安らかに眠れ。

土蛇 尚

AMMO

 祖父が死んだ。最後の会った記憶は小学生の頃だった気がする。大学で院生をしていた俺は、一人の老人が死んだ事を他人事として認識した。


 棺桶に入った祖父を目にしてもやはりただの老人としか思えない。

 その認識は箱に入った祖父が俺に一つの箱を遺していた事を知り覆る。


 祖父は生前猟銃を趣味にしていたようだった。周囲の話を聞く限り、趣味と言うよりもっと別の向き合い方だったらしいけれど、所詮は学生の俺には趣味と言う他の捉えようが分からない。


 その箱はガンロッカーと言うものらしく、祖父は遺言にきっちりこれを俺に遺すと記していたようだ。どうせならただの丈夫な箱ではなくて、猟銃の方を遺してほしかった。しかし銃の方は既に売却されて、地元の農学部へ寄附金にされていた。ロッカーの中を開けると木と鉄の匂いがした。これが祖父の匂いなのかもしれないが俺には知りようのない事だ。


 祖父は案外いい怪訝な人だったようで、ロッカーに棚が後付けされて弾薬の空箱が残されていた。銃に縁がない俺でも弾さえなければ、ライフルは重い棒にすぎない事が分かる。それを一緒に保管していた祖父の杜撰さはどこか面白かった。


 俺はその弾薬の空箱を手に取って見た。箱の側面を見るとどこか間抜けなフォントで『AMMO RIP』と書かれている。


rest in peace


 祖父はこの弾を銃に込めて鹿や猪を撃ち殺してたようだ。このブランド名を考えた人間も大概だが、この弾を敢えて選んでいた祖父はもっと分からない。

 故人の事なんて分かりはしないだろう。もう話す事も会う事も出来ないだから。


RIP


安らかに眠れ。


 終わり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

安らかに眠れ。 土蛇 尚 @tutihebi_nao

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ