第二王女と一緒に

 どうして僕はお偉いさんとご飯を食べなきゃいけないんだろう?

 自分もそのお偉いさんの一角であるはずのアルヴィンは首を傾げながらもそんなことを思った。


(レイラのお弁当……美味しいなぁ)


 爵位こそ子爵だが、使用人に任せず貴族の令嬢が自分でご飯を作るとは珍しい。

 今まで何度か食べさせてもらったことはあるが、相変わらずの味である。

 将来はいいお嫁さん候補だなと、アルヴィンは対面に座ったリーゼロッテをスルーしながら黙々と弁当を食べ続けた。


「リーゼロッテ様、本日はお日柄もよく……」

「ふふっ、そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ。私、意外と堅苦しいのは苦手ですので」

「あぅ……そうですか」


 どうしましょう? そんな瞳をソフィアから向けられるアルヴィン。

 女の子に助けを求められたのであれば答えなければなるまい。

 頬に詰め込んだサラダを飲み込むと、アルヴィンはようやく口を開いた。


「よろしくねっ、リゼちゃん☆」


 ぱきゅ。


「……よろしくお願いします、リーゼロッテ様」

「アルヴィン様も、そのように肩肘張らなくても構いませんよ」


 その肩が張れないのだが、これは一体どういうことだろう?

 アルヴィンは横に座るレイラを見て首を傾げた。


「流石に慣れ慣れしすぎよ。一応、リーゼロッテ様は王女であり私達の団長なんだから」

「だって堅苦しいのが苦手だって……ほら、僕とレイラだって家柄関係なくこんな感じでしょ?」

「私達は仲がいいもの」

「そうだね、肩を外して外されるぐらい仲がいい関係だったね」


 基準が肩なのもこれまた面白い。

 そんな二人のやり取りを見て、リーゼロッテは思わず笑ってしまう。


「お二人はとても仲がよろしいのですね」

「はいはいっ! 私も! 二人と仲がいいですっ!」

「あら、そうでしたか。入団してまだ二日ですが、良好な関係を築けているようで先輩としても安心しました」


 勢いよく手を上げてアピールを始めるソフィア。

 それがなんとも可愛らしく、見ていたアルヴィンはほっこりとしてしまった。


「そういえば、どうしてリーゼロッテ様はここに一人でいるんですか? 王女様ですし、普通は媚びへつらう虫に囲まれているんじゃ……」

「アルヴィンさん、その言い方は「めっ!」ですよっ!」

「これは失敬。どうしても脳裏に気を失う前の光景が」

「私、あまりそういうのが好きではないんです」


 リーゼロッテは弁当箱を広げながらそう口にする。


「お気持ちは分かるのですが、アカデミーにいる間ぐらいは普通の女の子でいたいのです。そういうことは卒業してから嫌というほど味わうでしょうから」

「お気持ちすっごく分かります」

「ですのでアルヴィン様達も知っている通り、私は団長の席に座っていることを公表していません。余計な肩書という飾りなど不必要です。なので、そういうことは全てセシルに一任しています。あの子は私よりも人に好かれる性格をしていますので、きっと今も色んな人に囲まれていると思いますよ?」


 第二王女という立場上、仲良くなりたいと考える人間はごまんといる。

 とはいえ、どうして普段も同じ人間が寄ってくるのに学生である今も味あわなければならないのか? 

 リーゼロッテは常日頃そう思っており、申し訳ないが近寄る人間を自ら減らしていった。

 その分、公爵令嬢であり副団長でもあるセシルにしわ寄せがいっているのだが、ここに関しては双方が納得しているので問題はない。


「へぇー、王女様も大変だね。いっそのこと、僕みたいに開き直って自堕落な生活を送ったらどうです? その代わり面汚しって言われますけど」

「アルヴィンさんは面汚しなんかじゃないですよ? 凄い人ですっ!」

「ソフィアは優しいなぁ……」

「えへへっ」


 アルヴィンに頭を撫でられ、ソフィアは嬉しそうにする。

 まるで兄と妹だ。


「一度は憧れたことがありますね……ですが、流石に私もそこまで立場を嫌っているわけじゃないんですよ? それに—――」


 リーゼロッテは意味深な笑みを浮かべる。


「どうにも、私は噂と事実が噛み合っていないように思えます」

「いや、そんなことは―――」

「私とサシで戦える人間が面汚しなどあり得ませんよ」


 それはよっぽど自分に自信があるからか?

 アカデミー最強とも呼ばれる少女は弁当を一口頬張りながらも言葉を続けた。



「実力至上主義……など持ち出す気はありません。しかし、実力で多くが解決できるのは事実です。それ故、あなたのその才能は馬鹿にされるものではないでしょう」

「…………」

「それに、あなたはまだように思えます。まだ私も手の内を晒しているわけではありませんが、それだけでも十分ですよ」


 目の当たりにするまで信じなかった私が言うことではありませんね、と。

 リーゼロッテは苦笑いを浮かべる。

 それを見て、アルヴィンは照れ臭いような面倒になったような不思議な感覚を覚えてしまった。


「まぁ、この話はここら辺にしましょう。せっかく新入団員とレイラとのお昼です。もっと明るい話を希望します」

「分かりました、ではスリーサイズを―――」

「潰しますよ?」

「どこであっても人体に影響を及ぼしそう……ッ!」


 軽はずみな発言は命に関わりそうであった。


「そういえば、来週はセシルの誕生日ですね」

「……ハッ! そうだった!」


 アルヴィンはリーゼロッテの一言によって思わず立ち上がってしまう。

 突如態度が変わったアルヴィンを見て、レイラとソフィアは首を傾げた。


「どうかしたの、アルヴィン?」

「……二人共、僕から大事な大事な大事な大事な大事なお願いがあるんだけど」

「大事が多いわね」

「よっぽど大事なことなんだと思います……っ!」


 二人が固唾を飲む寸前までアルヴィンに注視する。

 そして、真剣に切り出したアルヴィンは二人に向かってこう言い放った―――


「姉さんの誕生日プレゼントを一緒に選んでくれないでしょうか選んでなくてピンチなんですッ!」

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