燕時VS.アイズⅡ

「分身!? いつの間に! ……!」

 背後からの殺気に気づき、アイズは咄嗟に身をかがめる。

 すると、ちょうど首のあった位置に鎖鎌が振り抜かれた。

「あら? 避けられた」

「なめんじゃないわよ!」

 アイズは両手を地面につき、両足で蹴り上げる。

 それを燕時は鎖鎌の鎖の部分で受け止める。

「“魂の支配者ソウルコンダクター”」

 だが、アイズによって魂を与えられた鎖鎌は燕時を縛り付けた。

「はっ!」

 身動きの取れなくなった燕時の腹にアイズは蹴りを入れる。

 そのまま蹴り飛ばされた燕時はレンガの塀を砕きながら歩道へ出る。

「やっと、いいのが入った。その愛用の武器で首飛ばしてあげる」

「…………いいのかい?」

 燕時は鎖に縛られながら立ち上がり、そう呟いた。

「なに? 命乞いでもしたいの?」

「いいや、違うさ。ただ、君の弱点が分かったんでね。そろそろ終わらせようと思って」

「縛られたままで何が出来るのよ」

「そうでもないさ」

 燕時がアイズの頭上に視線を向け、彼女もまたその視線につられ上を見上げる。

「……巻物?」

 それは燕時が鎖に縛られる直前に真上へと投げたものだった。

「君が与えられる魂は一度に2つだけだろう? じゃなきゃ、あの時、3本のクナイ全部に魂を入れていたはずだ」

「だったら?」

「数を用意すれば、君は対処できないだろう?」

 解かれ中が明らかになった巻物から次々とクナイが出現する。

 その数、10,000。

「口寄せの術ってね。巻物に封印していた忍具を全て呼び出した。さぁ、どうする?」

 全てのクナイがアイズを取り囲み、全方位から一斉に襲い掛かる。

「…………ふっ、残念。それでも、ダメ」

 アイズがクスリと笑うと、1万のクナイが空中で動きを止める。

「私が操れる魂は10万。この程度じゃ足りないわよ」

 1万の切先が燕時に向く。

「さようなら、変態さん」

 空を舞うクナイが一斉に燕時を襲う。

 しかし……。

「――――ふっ、残念。君が、ダメ」

 アイズの真似をするかのように燕時が笑う。

「っ!」

 その笑みに嫌な予感が走ったアイズだったが、一瞬遅い。

「“封”」

 燕時がそう叫んだ瞬間、1万のクナイが全て煙となって消えた。

「なに!? 分身……? いいえ……」

 いつの間にか鎖鎌の拘束から逃れていた燕時の手には巻物があった。

 それはさっきまでアイズの上空にあったものだ。

 燕時はその巻物を巻き直し、紐を結ぶ。

「さっきのクナイはここに再封印した。この中はね、異空間だから、君の魔法でも干渉できない。ここに入った1万の魂はもう君の意志では解除不可能だ」

「たった1万の魂を奪ったところで、私には9万の魂を扱う余力がある」

「強がらなくていいよ。内心ドキドキなんだろう?」

「…………何が言いたいの?」

 燕時の言葉にアイズは冷や汗をかく。

「忍者はね、勝ち目のない相手の前には姿を見せないんだ」

「……だから、なに?」

「君の過去を知っているボクが、君の魔法を知らないと本気で思っているのかい?」

「っ!」

 燕時がクナイを振りかぶったのを見た瞬間、アイズは巻物に向かって手を伸ばした。

「その判断は悪くない」

 巻物に魂を宿し、燕時の手から引き離した。

「けど、全て後手だよ」

「……起爆札!」

 アイズの視界の端が捉えたのは、巻物に巻き付けられていた札。

「君の魔法の弱点、それは感覚の共有。与えた魂が受けた感覚は全て君にフィードバックする。そう、痛みさえも」

 直後、起爆札が爆発し、巻物と共にそこに封印されていたクナイも塵となる。

「さぁ、ツケを払う時だ」

「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 爆発によって消し飛んだ1万本分のクナイのダメージがアイズを襲う。

「おや、まだ意識があるのか」

「ぅぁ……」

「その精神力だけは流石と言っておこうかな」

 燕時はアイズにゆっくりと近づき、手をかざす。

「風遁“裂空衝”」

 それは燕時が最初にアイズへ使った忍術。

 しかし、その威力は先ほどの比ではなかった。

 嵐がアイズを包み、その体を切りつけながら空高く打ち上げる。

「がはっ!」

 その時、アイズは気づいた。

 手を抜かれていたのだと。

 そのまま地面に体を叩きつけられたアイズは全身の痛みに耐えながら、システィへ念話を飛ばそうとする。

「……あっ」

 念話をするためにはこめかみに指をあてる必要がある。

 いつものように左指をこめかみに当てようとして、左腕がなくなってることに気が付いた。

「聞こえてる?」

 仕方なく、右指をこめかみに当てる。

『なんでしょう? その声はアイズですか。今、取り込み中なのですが』

 忙しそうなシスティの声が頭に響く。

「ごめん……風真燕時と……鉢合わせて……」

 それだけ言い残し、念話を切った。いや、正確には体力の限界で念話が切れた。

 燕時が近づいてきているのに気づき、アイズは片膝をつきながらなんとか起き上がる。

「上司への遺言はもういいのかい?」

「はぁ……はぁ……」

 アイズは燕時の腹部を見る。

 一撃、たった一撃だがアイズの渾身の蹴りが入ったはずなのだが、彼には痣一つなかった。

 それでアイズは1つだけ腑に落ちたことがあった。

 人間と魔族の戦争。

 魔力の質を考えれば明らかに魔族が有利だ。にもかかわらず、人間界を攻め落とせないわけ。

 その理由が目の前にあった。



「……化け物がっ!」

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