第9話違うそうじゃない

 正座。

 ただ膝を揃えて座っている訳では無い。

 あれは構えだ。侮ってはいけない。この場合、制圧できればよいが、彼女はそれができる相手ではない。それは先刻の通りだ。そして同じ様に距離を取る。


 膝行や半立見たことがある人もいるだろう。あれを思い浮かべてくれればいい。既に移行した状態で… 距離を取ったはずが、そのままに壁に激突した。


 びっくりである。ツェペリさん宜しくある意味飛んだ。今なら波紋の呼○を会得してしまったかもしれない。


 「…ちょっとタンマ。待ってくれる?」

 「ぷっ…、あはは。まあ、いいけど。試しただ     けだし。それにしてもやっぱり躱したわね」


 何処か納得した様子の彼女は鉾を収めてくれた。情けなさに恥じながらも俺も立ち上がると自分の身体を確かめる。手を開いては閉じ、体側をひねってみたりと動かす。違和感はなかった。

 壁に激突した際の痛みはあれど、動作に問題はなし。ぶつかっただけなので壁自体にも問題無し。良かったぁ。


 「あぁ、さっき試したって言ってたけどこれの原因しってんの?」

 「うん。知ってるわよ。まあ半分は貴方でしょうけどね? 残り半分は私かな…」

 

 少しゴメンね。見たいなニュアンスを乗せた返答だった。しかし。お、そっか仕方ないなぁとはいきません。

 可愛いからって全てが許されるわけでもないんですよ〜。知ってましたかお嬢さん?


 世の中には身体で払ってもらうこともできるんですよ~。の念を込めてみる。

 じ〜、じ〜〜〜、じ〜〜〜〜〜

 俺の邪な念が届いたのか彼女はたじろいだ。良い反応です。ありがとう。とても嬉しいです。ルンルンです。

 と、脱線したな。ふぅ~、どうにも彼女の一挙手一投足が気になって仕方がない。なんだかソワソワポカポカと心が浮ついている。

 意識して構えないと、直ぐに許してしまいそうな、甘やかしてしまいそうな、そんな気さえする。


 しっかりしろ俺。


 と、頬を両手でパンッと張る。


「何してるの? 

 あ、そっか。身体痛かった? それと指の火傷  も。ん〜はい。これで問題ないと思うけど」


 いつの間にか側までやってきた彼女は俺の身体、心臓辺りに手を置くと何か呟いた。スーと温かい何かが入り込んできた。


 身体が歓喜に震える。細胞の一つ一つまで、余すことなく活力が漲る。壁にぶつかった痛みも、ヤケドした指先の少しジンジンとした感じの痛みもまるで感じない。今なら空も飛べそうだ!

 この万能感はまるで…


 「…一部凄く元気見たいだけど」


 気づかれていたか、そっと腰を引く。

 己への説明がてら誤魔化そうとしたのに。

 うう、恥ずかしい。二度目とはいえ、自己主張してくる自分のムスコに愚痴る。

 真っ裸で見られた一度目も恥ずかしかったが、服を着た状態で分かってしまうのもこれはこれで恥ずかしい。ほら、アレだよ。隠されていた方が、妄想も捗るってもんだろう。

 違うか? 違わないよな?!

 女の子の前で何やってるんだ。大人しくしなさい。君はできる子だ。


 「まあ、仕方ないんじゃない?

  死にかけてたから、…種の保存とかなんとかそんな感じじゃないかしら」


 え?

 何いってんの? そんな訳ないじゃん。こんなに元気です。特に一部。ビンビンだぜ。今なら君を抱えてアイキャンフライだって出来るよ。


「貴方は、死にかけてた。覚えはあるでしょう?

 危なかったんだから。」


 そう言った彼女の言葉を否定出来なかった。

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たのしくいきる @atonashi

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