お昼ご飯
『初めまして! 僕、ルーゼン伯爵家の次男で───』
『以前パーティーでお会いしたのを覚えていますか!?』
『もしよかったら、今度一度我が家に───』
などなど。
早朝の訓練が終わり、いくつかの授業が終わったあとの小休憩にて。
アルヴィンは席の周りで色んな生徒に囲まれていた。
ようやく話をしようと決めたのだろう。
今年の新入生の中には王家の人間はいない。実際、一番歳が近いのが第二王女であるリーゼロッテ。他にも王子や王女がいるものの、アカデミーで被ることはなかった。
四本に入る公爵家の人間も、同年代ではアルヴィンただ一人。
故に、実質的アルヴィンが家督こそ継いでいないものの学年単位では一番爵位の高い者であった。
以前、噂を消すほどの実力を見せた。動揺と距離を図るために接触が憚られたが、一日経てばこの通りだ。
それが鬱陶しく、アルヴィンは窓の外を眺めるだけで完全無視をしていた。
「あの、アルヴィンさん……無視はよろしくないのではないでしょうか?」
隣の席に座って巻き込まれ事故を食らっているソフィアが板挟みの状況に耐えらく口にする。
「いいのいいの、目に見えてるゴマすりに付き合ってられないよ。朝の訓練で疲れてるんだ、僕は悠々自適な自堕落ライフを送りたいのに」
その言葉を聞いて、ソフィアだけでなく聞こえてしまった生徒達も言葉に詰まってしまった。
とはいえ、アルヴィンの言葉は事実だ。どこからどう見ても、綺麗な手のひら返しである。
そんなあからさまな態度を見せつけられて、ご丁寧に対処してあげるほどアルヴィンは優しくないし困ってはいない。
「っていうわけだから、ソフィアが怯えちゃう前にどっか行っt」
『あの、ならせめて今度お茶会に───』
「詳しい話を聞こう」
女子生徒の声にすぐさま反応するアルヴィン。
これもこれであからさまである。
「君、可愛いね? お名前はなんて言うの? もしよかったら、お茶会だけとは言わずに僕の家に来ない?」
『あ、あの……っ』
アルヴィンの猛アタックに、女子生徒は戸惑いをみせる。
そして───
「そうだ、その前にどっか二人でお出かけでも───」
「えいっ!」
「けぷっ」
…………アルヴィンの意識が途絶えた。
♦♦♦
「ん……あれ、ここは……?」
アルヴィンが次に目を覚ますと、視界には澄み切った青空が広がっていた。
「あっ、よかった……目が覚めたんですね!」
そして、青空を遮るように可愛らしい美少女の顔が現れた。
どうしてソフィアの顔が近くにあるんだろう? この距離ならキスできちゃいそうだ。
なんてことが頭の中を支配する。
加えて、体に伝わるのはふかふかの芝生の感触に、頭に伝わる柔らかい人肌、それと───
「僕は一体……っていうか、寝かされてる?」
「ごめんなさいっ! 頭を叩こうと思ったら間違えて首に当たっちゃって……」
首に残る痛みであった。
「珍しいね、ソフィアが人を殴るなんて。人はどうやら見ていても成長する生き物みたいだ」
「レイラさんに「アルヴィンが他の女にちょっかい出そうとしたら遠慮なく殴って」って言われていたので思わず鈍器で……」
「鈍器」
聞いてもどうしてそんな話と鈍器が出てきたのか理解ができなかった。
何故かという理由に頭を悩ませていると、申し訳なさそうな顔をしたソフィアが覗き込んでくる。
「あぅ……怒ってないんですか? 私、まさか気絶しちゃうぐらいだとは思わなくて───」
「ははっ、何言ってるのさ! こんなのこめかみを潰されり身内から強引にキスを迫られた時に比べたら優しい方だよ」
「私が言うのもなんですけど、怒った方がいいと思います」
意識を失わせてくれる分、まだ優しい方だ。
それよりも、先程から味わっている膝枕の多幸感の方が重要である。
アルヴィンはソフィアの太ももをスリスリしたい欲望を抑えながらも、とりあえず現状を把握するためにゆっくりと体を起こす。
すると、今度は視界に弁当箱を広げているレイラの姿が映った。
「出たな、犯人。純新無垢で心優しい
「節操を弁えないだろうなって予想していたのだけど……まさか言ったその日にこうなるとは思ってなかったわ」
「こっちは悪びれてほしいんだけど!?」
まったく反省の色を見せないのも珍しい。
「あなたも早くお昼を食べないと時間なくなっちゃうわよ?」
「はぁ、なんで僕の周りの女の子はソフィア以外ちゃんといないんだ……っていうか、もうお昼だったんだね」
気を失う前はまだ一つ授業が残っていたはずなのに、と。
アルヴィンはレイラから「はい、これ」と、渡された弁当を受け取って口に入れ始める。
「さり気なくレイラさんの弁当を食べてますけど……いいんですか?」
「え? これって僕用に作ってくれたんだよね?」
「そうね、私の手作りだから喜びなさい」
「うわっ、ありがとう! レイラの手料理ってうちの料理人が作るものよりも美味しいんだよね!」
「……お二人共、本当に仲がいいんですね」
ぷくーっと、ソフィアは頬を膨らませる。
それを見た二人は顔を寄せてヒソヒソと話し始めた。
「(やだあの子可愛い。どうしてあんな顔になっちゃったの可愛い)」
「(可愛いのは同意ね、流石は私のソフィアだわ。それと、あの姿は恐らく私達の仲のよさが羨ましかったんでしょ)」
「(やだ、ほんとに可愛い)」
思わずキュンときてしまうではないか。
アルヴィンは口元を押さえて可愛く頬を膨らませるソフィアを見てお目目を輝かせた。
その時───
「あら、皆さんお揃いなのですね」
ふと、そんな声と共に芝生を踏む音が聞こえてくる。
視線を聞こえた方に向けると、そこには風に靡く銀髪を押さえるリーゼロッテの姿があった。
相変わらず美しい人だ。
こうして立っているだけでも目を奪われてしまいそうになるぐらい絵になってしまう。
「もしよかったら、私もご一緒してもよろしいでしょうか? 私もお昼、まだなんです」
「「「どうぞどうぞ」」」
そんなの、断れるわけがない。
アルヴィン達は口を揃えてリーゼロッテが座る空間を用意するのであった。
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