羨ましがっているんだ。そうだろう」

「そんなはずはない!」

「ま、三百代言乃介なんて男はいないだろうけどな。さっき考えた」

「なんて三百代言的だ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

三百代言 結騎 了 @slinky_dog_s11

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ