第8話おはようから始めよう

 「おはよう」

 「…」

 「…」

 「おはよう」

 

 ん、朝の挨拶は大事だ。

 気持ちの良い朝だ。なんて清々しいんだろうか。自分で淹れた珈琲を呑む。美味いな。彼女の前には入れ直した紅茶を出してある。絵になるねぇ。同じ様に一口呑んでるだけだが、こう、気品というか何というか、所作が美しい。

 美人で、綺麗な女性と言うのは居るだけで一帯が良いものに思えてくる。一人暮らしの家には勿体ない。

 因みに彼女は今二人掛けソファに座っていて、自分は正座だ。間には申し訳程度の小さなテーブル。つまり俺の定位置は奪われているのだ。そう、判決を待つ罪人の様に。…家主なのに。

 

 珈琲をまた一口呑むと、ヤケドした指先がカップの熱にあてられて、少し傷んだ。

「どうすんだこれ?」と自分に言われた気がした。


 「それで、どうしてここにいるのか教えてもらえますか?」

 「当然の疑問だけど、普通に喋ってくれていいわよ」

 「…あ、ああ。ありがとう。…助かる」

 「ふふふ…、お礼を言われるのってなんかくすぐったいね」

 今更取り繕った言葉に恥じながらも、心の中で感謝した気持ちが口をついてでる。彼女は本当にくすぐったい様に、少し頬を緩ませながらことばをかえす。

 ん?

 そうだろうか。そうなのかもしれないと気づく。何気なさ過ぎてそのままにしていたが、「ありがとう」と言う言葉自体も使わない訳では無いが、心を少しでも込めてなんて随分と使ってなかった気がする。日本人なんてむしろ「すみません」が多い。ありがとうと言う代わりについてでる事が殆どだ。心は籠もっているのだろうか。

 迷惑をかけて、時間を取らせて等、応用でき便利な本当に便利な言葉だ。

 

 偶に本や漫画などてアレだ。

 「すみませんより、ありがとうの方が嬉しい」

 まさか、自分が使った側で、やられるとは。


 はあ〜、散々気になってた事は色々あるが、恥ずかし。今一人ならその辺ゴロゴロして、ヒャ〜となりながら、叫びたい!!

 内側から歓喜の声が聞こえる。どうしちまったんだよ! どうしちまったんだよ!


 かわいい顔して、なんて事言うんだよ。どうしてくれんだよ!?


「かわいいアレならさっきから見たよ?」


 おっと、思い出させるんじゃないよ。折角スルーしてたのに。なんで真っ裸とか、ナニが元気とか、金髪美女がここにいるとか、いまさ…ら…


「そ、そぅだ。質問。答えて!」

少し日和った。


「そうね。何からにしようかしら?

 ん〜、取り敢えずやっぱりこれかしらねッ」


 眼前に迫る切先。それを何とか躱す。


 そこから、始めんの?!

 なんて事を思った。

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