朱鳥VS.クリームヒルト
――池袋サンシャイン通り。
「きゃあああああ!!!」「おい! こっちは危ないぞ!」「何が起きてるんだ!」「2人の女の子が戦ってるって聞いたぞ」「早く勇者軍に通報しろ!」
朱鳥とクリームヒルトの戦闘は苛烈を極め、周囲の建物を破壊しながら飛び回っていた。
それによって人々は混乱に陥っていたが、当の本人たちはそんなことお構いなしだ。
「クッソ。また折れた。これで20本目だぞ。どうなってんだ」
クリームヒルトは折れた刀を捨てながらぼやく。
「チェーンソー、モーニングスター、メイス、十手、チャクラム……どれもこれもあの竹刀にぶっ壊される。何製だ?」
「恋製」
「なんて読むんだそれ!」
クリームヒルトは手を掲げる。
すると光輝きその形を成す。
「ったく、なら、次はこれだ!」
クリームヒルトの手には2つのトンファーが握られていた。
これが、クリームヒルトの魔法。
ありとあらゆるものを創造、錬成出来る魔法。生産系の魔法だ。
クリームヒルトの場合、武器を生成することに特化している。
「このっ!」
クリームヒルトがトンファーを振るい、朱鳥がそれを竹刀で受ける。
「君のさっきの言葉、正気?」
「あ? どれのことだ」
「ジンシェリ推しって話!」
朱鳥は竹刀を押し込み、クリームヒルトをトンファーごと後ろに突き飛ばす。
「だったら、なんだ」
「コ哀こそが至高だぞ」
「っち、王道厨がっ!」
「人気がないカプを嗜むのが通だと思っている、マイナー厨さん?」
「人気がねぇわけじゃねぇ! 供給が少ねぇだけだ。」
「ふん、マイナー厨なんかしてるからそうなるんだ。私は毎日潤って心身ともに快適だ」
「マイナーじゃないと何度言ったら分かるんだ!」
「でも、供給はないんでしょ? 公式から提供されることもなく、オタクどもの頭の中でしか出来上がらない妄想。君たちはそれで満足していないさい」
「出来ねぇよ! 出来ねぇから飢えてんじゃねぇか! いつだってそうだ! 名立たる二次創作界の神絵師たちはそろいもそろって王道カプを書きやがる! なんで……なんで私の推しカプを書いてくれねぇんだ!」
「供給がないのなら、筆を執れ!」
朱鳥は竹刀に桃色のオーラを纏わせ、振りかぶる。
「
竹刀を薙ぎ、オーラの斬撃を飛ばす。
「ぐっ!」
クリームヒルトはトンファーで防ごうとしたが、あっけなく砕け、斬撃をもろに食らう。
「欲しいものがあるなら他人に乞うべきではない。君が描くんだ!」
クリームヒルトを吹き飛ばした斬撃はそのまま連なる2つのビルを倒壊させた。
「……てる」
土埃の中立ち上げるクリームヒルトの右手には3つの穂を持つ戟、三叉戟があった。
綺麗な赫色に染め上げられたそれは明らかに今までの武器とは違った。
その武器の名はトリシューラ。
神シヴァが持っていたとされる槍だ。
「あたしだって描いてる!」
クリームヒルトは建物などお構いなしに一直線に朱鳥に向かって突進していく。
「っ! おもっ!」
朱鳥は躱さず、竹刀で受ける。
当然、竹刀が折れることはない。だが、クリームヒルトの力に負け、朱鳥は建物の壁を突き破りながら後ろへ後ろへと押されていく。
「だが、思うように描けねぇんだ! イメージ通りにいかねぇし、全く筆が進まねぇ。永遠に描き終わる気がしねぇんだ。それになにより、描いてる途中でどうしても出てくるコレジャナイ感、それにより下がるモチベ。人には向き不向きがあんだよ! あたしには才能がなかった!」
朱鳥は横に飛び、クリームヒルトの突進から逃れる。
「逃がすか!」
朱鳥が抜けたのに合わせ、クリームヒルトはトリシューラの向きを変え螺旋状に突きを繰り出す。
「恋影流二ノ型“
朱鳥はオーラを纏わせた竹刀を三叉の隙間部分に絡めるようにして下から振り上げる。
「くっ!」
トリシューラを弾き飛ばされ、右手からこぼれそうになるが、クリームヒルトは無理やり掴んで離さなかった。
だが、右腕は大きく後ろに逸れ、隙だらけになってしまった。
「恋影流四ノ型“
それを逃さず、朱鳥はクリームヒルトの首元を狙って突きを繰り出す。
「このっ……!」
クリームヒルトは咄嗟に左手にネイルガンを生み出し、朱鳥の眉間めがけて打ち込む。
「!」
しかし、朱鳥は釘が撃ちだされる瞬間、首だけを動かし、それを回避する。
釘によって切られた数本の髪が舞う。
そして、真っすぐ伸びる竹刀は止まらず、そのままクリームヒルトの首を捉えた。
「……がっ!」
鈍い音と共にクリームヒルトは宙に浮く。
「恋影流一ノ型“
そこへ追い打ちとばかりに斬撃を飛ばす。
「う……ぁ……」
直撃を食らったクリームヒルトはそのまま倒れる。
「才能だって? 二次創作にそんなものはいらない。必要なのは推しに対する愛だけだ」
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