オイラは陽気なレッドキャップ

kou

オイラは陽気なレッドキャップ

 ウシガエルが鳴くようなイビキが聞こえる。

 夜の誰も居るハズのない山中の廃工場。

 その地下倉庫から響く音だ。

 薄暗い地下室で大の字になって眠る一人の男が居た。

 身長120cm程の、小太りの老人のようだ。

 赤錆色の帽子を目深に被り、口元にはヨダレの跡が残り、手には缶ビールを持っている。汚い服装に汚れた作業ズボン、靴下なしの裸足に靴を履く。

 どう見ても酔っ払いだが、こう見えても立派な妖精だ。

 赤いスカルキャップを被っていることから、みんなからレッドキャップと呼ばれる。

 彼の傍らにてスマホのアラーム音が鳴る。

 地下室を抜け出す。

 日はまだ昇っていない。

 夜空を見上げれば、薄っすらと星々が見える。

 そんな景色を見て、彼は大きく欠伸をした。

 眠気眼を擦る。

 彼はスマホでニュースサイトを開き、世の中の情報を仕入れる。

 近場のトピックスは、公園広場でのホームレス狩り。

 ここ数ヵ月の間に、その近辺で6人もの人間が意識不明の重体にされていた。ホームレスの容態から犯人は複数犯と思われる。

「ん~日本も怖いねえ。今日は町で寝泊まりするかな」

 スマホを操作し、地図アプリを開く。

 画面に映し出されたのは、その町の全体図。赤いピンが刺された場所が公園だ。

 その場所に行くにはどうすれば良いかを調べる。使い方がイマイチ分からなく、四苦八苦する。

「最近は幽霊でもビデオを使って呪い殺したり、地獄の必殺仕事人がインターネットを使う時代なんだからな。妖精もちゃんと使いこなせ……っと! おお!」

 ようやく操作方法が分かり、目的地までのルートが表示される。

「徒歩で4時間か、今から行くには早すぎるってもんだ。オイラは夜行性だからね」

 廃車のトランクからキャンプ道具を引っ張り出し、コッヘルに水を入れ焚き火で湯を沸かす。

 手動コーヒーミルにコーヒー豆を入れてハンドルを回す。ゴリゴリと豆が砕ける音と共に芳ばしい香りが漂ってきた。フィルターに挽いたコーヒー豆を入れ、お湯をカップに注ぐ。インスタントより遥かに美味いコーヒーが出来上がった。

 ブラックのまま口に含む。

 口の中に広がる香味と苦味に、彼は満足げに笑みを浮かべた。

 残ったコッヘルの湯には、インスタントラーメンを割り入れて2分茹でる。

 硬めが彼の好みだ。

 彼は、ゆっくりと味わい、腹を満たした。

 のんびりしていると昼近くになる。

 近くの小川で釣りをしながら、ビール片手に昼寝をする。そんな事をして過ごすうちに時間は過ぎていく。釣れた魚は内蔵を抜いて塩水に浸し干し魚にする。

 夕方近くになると、スマホを見ながら出かける。

 山を降りていると、コマドリに会った。

「妖精さん、元気でヤッてますか?」

「やあ。元気でヤッてるよ」

 彼は陽気にするが、コマドリは首を傾げる。

「それにしてはトレードマークの帽子の色がくすんでますね」

「だからの、お出かけなんですよ」

 彼とコマドリは笑い合った。

 目的地である、公園に着いた頃には、辺りは、すっかり日が落ちていた。

 彼は疲れを癒す為にベンチに寝転ぶと、帽子を目深く被って目を閉じた。

 イビキをかいて寝ていると、人の気配がした。

 彼は帽子をずらして片目を開けて見る。

 そこには3人の少年が立っていた。

 手にはバットを持っている。

 どう見ても友好的ではない。

 少年の一人が彼目掛けてバットを振り下ろしたが、バットは空を切ってベンチを叩いていた。

 少年達は驚く。

 そこに居るハズなのに居ない。

 不思議な感覚に襲われる。

「こっち🖤」

 声が上からした。

 少年が上を見ると、真っ赤な目を輝かせ、口には小指程の牙を唇から突き出させた老人が空中に居た。

 飛んでいた訳ではない。

 落下中だった。

 手には分厚い鉈が握られている。

 彼の落下と共に、鉈が少年の頭に振り落とされる。

 彼は、着地と同時に地面を踏み締め衝撃を殺す。

「安心せい。峰打ちじゃ」

 口元を、彼は緩める。

 少年は、頭が鉈の峰形に陥没し顔中の穴から血飛沫が飛び散り、目玉はピンポン玉のように剥き出していた。

 とんだうそぶきだ。

 残りの2人は、老人の化け物と殺人現場を見て逃げ出した。

 彼は嘲笑った。

 楽しそうに。

 突風が吹き荒れるような凄まじい速度で、彼は少年の背中に追い付くと鉈を首根に振り下ろし、もう一人には正面に回って胸に鉈を叩き込んだ。

 彼は、瞬く間に3人の少年を死体という肉塊にした。

 返り血を浴びた彼の帽子は赤くなり、舌舐めずりした。

 【レッドキャップ】

 イングランドとスコットランド国境付近の洞窟や廃墟に出没し、夜中に人を襲う極めて危険な妖精。

 遭遇した場合には直ちに逃げるべきとされる。

 彼らの名の由来となっている帽子の赤は犠牲者の血で染められたものであり、その血で帽子を染め上げることを至上の喜びとする。


 真っ赤帽子の、妖精さんは~♪

 いつも、みんなの嫌われ者~♪


 彼は歌いながら、その場を後にする。

 自分の家に帰って来た。

 そして、地下室に入り眠りにつく。

 今度は、どんな獲物が見つかるだろうか。

 楽しみで仕方がなかった……。

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