魔法の天才VS生粋の異端児①

 ある意味、禁術使いジャックソーサラーとの戦いはやりやすいものであった。

 一撃一撃の火力は既存の魔法より遥かに強力ではあるが、その代償は自然と相手が負担してくれていた。

 故に、向こうが自ら負担を積み上げながら戦ってくれていたのだ。

 握るための指を失い、生きるための臓器をグチャグチャにして。

 一方で、ただの魔法士と戦うのはやり難いという部類に入るのだろう。

 一撃一撃の火力は禁術には及ばないものの、代償もなければ使用制限もない。敵の魔力がなくなるまで、無制限に魔法が放出される。

 戦闘センスがあり、魔法の才能がある人間はなおのこと。

 だからこそ、アルヴィンが今起こしている戦いというのは―――些か、面倒なものであった。


「ははっ! いいではないか、悪党ッ!」


 変わらず高みの見物をしているシリカは笑みを浮かべながら、頭上いっぱいに広がる岩石を投下する。

 アルヴィンが用意した聳える柱が岩石を割ってくれたものの、代わりに残骸が隕石となって周囲へと散らばった。

 わざわざ柱に落とすような形にしたのだ、いい目くらましに利用したのだろう。高みで見物しているシリカには関係ないが、近接戦も戦闘スタイルに入れているアルヴィンにとっては不快極まりない。


「っていうかさ、こんなに隕石降らせて校舎めちゃくちゃになってるけど、僕はあとで修繕費払わないからね!? お小遣い意外と少ないんだから!」

「そうなのか?」

「姉さんに制限されてるんだよ「アルくんは勝手に使っちゃうから」ってちくしょうッッッ!!!」


 瓦礫を避けながら、アルヴィンは切実に似た愚痴を叫ぶ。

 その姿に、シリカはクスッと笑った。


「安心しろ、被害の修繕は私が払ってやる。まぁ、義姉わたしのお遊戯に付き合ってもらったお駄賃だな」


 大槌を握り締め、アルヴィンは体を捻ることでそのまま投擲する。

 目指すはいつの間にか校舎の屋上にいるシリカの方へ。まずは降りて来い、と。そんな意味を込めて。

 しかし、シリカは大槌との間にいくつもの壁を生み出すことによって大槌を迎撃した。


「レディーに対するプレゼントだとはとても思えんな?」

「ならもっとレディーに似合うのを用意しますよ!」


 ふと、シリカが頭上を見上げた。

 己と同じ、無詠唱を扱う魔法士だからこそ次に起こるアクションの予兆すら感じ取れない。

 月明かりに照らされて輝くいくつもの礫が、見上げた瞬間に一斉に降り注ぐ。

 咄嗟に自分の周囲を覆うような洞穴を用意したのは正解だっただろう。中にいる自分の耳を刺激してくる壁を叩く音が絶え間なく浴びせられた。

 もちろん、アルヴィンとてここで相手を殺すようなことはしない。敵とはいえ、ただ洗脳されている生徒なのだ。あくまで無力化こそを目的としており、今出現させた礫も痣こそできるもののあくまで意識を刈り取る程度で済ませている。

 そして———


「やっと殿下のお膝元までやって来たぞッッッ!!!」


 礫の雨が止んだ途端、シリカの眼前に跳躍してくるアルヴィンの姿が映った。

 恐らく、己で生み出した柱の上に乗ってそのまま屋上へと飛んで来たのだろう。

 その姿が視界に入り、シリカは獰猛な笑みを浮かべた。


「謁見するには立場が悪い、クソ悪党ッ!」

「その割には嬉しそうな顔してるよね、クソ戦闘狂バトルジャンキーッ!」


 以前戦った際は、地下という限られた空間だったため戦いやすかった。

 目の前の障害さえ取り除けば、敵の懐まで悠々と近づけたのだから。

 しかし、今の戦場は範囲の制限がないアカデミーの中。いくらでも魔法士に有利な距離を取れ、いくらでも弾幕を張れる。

 アルヴィンも魔法士だ。同じ土俵で戦ってしまえばいいのだが、いかんせんここは思うままに魔法を撃っていい場所ではない。

 校舎や周囲にいる生徒に被害が出てしまう恐れがあり、そこを考慮すると必然的に近接戦を強いられる。


 そして今、近接戦のフィールドへアルヴィンは降り立った。

 ここからするべきことは一つ―――


固有魔法オリジナル

固有魔法オリジナル


 ほぼ同時。

 二人の間合いが近づいた瞬間、互いの口から初めての詠唱が刻まれる。


「『硝子の我城』」

「『悪鬼の牢獄グラン・アンガンテ』」


 個々の潜在能力ポテンシャルを最大限に引き出すために生み出された魔法。

 最大火力である魔法が同時に放たれたことによって、屋上は一際異様な光景に包まれた。


 が、しかし、


 まず、幻想的で美しい氷の建造物が出現。

 その後、隙間のない土の刃が四方から城を砕くように破壊。


 この一連が、たったの数秒程度で終了してしまう。

 そして、一連が終わった瞬間———


「がッ!?」

「終わったからって安心しているようじゃ、まだまだ詰めが甘いんじゃないの!?」


 残骸しか残っていない空間で、アルヴィンの飛び膝蹴りがシリカの腹部に突き刺さった。


「ば、グッ!?」


 威力を殺し切れなかったシリカの体は屋上をバウンドし、そのまま淵を越えて宙へ身を投げ出される。

 シリカの固有魔法オリジナルは指定した範囲内の物体や生物の逃げ場を閉じ、土の刃を確実に届かせるというものだ。

 おかげで、体を代償として払わなければ発動できない強力な禁術でようやく破壊できた城をいとも容易く壊してみせた。

 一方で、アルヴィンの作った氷の城は己の戦闘能力を最大限活かすために作られ、その中においてアルヴィンの体は際限なく生み出せる。

 単純に言えば、先程の一連はアルヴィンの生み出した城を中にいるアルヴィン諸共シリカの固有魔法オリジナルが刻み切った流れ。

 しかし、実際にアルヴィンはそもそも自在に体を作れる状態———いわば、本人が中にいなくても本人の代替えを用意できるのだ。

 つまり、城を壊したからといって……外にいたアルヴィンにはなんら影響はない。


(やってくれる、悪党)


 腹部の痛みに笑みを浮かべると、宙に投げ出されたシリカはそのまま追ってくるアルヴィンへ土の槍を放出した。

 しかし、アルヴィンは大槌を氷で生み出すと、そのまま槍を薙ぎ払っていく。

 その光景が―――異様に嬉しい。


「あぁ、相手は身内いもうとを殺したクソ野郎っていうなのにな」


 シリカは地面から巨大なゴーレムを生み出し、その背へ着地する。


「やはり、この高揚は抑え切れん」


 まだまだ戦いはこれから。

 さぁ、降って湧いた戦闘の機会チャンス

 この男がいれば―――私はもっと強く在れる。

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