第4話 木刀
「昨日のやつおまえたちがやったんでしょ! 天使を浮かせたやつ!」
俺たちを見つけたシュウが興奮して話しかけてきた。
「映画とかアニメみたいだった! 宙に浮かせたのはやっぱり超能力でしょ!?」
「超能力? というか……氣? オレの方は何をしたのかは何となく分かるが、何が起こったかはよく分かってねぇな。雪兎、解説出来るか?」
『皆んなの振動があの怪獣の居た所で重なっただけだ。海原の波というか波紋というか……超能力と言うよりも奇跡って言葉の方が的確だが……まあ、ただのパンチだ』
「氣? アチャー! で、あんな事できちゃうの!?」
シュウは宙にアッパーをかます。こう見ると年相応だ。
「オレたちがやったのはこうだけどな。水面を叩くと高さが変わるだろ? アレらしい」
「なるほど! でも、海じゃないのに出来るの?」
「実際に見ただろ? ぶっ飛ぶ所」
「ねぇ、そういう事って僕でも出来る? 僕もっと強くなりたいんだ。どんな天使でも倒せる様に」
「大怪獣バトルをする奴が言うセリフか?」
「それで……教えてくれる?」
「どうする? 雪兎」
『俺としては教えたいと思うな。その気があるようだし』
「教えられるもんなのか? あんなのを」
『そもそも誰にでも出来る事。明確に使っていないだけで誰でもしている事だ。俺たちだと分かり易くああなっちゃうだけだ』
「教えるったって戦い方とか知ってるのか?」
『知らない。そも戦いの方は俺の専門外だし、戦いの経験値はシュウの中に十分にあるだろうから問題ない』
「ふーん。じゃあ何を教えるんだ?」
『剣の振り方、かな』
――ぐぅぅ
「ちょっと待て。その前に腹減った。先に腹ごしらえしたい」
『確かにそうだな』
クリスの言葉にシュウは首を傾げた。
「お腹減るんだ」
「一応人間の姿をしてるからな。字は読めねぇし金も使えねぇから何も食ってねぇ」
「じゃあ……はい」
シュウはポケットからコインを一つ渡してきた。やはり字が読めない。鳳凰堂みたいな建物の彫刻ではあるが、感覚としては五百円玉のようだった。
「これでお昼は食べられるよ。ちゃんと修行はしてくれるんでしょ?」
「するする! それじゃあまずは腹ごしらえしてからだ! その後に木刀を買ってくるから、店知ってる?」
「木刀? スポーツ用品店なら近くにあるけど?」
「オッケー。じゃあ行ってくる」
まずは腹ごしらえ。病院近くの定食屋でコインを渡し「手頃なのをおまかせで」と頼んだ。
来たのはうどんだった。香りが良い。揚げ玉と油揚げのきつね色、海藻の赤緑が彩りを加える。
「うまそぉ!」
『あ、そういえばお前は重さの担当だよな。重さを取り込んで、俺がナースと同化した時みたいにならないよな』
「取り込まざるを得ないだろ。腹減ったし。まあ、多分大丈夫だ。お前だって軽さを取り込んでも大丈夫だった訳だしさ」
!
『!?』
「うめぇ~」
『……大丈夫そうだな』
「お……おお……?」
『どうした!?』
「このうどんスゲェ愛情込められて作られてるみたいだ。お……おお……スゲェ。この一皿を作るために農家や漁師の所に行ってたりしてる。何百人と関わった記憶が……ハハッ。お狐さんに油揚げあげてらぁ……おお」
『記憶を……そういう効果か。どこまで見える?』
「どこまでも見えそうだ」
最後の汁の一滴まで豪快に飲み干し手を合わせた。
『「ごちそうさま!」』
『お前のままか?』
「お前がオレをクリスと認識するならな。旅行に行ってきた気分だ」
美味かったぁ、と立ち去ろうとすると店員に呼び止められた。
「お客さん! はぁ、はぁ……お釣りです」
そう言って札束が渡された。
「すみません。店中からかき集めたんですが全然足りなくて。後日残りを……」
「?」
『?』
俺たちは首を傾げた。
『もしかして、あのコイン結構な金額だった?』
「マジ!?」
『この店にある全額かよ……コレどうする?』
「どうするったって。んじゃ、店に預けるか。信用は……まあ、出来るだろう」
クリスは買い物に必要そうな何枚かを取ってから札束を返した。
「ごめんなさい。それしか持っていなかったもので。また食べに来るのでお釣りは後日でお願いします。美味しかったのでまた近いうちに来ます」
「すみません。ありがとうございます!」
店員はそう言って頭を下げた。そして俺たちは店を出た。
店の扉が閉まりクリスは口を開いた。
「あの店員……天使だったな。気づいてたか?」
『あ、ホントだ』
「……やっぱりオレたち陣営って結構ヤバい状況?」
『そりゃそうだろ。だって怪獣が現れたっていうのに騒ぎにすらならないんだぞ』
「それが天使にとって都合のいい行動ってか?」
――ガラガラガラ
客が入る一瞬の間に店の中のテレビの音が聞こえた。
「昨日空に巨大な十字架が現れ関係各所は……」
――タンッ
やはり、怪獣の報道は一切されていない。
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