バレたその翌朝
次回以降は9時と18時に更新です!( ̄^ ̄ゞ
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アルヴィンの朝は意外にも早い。
その理由は至って単純……二度寝こそ至高だと舐め腐ったことを思っているからだ。
「んんっ……」
アルヴィンはカーテンから零れる日差しによって目を覚ました。
昨日、姉に実力がバレてしまったというのに、相も変わらずいつも通りの日常だ。
外から聞こえる使用人達の声、小鳥の囀り、心地のよい陽気、涼しく気持ちのよい風、そして……腕に伝わる弾力ある柔らかさ。
「ふへへ……アルくぅん……」
ふと、アルヴィンは横を向いた。
美しくも可愛らしい顔立ちを緩め切った表情、寝間着から覗くきめ細かな柔肌、大勢の男を魅惑する肢体。
ふむ、これはこれは。
アルヴィンは寝起きの瞼を擦りながらも、腕に抱き着くその存在に気づく。
とはいえ、いつも通りの光景だ。
さて、もう一回寝ようかな。そう思い、アルヴィンは起こした体をもう一度ベッドへ───
「もう一回寝ちゃうとお姉ちゃんからのチュー……」
「身の危険!?」
───横たわらずに勢いよく起き上がった。
「おはよー、アルくん……どうして起きちゃうの?」
「超えてはならない一線が越えられそうだったからね……ッ!」
「ぶーぶー」
セシルはゆっくりと体を起こす。
豊満な乳房がポロリしそうになるほどのだらしなさだが、そんなことを気にしている様子もなかった。
その姿に、アルヴィンは少しだけドキッとしてしまう。
───先に言っておくが、アルヴィンとセシルは姉弟だ。
しかし、セシルは公爵家が迎えた養子である。
それが約五年前。
元は公爵家現当主の友人……今は亡き子爵家当主の一人娘で、身寄りのなくなったセシルを引き取ったところから始まっている。
故に、姉弟ではあるが同時に異性でもあるのだ。
色々弊害やら問題こそあるものの、少し異性として見てしまうのは男ならば仕方のない部分もあるだろう。
「はぁ……毎回言うけどさ、どうして僕のベッドに潜り込むわけ? ペット的なポジションを確立でもしたいの?」
「予行練習、的な……?」
「待つんだ、姉さん! 僕は夫婦になることも寝室が一つになることも何一つとして容認はしていないっ!」
まるで既に決定事項のように言われて、アルヴィンはとにかく否定した。
「ふぁぁっ……なんかアルくんが世迷言を言っているような気がするけど、いっか。とりあえず起きてご飯でも食べちゃおうよ」
「総じた判断を下しても世迷言を言っているのは姉さんの方なのに……」
最近、ちゃんと二度寝できていないなぁ、と。
アルヴィンはため息を吐きながらベッドから立ち上がった。
「そう言えば、なんでアルくんは盗賊なんか倒してたの? しかも、正式に依頼を受けたお姉ちゃんよりも早く」
「だからたまたま───」
「お姉ちゃんは口元が寂しいです」
「定期的に知り合いから情報を仕入れて討伐しています。流石に領民が困るところは見たくありませんので」
反射的に答えてしまったアルヴィン。
ニヤつく姉の姿を見て、唇を噛み締めてしまった。
「へぇ〜、じゃあ結構前からなんだね。お姉ちゃんは優しい弟を持って誇らしぞぅ〜!」
「流石にその
「じゃあお姉ちゃんの胸でも揉む?」
「……………………ふむ」
「あ、それはいいんだ」
姉であろうとも、血の繋がってない異性の魅力には家族の垣根を越えた何かがあるようだ。
「アルくんって今年からだよね、アカデミーに通うのは」
セシルはアルヴィンと同じタイミングで立ち上がり、徐にクローゼットから学生服を取り出した。
「その質問に答える前に、どうして僕のクローゼットに姉さんの制服があるのか聞いても?」
「ふぇっ? 他のお洋服もあるよ?」
「だからなんで姉さんの私服が僕のクローゼットに……ッ!」
「やだなぁ〜、いちいち私の部屋に取りに行くの面倒くさいからに決まってるじゃん!」
「やだなぁ〜、自分の部屋で寝ろって言ってるんじゃん!」
せっかく公爵家ということもあって大きな部屋なのに、ここまで無駄遣いをするのはもったいないというべきか、それとも倫理観を徹底してほしいというべきか。
アルヴィンは笑みを浮かべながらも額に青筋を浮かべた。
「まぁ、今年入学するよ。あと一ヶ月ぐらいしかないけどね」
アカデミーは年度が変わると新たに新入生を用意する。
アルヴィンは次期の新入生で、いよいよ入学まで来月と迫っていた。
自堕落生活もあと一ヶ月ではあるのだが、三年通えは一生の自堕落生活が待っている。
それまでの辛抱だと、アルヴィンは辟易しながらも納得はしていた。
「じゃあ、ちょうどいいね〜」
「ん? 何が?」
「今日、アルくんは私とアカデミーに行くのです!」
ドヤァ、と。
豊満な胸部を強調しながらそう言ってのけた。
「はっはっはー、冗談が上手いなぁ姉さんは」
「昨日は信じてもらえなかったけど、アルくんを連れて行けば皆信じてくれるはず!」
「はっはっはー……ねぇ、冗談なんでしょ? 僕は行かないよ? 目の前に人参を吊るされても行かないからね!?」
拳を握って気合いを入れるセシルを見て、アルヴィンの背中に冷や汗が伝った。
ここでそんなことをされてしまえば、アルヴィンの自堕落生活はおあともよろしくなく幕を引いてしまう。
人の口に戸は立てられない。
アカデミーの人間に知られてしまえば、どれだけの速さで広まってしまうのか? 考えただけでも恐ろしかった。
「へぇー……行かないんだぁ」
断固ムリ! とバッテンマークを手で表しているアルヴィンを見て、セシルは意味深な笑みを浮かべる。
それがなんとも不気味で、アルヴィンは思わずたじろいでしまった。
「な、なんだよ……脅しなんか無駄だからね! 僕は自堕落ライフを満喫したいのに、そんな公言された地雷なんか踏むもんか!」
「んー、別にお姉ちゃんのお願いを聞いてくれなくてもいいんだけど───」
そして、セシルはしゅるしゅると、肩口の紐を解いた。
「その代わり、お姉ちゃんと既成事実作っちゃおっか♪」
「アカデミーに行きましょう」
───というわけで、家庭環境の悪化を阻止するべく、アルヴィンは二つ返事で行くことを決めたのであった。
流石に身内との一夜は色欲よりも理性が勝ってしまうようだ。
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