王都に着いたアルヴィン達は、馬車を検問の前へと停めて歩きで王都の中へと入っていった。

 もちろん、検問箇所から子供が入ってしまおうものなら止められるのは必須。

 故に、またしてもアルヴィンは足元に氷の柱を生み出すことによって力技で王都を囲う外壁を越えた。

 それからというもの、アルヴィン達は歩きで王都の各箇所を回っていた。


「うーん……今のところピックアップしてもらった子供は全員いるけど」


 誘拐事件があったからか、王都は珍しく人影が異様に少なかった。

 そんな中、とある家の屋根の上からアルヴィンは顔を出すようにして中を覗く。

 窓越しにはすやすやと眠る子供の姿。金髪で幼く、誘拐された人間に共通する容姿だ。

 アルヴィン達の当初の行動は「ピックアップした子供達の家を見て周ること」である。

 今日現れるか分からない、どの子供が狙われるか分からない。

 それでも、居場所が分からない犯人を突き止めるには分かっている被害者を洗い出すしか方法はなかった。

 地道ではあるが、これしか選択肢がないため文句は言わない。


「攫われない方がいいんでしょうけどね」

「それもそうだ。攫われないに越したことはないし」


 アルヴィンは窓から見える子供に向かって指を振った。

 すると、小さな結晶が子供の頭上へと現れてゆっくりと胸元へと落ちる。


「さっきから見ているけど、それって何をやっているのかしら?」

「印だよ。前に盗賊団の居場所を突き止めるために作った魔法なんだけど、意外と便利なんだ」


 他者に触れることで魔法士に伝達する魔法。

 寝ている間は他者に触れることなどあまりない。もし誘拐されるのであれば必ず誰かと接触してしまうだろう。

 そうなることによってアルヴィンに信号が送られる。

 朝方に信号が送られれば誘拐はなし、もし今のような時間帯に信号が送られれば誘拐された可能性が高い。

 これがあれば「見て周ったあとに誘拐」なんてことを阻止できるため、アルヴィンは周ったそばから印をつけている。

 今夜何もなければ明日もつければいい。手間ではあるが、行き違いになるよりかはマシだと、アルヴィンは考えていた。

 ちなみに、この魔法は盗賊を逃がしてアジトを突き止めるために編み出したものだ。


「へぇー、あなたってほんと器用ね。お裁縫とかも上手そう」

「こう見えて刺繍は得意。週に一回、姉さんと作品発表会をしてる」

「仲がいいという発言以外思いつかないわ」


 仲はいい。ただ片方の度が行きすぎるだけであって。


「でも、こんな地道な作業になるなら王国の騎士団と一緒にすれば早かったかもしれないわね。別に情報提供したって私はいいし」

「実は僕、秘密にしていたんだけど……実力バレアレルギーなんだ」

「じゃあ、もうアレルギーは出ちゃってるのね」

「アカデミーだけなら口止めをすればわんちゃん……ッ!」


 人の口には戸が立てられない。

 それを果たしてこの男は気づいているのかしら? レイラは必死そうな顔を見せるアルヴィンに苦笑いを浮かべた。


「さてと、次行きましょ。早く全員回らないと、帰ってあなたのお姉さんが心配するわ」

「……朝起きて横に僕がいなかったら剣片手に飛び出すビジョンが見える」

「待ちなさい、あなた達一緒に寝ているの?」

「誤解だよ、勝手に潜り込んできているってだけ。だから僕の肩に置いている手を離してほしいんだ」


 ハイライトの消えた目で肩に手を置くレイラに、アルヴィンは首を振ってしっかりと否定する。

 確かにいい歳した姉弟が寝るのはおかしいとは思うが、どうしてこの子は怖い顔をするんだろう、と。アルヴィンは疑問に思ってしまった。


「そういえば、ソフィアも同じ金髪だよね」


 アルヴィンがふと思い出したかのように口にする。


「そうね、それとセシル様も同じ金髪」

「姉さんは強いし僕がいるから心配ないんだけど……ソフィアは心配だなぁ」


 脳裏に思い浮かぶのは、可愛らしくて眩しい笑顔がよく似合う女の子。

 セシルとは違い、彼女は後方支援の回復士ヒーラーで、身を守る術を持っていない。

 もし攫われてしまえば、どんな目に遭わされるか想像しただけでも恐ろしい。


「まぁ、でもレイラの領地出身って言ってたし、王都にいなければ問題はな―――」

「いるわよ?」

「いるの!?」


 レイラの言葉に思わず驚いてしまうアルヴィン。

 一気に心配が増してしまう。

 だけど、心配そうにするアルヴィンを見て「出店に行っていないから安心しなさい」と宥める。

 確かに、レイラから渡された攫われる可能性のある候補者のリストには名前がなかった。

 それを急いで確認したアルヴィンは一気に安堵する。


「今あの子、私が貸した家で暮らしているの」

「そりゃまたどうして?」

「私もたまにそっちの家にアカデミーから帰るからね。どうせだったら一緒に通いたいじゃない?」

「流石は幼馴染」

「私も今日はそっちに帰ろうと思っているわ」

「あれ、僕は?」


 突如一人にさせられたアルヴィンであった。


「ふふっ、冗談よ。ここ一週間は家でやることがあるから一緒に帰るわ」

「よかった……御者さんとの気まずい空気を味合わなくてよかった……」


 連続して襲い掛かってくる安堵に、アルヴィンは胸を撫で下ろす。

 今日初めましての人と朝日が昇りそうな時間にロマンチックな二人きりは、人見知りなシャイボーイには厳しいものがあった。


「とりあえず、心配しないでちょうだい。少なくとも知り合いは候補者に入っていないんだから」

「そうだね、それが救いだよ。だからといって、誰かが狙われている以上放ってはおけないけどね」

「……ほんと、あなたのそういうところは大好きよ」


 そう言って、二人は寝静まった夜道を歩いて行く。

 しばらくして候補者全員に印をつけたが───この日は印が消えることはなかった。

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