仲良くなったアルヴィン達
アルヴィンは魔法士だ。
それは元魔法師団副団長の母親からの血を引いているからか、己に氷属性の魔法の才能があったためである。
しかし、純粋な努力のみで家柄に恥じない実力をつけたセシルとは違い、アルヴィンは純粋な血筋。
父親は現在進行形で王国騎士団の団長を務めており、立派にその才能も受け継いでいた。
才能が受け継がれることなど滅多にない。
遺伝だからといって、本人の才能が息子に影響を与えるなど非科学的で根拠に欠ける。
それでも、アルヴィンという少年は奇跡的にも両方の才能を受け継いでしまったのだ。
公爵家の面汚しなど、無能などといった言葉など似合わない。
恐らく、アスタレア公爵家の歴代の中でも最も実力を持った男だろう。
───そんな一面を、騎士団の面々は目撃してしまう。
アカデミー直属の騎士団の中で最も実力があるのは副団長であるセシルだ。
家督も養子とはいえ申し分がない。そのために選ばれたのだが、ルイスも同じ立場としてそれなりに実力を持っている。
そんな人間を、たった一蹴りで吹き飛ばした。
それも、本人や周囲が行動を起こしきれない速さで。
「ふぅ……」
周囲の視線を一身に受けるアルヴィン。
彼は、小さく息を吐くと皆に向かってこう言ったのであった───
「な、なんてことだ!? あのイケメンがいきなり吹き飛んでしまった!?」
「アルくん、お姉ちゃん的にそれは無理があると思います」
わざとらしく誤魔化そうとするアルヴィンに、セシルはジト目を向ける。
だが、それも少しだけ。すぐさま華の咲くような笑みを浮かべると、アルヴィンへと思い切り抱き着いた。
「流石、アルくんだ! ルイスくん、強いはずなのに一発KO! 視聴者もあんぐり開ける一幕だったよ!」
「だから今のは突然あの男が吹き飛んだだけ……って、姉さん公衆の面前で抱き着かないで!? やわっこくてちょっと嬉し恥ずかしいっ!」
「お姉ちゃんのために怒ってくれたんでしょ? むふふー、ついにお姉ちゃんはお姫様ポジをこの歳で味わったわけでして!」
「誰かー! この脳内お花畑に除草剤撒いてくれませんかー! 身内に白馬の王子様はいないって現実と人の話を聞くってことを教えてあげてー!」
やんややんや。ハートでピンクなオーラを醸し出しながら抱き着くセシルと、意外と満更でもなさそうなアルヴィン。
……まぁ、腹立たしい。
腹立たしくはあるが、それでも凄いと思ってしまったのは本当。
故に、周囲にいた騎士見習い達は一斉に賞賛を浴びせた。
『すげぇじゃねぇか、ブサイク!』
『公爵家の面汚しって言って悪かったな、クズ!』
『流石は副団長が褒めるだけはあるぜ、カス!』
「姉さん離して! 今すぐこいつらに実力の差と家柄の恐ろしさと現実を味あわせなきゃいけないからッッッ!!!」
実力を見せてしまったことなどどうでもいい。
褒めてくれている騎士見習い達のためにもう一度実力をお見せしなければ肉体に!!!
「というわけで、アルくんおめでとうっ! 皆も褒めてくれたし、これで立派な騎士団の仲間入り───」
『ぎゃぁー! 体が冷てぇ!』
『こいつ、魔法士だったのか!?』
『だがしかし、ここで公爵家の面汚しを潰せば副団長は呪いから解放された白雪姫!』
『副団長との結婚は俺達のもの!』
『『『かかってこいやァァァァァァァァァ!!!』』』
「やれるもんならやってみろ! てめぇらに敬意と威厳と現実を教えてやらァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
「もうっ、聞いてよアルくんっ!」
騎士見習いの人間も大概だが、アルヴィンもアルヴィンも大概だった。
セシルが頬を膨らませる中、騎士見習い達とアルヴィンの激しい戦闘が繰り広げられる。
もはや実力を隠そうともしなかった。というより、見せてしまった以上開き直ったというべきか。
陰口は慣れているが、こうも堂々と馬鹿にされてしまうと腹が立ってしまいますとのちのインタビューで語ったアルヴィンは襲いかかってくる騎士見習い達に躾を始めていた。
「……まぁ、なんだかんだ仲良くなれそうでよかったんだけどさぁ」
それがちょっぴり寂しくて、セシルは拗ねたように近くの小石を蹴り上げるのだった。
♦♦♦
「君達、もうバレてしまったから仕方ないけど、今後僕の実力を誰かに言ったら頬が腫れるまで殴り続けるか裸に剥いた状態で氷のオブジェにします。いいですね?」
『『『『『うっす、アルヴィンさん』』』』』
さて、そんな状況もものの数十分で終わり。
ようやく上下関係を学んだ騎士見習い達は、アルヴィンの前で正座をしていた。
「お姉ちゃん、嫉妬しちゃったけど仲良くしてくれそうでよかったよー!」
セシルが仲良くなったアルヴィン達を見て笑みを浮かべる。
「ただここにいる人間が変わってるからだと……多分、あそこで伸びてるイケメンが普通枠だと思うよ?」
「あちゃー……まだ伸びてる」
「起こさなくていいの?」
「起きたらまたアルくんの悪口を言いそうだからヤダ」
アルヴィンが吹き飛ばした男は未だに起き上がる様子もない。
だが、それでも起こしに行こうとしないのはセシルの中で彼の好感度が低いからだろう。
「ふふっ、でもお姉ちゃんは嬉しいなぁ〜! 騎士団の皆がアルくんを認めてくれた! お姉ちゃんは今絶賛鼻が高いです!」
「でも入りません」
「どうして!?」
「嫌だよ、僕は訓練とか面倒臭いって思う派閥の人間だし、帰ったら直帰して寝たいし」
確かに、ここにいる面子嫌いではない。
陰口を言われるのに慣れているとはいえ、いい気分かと言われれば首を傾げる。
だったら真面目になれば? そう言われるかもしれないが、それはそれ。自堕落ライフの魅力の方が勝る。
ここにいる面子は言い方を悪くすれば素直であけすけだ。そっちの方が好ましい。
しかし、その代償が時間の浪費と実力が広まってしまうという危険性なら首を横に振る。
アルヴィンは正座をする騎士団見習いの男達に見守られながらセシルにバッテンマークを見せた。
「えー! やだやだ、アルくんが騎士団に入らないなんてやだっ!」
「って言われても、僕の意志は鋼のように固いです」
むぅ、と頬を膨らませるセシル。
すると、大きくため息を吐いて渋々と言った様子でアルヴィンの肩に手を置いた。
「仕方ない……お姉ちゃんだってこの手だけは使いたくなかったけど」
「お、おぅ……? やるの、やんの!? また家庭内崩壊を誘発する身の危険で脅迫するの!? 言っておくけど、こればっかりはぜった───」
「お父さん達に言いつけます」
「今日からお世話になります」
即答であった。
「っていうわけで、入学したらアルくんをよろしくねぇ〜!」
『よろしくな、アルヴィンさん!』
『強い男は大歓迎だぜ!』
『一緒に地獄を味わおう!』
「くそぅ……この熱烈な歓迎が目に染みる!」
両親に知られてしまえば何が起こるか分からない。
強制的に入団を決めさせられたアルヴィンは瞳から涙を浮かべるのであった。
『しかしアルヴィンさん。どうしてそんなに入りたくねぇんだ?』
「いや、僕は普通にぐーたらした生活が好きなんだよ……」
『けど、うちに入れば可愛い子ちゃんに会えるぜ?』
「………………………………………………………………………ほほう?」
「アルくん、あとでお姉ちゃんとお話があります」
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