第2話 精霊

「こいつらも直しちゃったの?」



「修復はしておりません。一度消滅したはずですがなぜでしょう」



「やっぱり天使か?」



「いいえ。奴らは完璧もといケチなので一部をみすみす潰すようなことはしません」



「じゃあ何だよこいつら?」



 気が点いた。



『何だよと言われても……』



「オレたちも分からねぇな」



 付近全てが蒸発した所までは見えたが……付近の様子を見るに先程落ちた廊下か。何事もなかったかのようだ。



「シュウ、異分子であることは間違いありませんから斬りましょう」



 男の子と話していたのは先程現れたナースだった。彼女は少しぎこちない話し方をしていた。



 シュウは腕を組んだ。



「斬れるの? さっき床をすり抜けてたけど」



「斬ってみれば分かります」



「そっか」



「ちょっと待て。お前さっき爆発してただろ。お前が天使じゃないのか?」



 クリスがナースに言う。



「はぁ?」



 ナースはめちゃくちゃ不機嫌そうに悪態をつく。今にも掴みかかってきそうな彼女をシュウが止めた。



「さっきまでは天使だった。いまは僕の……精霊だ」



 ナースの様子が落ち着いた。クリスは眉間に指を当てる。



「天使とか精霊とか訳わかんないな」



 俺は見えてる状況をクリスに伝えた。



『要するにさっきの剣が人の形をしているって事みたいだな』



「へぇ、さっきの剣か」



 そういった瞬間、シュウはナースの首を鷲掴みにした。瞬く間に先の剣となり向けられた。



「なんで分かった?」



 シュウの鋭い眼光を向けられクリスは両手を上げて言う。



「俺の目の中に居るらしいもう一人が色々と見えるみたいでね。見破ったらしい」



『大変そうだな』



「他人事じゃねぇだろ」



『その時はその時だ』



「ったく」



 シュウは剣を下ろした。



「お前、なんでさっき天使の前に逃げたんだ?」



「オレの方はもう一人に従っただけだ。雪兎、話せるか?」



『試してみよう』



 俺はクリスの体で口を開いた。



『――か……こ、囲まれ、て……いないとこ、ろに……逃げた』



 やはり上手く動かなかった。



「うわっ、自分の意思が無いのに動くのって気持ち悪ぃ」



『俺の方ももどかしいんだよな。上手いやり方を探したほうが良さそうだな』



 ――ゴスッ



 シュウは剣を地面に刺した。すると剣はナースの形に戻る。地面は何事もなかった様子だった。シュウはナースを見た。



「こいつらみたいに場所がわかればいいんだけどなぁ」



「奴らは姑息だから分からないように削ってくるんです。削られるのは分かっても大体の場所しか分かりません」



「蚊に刺されたみたいなものか?」



 クリスがそう口出すと、ナースは不満そうにしながらも頷いた。



「お前には天使の詳しい場所が分かるんだよね?」



「ん?」



「もうひとりの方」



『見れば分かると思うな』



「分かるらしいぞ」



「そうなんだ……だったら、天使を殺すために協力して」



「シュウ!?」



「こいつら天使じゃないんだろ? だったらいいじゃん」



「シュウがそう言うなら……」



 その様子を見てクリスが話しかけてきた。



「異論は?」



『良いんじゃないか?』



「オーケー。天使の方はオレたちに好意的じゃ無さそうだったしな」



『精霊さんも好意的では無さそうだけどな』



 クリスとシュウは握手をした。



「その人に体を返せ」



 シュウは言った。



「分かりました」



 ナースがそう言うと、始めて表情が動く。



「ああ!? シュウくんまた病室抜け出して! 夜はちゃんと寝てないとダメでしょ」



「ごめんなさい」



「一緒に行こうね……え? ひぇぇ!?」



 精霊? が抜けたナースと目が合った。



「あ、オレ部外者だ」



『ていうか患者だったのかよ。どうする? ……?』



「今の便利キャラはお前だろ」



 今、俺にはクリスが見えていた。真正面から目が合っていた。



 これはナース視点だ。



(何この人? 部外者? 通報? シュウくんがいる置いてけない。何される? 戦う? 無理無理。逃げる? 逃げれられる? どうしよう……どうしよう! どうしよう!?)



 クリスの左目が真っ黒で怖い。俺が入っている球がある場所だが、何も無い。



 ふと気づくと同時に焦るナースの顔も見えていた。これはクリス視点。



 二つの視点が同時にあった。



 だが、違う。クリス視点は俺自身の体で見ているのに対し、ナース視点は彼女の体の感覚で分かる。鼓動が走っている。冷や汗が出ている。すごい怖い。



 自分の体じゃないのに、自分の体のようだった。いや、違う。自分の体だ。



 感覚が混濁したまま口を開いた。



「ねぇ……俺だ。分かるか?」



「……だれ?」



 シュウが俺を見上げてそういった。クリスも一拍置いて気づいたようだ。



「雪兎? 精霊の次はお前に憑かれたのかその人。普通に喋れてるし」



 俺はナースの体で首を横に降った。



「憑いたと言うか……同化みたいな。クリスよりももっと混ざってる感じ」



「……それすぐに戻った方が良いんじゃないか?」



「やり方が分かんない。戻れないぞ。あっ、俺の体……重さが無いから」



 ――来い!



 シュウがそう叫び首を掴まれると、ナースの視点が無くなった。



「天使よりももしかして厄介だったりするのかな?」



 敵意はないようだがナースは十字架となっていた。



『戻った? いや、戻った……帰ってきたとは言えないな。俺は移動していない』



「そっちの体が無くなってそうなったのなら……お前、擬似的に死んだか?」



『いいや“俺”は死んでない。“一部”居なくなったとは言えるだろうけど。削れたって感じ』



「オレたちの状態って精霊とか天使側みたいだな」



『今に実感したよ』



 シュウに目をやると肩に担いでいる剣を指さして小首を傾げていた。



「止めてくれ。オレたちだけだと今みたいな事故が起こる。人外初心者なんだ。こちらこそ協力が欲しい」



「これで対等だね」



 改めて握手をした。

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