傀儡の踊場
こんなことが。
こんなことがあるのか?
たった一瞬で、己が苦労して築き上げた魔法が組み伏せられた。完膚なきまでに。もう己が切れる多くの
もしも、このまま突貫させればどうなるのか? 一度シリカに異端児は勝ってみせたという。それに、今はセシルも傍にいる。二対一。いや、自分も頭数に入れればまだフェアだ。
でも、勝てるのか? シリカを加えても、あの天才に? 今目の前に広がっている光景が、ビジョンを脳裏に描かせてくれない。
(……また?)
また、弱者は強者に負けるのか?
この時のために血の滲むような努力を積み上げ、
圧倒的天才の前には、凡才の努力など意味を成さないのだろうか?
結局、才能がない者は日の目を浴びることもな───
「……いいやッ」
そんなことあってたまるか。
こんなことあってたまるか。
才能のない者が一生日の目を見ない世界なんかあってたまるか。
「私はッ、まだッ、負けていないッッッ!!!」
強者を従えて、強者が認めた強者をことごとくねじ伏せていく。
そうすることによって、今まで比較してきた脱落者も、弱者を眼中にも入れない強者も見返すのだ。
この先どんな罰が己の身に降りかかろうとも、己の自己満足だけは筋を通してみせる。
でなければ私は、この先一生希望もなく凡人の道を歩いていかなければならない。
だから───
「
ユーリは、体内にあるありったけの魔力を解放する。
「
その瞬間、アルヴィン達の視界が変化した。
♦️♦️♦️
「……ぁ?」
何が変わったかと言われれば、視界は変わっていない。
シリカも、ユーリも少し離れている正面へ立っている。
ただ一つ。己の真横にだけ何かが変わった。
具体的には、セシルの脇腹を貫いているサラサという女の子がいた。
思考が鈍る。ゆっくりと、確実に。
血の気を失った
なんで? なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで??????
こんなところに、どうしてあの禁術野郎がいる? そもそも、何故セシルが腹部を腕で貫かれている?
それでも、サラサは挑発するようにこちらを向いて笑みを浮かべる。
そして、貫いている腕を引き抜き、血塗れた拳をセシルへと叩き込んだ。意味を成さないというのに、何度も何度も何度も。
まるで死体でサンドバッグを作り、思うように遊んでいるように見えた。
最愛の人を殺して、最愛の人を玩具にして。
アルヴィンの思考は、確実に歪む───
♦️♦️♦️
横では、いつの間にかアルヴィンが死んでいた。
生首が転がり、生前の光景を彷彿とさせる歪んだ表情が血の上に滲んでいる。
亡き別れた胴体からも、首からもゆっくりと血が流れた。その死体を、この前会いに行ったサラサが踏み締めている。
高らかに、誇示するように、挑発しているかのように、セシルへ向かって笑みを浮かべた。
思考が鈍る。ゆっくりと、確実に。
なんで、ここにサラサがいるのか? なんで、大好きなアルヴィンが死んでいるのか?
なんで? なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで??????
こんなことするの? こんな酷いことをするの?
確かに自堕落で怠け癖が強くて、ちょっとスケベなところはあるけど、優しくて可愛くて、とてもいい子じゃん。
大好きな彼を殺す道理なんて、この世のどこにもないというのに。
目の前に広がっているのは、明らかに惨たらしい凄惨な光景。
サラサは胴体から降りると、今度はアルヴィンの頭を踏み付けにする。
心が荒む。今までに類を見ないぐらい、心が荒む。
こんな光景を防ぐために、己は強くあろうとしたのに。こんな光景をサラサは味わったはずなのに。目の前の姉が、
セシルの思考は、確実に歪む───
♦️♦️♦️
「はぁ……はぁ……」
ユーリの息が荒れる。
魔法士であるために鍛え続けてきた魔力量も、いよいよ限界を迎えようとしていた。
それもそうだ、ユーリが創り出した
そこに加えて、今までのセシルとの戦闘。そして、畳み掛けるように
魔力の限界を迎えてしまってもおかしくはない。
しかし───
「か、勝った……」
呆然と動かなくなったアルヴィンとセシルを見て、ユーリは高笑う。
「勝った、勝ったッ! ついに、私は天才に勝ったッッッ!!!」
ユーリの
そうすることによって、ユーリの倒したい相手を復讐対象として認識し、己の手を汚さず攻撃してくれる。
正に、精神を操作する強力な魔法。一度魔法にかかってしまえば、抜け出すことも容易ではないだろう。
安易な火力勝負とは違って、本人の精神が魔法よりも強くなければ防ぎようがない。
現に、発動した瞬間にアルヴィン達は魔法にかかってしまった……今はきっと、互いを互いに違う人物と重ね、悲惨な光景を目の当たりにしている頃だろう。
あとは同士討ちをしてくれればユーリの勝利だ。
「お、っと」
自然とユーリの膝が崩れる。
しかし、すぐさま手をついて起き上がった。
(ま、まだ魔力を維持しないと……二人に同士討ちさせて、リーゼロッテを倒してもらわなきゃいけないし)
あとは時間と己の魔力との勝負だ。
維持し続けられれば己の勝ち。それまではまだ折れるわけにはいかない。
だが、この勝負には間違いなく───勝った。
「ざまぁみろ、天才が……私は、努力する凡人は、高みに届く」
フラフラと、ユーリはその場から背を向ける。
残っているリーゼロッテを捜すために。シリカをぶつけて幕を引くために。
そして、直後。横にいるシリカが動いた。
地面から壁を生ませ、まるで何かから身を守るかのように自分達の周囲を囲っていく。
「なに、してんの……?」
その答えは悲しくも、不意に壁が壊れたことによって理解させられる。
崩れていく壁。上がる土煙。
「なん、で」
そこから現れたのが。
「なんで
大槌を持ったアルヴィンと、大剣を持ったセシルだったからだ。
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