誰かが笑えない世界にロマンなどありはしない

「ロマン?」

「そうじゃ。人はロマンを求めている時が一番輝く。ばっちゃんの言葉じゃ」

「そうなんだ。いいね、それ。やりたいことやって、楽しんでる感じがすごくいい」

「………………」

「あれ? どうしたの?」

「……いや、気にせんでよい」

 なんだろう? 今じっと見られていた気がしたけど。

「おっと、そうじゃ」

 白撫しろなはパンっと手を叩いて、白衣のポケットから眼鏡を取り出した。

「なにそれ?」

「ス・カ・ウ・タ・ー」

「なん……だと……?」

「この眼鏡で対象を見れば、魔力属性、魔力量など敵の能力が全てわかる優れものじゃ!」

「私の戦闘力は53万です」

「それを確かめてやろうかのう」

 白撫しろなはメガネをかけ、フレームにある小さなスイッチを押した。

「ふむ、見える。見えるぞ! おぬしの戦闘力は……」

 ピピーーーー!!!! ボンっ!

「な! スカウターが壊れた!?」

「こ、これは……」

「なになに、もしかして測定不能!? そんな再現まで出来るなんてすげぇ!」

「いや、そうではない。それはあり得んのじゃ」

 な、なんだろう。白撫しろなの雰囲気が変わった。

 さっきまでのわーきゃーしたノリじゃない。

 なにか、深刻な……。

「このスカウターは相手の最大魔力値と属性を測れるのじゃ。今、このスカウターが壊れた原因は想定外の数値が入力されたことによるエラーが原因じゃ。この設定されている最大魔力値は魔族相手でも問題なく計測出来、戦場で実際に試用されておる。じゃから、人間の持つ魔力ではエラーが起こるはずがない」

「そ、それって一体、どういう」

「おぬし、何者じゃ?」

 白撫しろなの目がスッと細くなった。

 これはもしや、魔王の魔力が関係しているのでは? これ、バレたらまずいよね。どうにかはぐらかさなければ。

「えっと、それは」

 咄嗟に適当な言い訳をつらつらと並べようとしたその時。


 ピンポーン!


「あ、インターホン鳴ったよ! 早く出た方がいいんじゃないかな!?」

「はぐらかすでない。わしの質問に答えるのじゃ」

「いやいやいやいや! 鳴ったじゃん! お客さん来てるから!」

「どうせ、集金じゃろ。ここにはテレビがないから関係ないのじゃ」

「分かんないよ? Ama〇onかもよ?」

「置き配指定してるから、問題ないのじゃ」

「あとあとあとえっとえっとそのうんと、と、友達かもよ?」

「わしに友達はおらぬ」

 やっべ~、余計なこと言っちゃった?

「あやしいのう。何を隠しておるのじゃ?」

「い、いや~~~~~~、な~~~~んも隠してないっスけどねぇ~~~~~~~」

「おぬし、あからさますぎやしないかのう?」

「あ! そうだ! 思い出した! これから委員長のお見舞いに行かなきゃ! じゃ! 僕はこれで!」

 そそくさと荷物をまとめ、白撫しろなの制止を聞かずに外に飛び出した。

「いっ!」

 けど、外に出た瞬間、何かにぶつかって尻もちをついてしまった。

「一体、何がががががああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 そこにいたのはサングラスをかけた黒服の男だった。

 何この人!? めっさこわいんだけど!!!!!!!!!!!!

「すすすすすすすすすすすすすすすすすすうすすすすすすすすううすみませんでしたああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 とりあえず土下座しておこう。ごめんなさいしておこう。許しを請おう。

 出来れば殺さないでもらいたいんですが!

「あ? なんで、こんなとこにガキがいやがる」

「ごごごごごおごごおごごごごごごごごごめんなさい! すぐsぐあううぐすぐ消えます! 消えます消えます!」

 ああ、もうダメ、僕死んだ。はーい僕死にましたー。これからリスボーンしまーす。

「まったく、何をしておるのじゃ。わしの家じゃぞ?」

「えーんえーん、白撫しろな助けてー!」

 はたから見たら幼女に泣きつく男子高校生に見えるだろうが、そんなもの関係ない。

知らん!

 プライドなどとうの昔に置いてきた!

「また、おぬしか。何の用じゃ? わしの客人を泣かされては困るのじゃが?」

 どうやら、白撫しろなの知り合いのようだ。

 よし、このまま白撫しろなに何とかしてもらおう。

「何か用か、だと? おいおい、今さら何言ってやがる。依頼はもうしたはずだぞ。魔族どもを滅ぼす兵器を作れと」

 ま、魔族を滅ぼす? 何やら不穏な雰囲気。

 勇者関係の人なのだろうか? なら、いい人?

「その依頼なら断ったじゃろ」

「何が不満だ? こっちはお前の腕を見込んで依頼をしている。不満があるなら叶えよう。 金か? 名誉か? 地位か?」



「ロマン」



「ロマン……だと……?」

「お主の依頼にはロマンがないのう。じゃから、断った」

「ロマンならあるだろうが! 魔族どもを殲滅できる兵器だぞ! 二千年続く戦争を終わらせられるんだぞ! これがロマンだろ!!!」


「誰かが笑えない世界にロマンなどありはしない」


「笑えない? はっ! 何言ってやがる! 戦争がなくなればみんなが笑って暮らせるだろうが!」

「魔族はどうなるのじゃ?」

「はぁ?」

「わしがその兵器を作ることによって、魔族たちから笑顔を奪うのなら、そこにわしの求めるロマンはない!」

「それは魔王軍の味方ととっていいのか?」


「わしはロマンを求める子供たちの味方じゃ」


「おーけー。なら、てめぇは敵として今ここで処分する!」


 待って待って! なにこれなにこれ! 白撫しろなならこの黒服何とかしてくれると思ったのに、険悪な雰囲気になっちゃったどころか、殺されそうなんだけど!!!!

白撫しろなさん白撫さん、ここは穏便に、ね? 殺されちゃうから、僕も巻き添えで。だからさ」

「安心せい。見とれ。ほい、ポチッとな」

 白撫しろなはポッケから取り出した何かのボタンを勢いよく押した。

 すると、家の中がガシャゴンっと変形しだした。

「おおおおおお!!!!!!!!」

 ちょっと興奮した。

「んだ? こりゃ」

「おぬしのような輩が来たときの為に用意した、迎撃用システムじゃ。じゃ、生きておるとよいの」

「は?」

 ピュン! ドン!

「わっぷ!?」

 なになになになに???? 何が起きたのさ!?

 なんか光った物が飛んで行ったと思ったら、爆発した!

 てか、爆風で口の中に砂入った。

「っぺっぺ、ってあれ? さっきの人は?」

「死んだんじゃないの~?」

「そんなコックカワ〇キみたいなこと言わないの」

 さっきのやつ、僕の見間違いじゃなければ、多分……。

「今のって、もしかして、レーザービーム!?」

「うむ、そうじゃよ」

「おおおおおお!!!!!!!! ってそんな場合じゃない! さっきの人直撃だったよね!? 大丈夫なの!?」

「死んだんじゃないの~?」

「いやいやいや、だからそんな軽いノリで言わないでって! こんなのが作中初の死人とか嫌だよ!?」

「安心せい、死んではおらぬじゃろ」

「そうなの? もしかして、あの人は人間じゃなくてロボットだったとか? そう言うオチ?」

「いや、今の部分はちょっとギャグシーンっぽくしておいたから大丈夫だ」

「ギャグシーンは別に無敵時間になるわけではないのよ」

「ま、なんにしても問題ないじゃろ。ほら、あそこの監視カメラに逃げてる姿がある」

「あ、ホントだ」

「それにしても、これは少々まずいかもしれんのう」

「そりゃそうでしょ。レーザーぶっぱなしちゃったんだから。あれ大丈夫? 大人数で仕返しに来たりしない?」

「来るじゃろうな。今までは適当に無視してただけじゃが、今回の件で確実に敵対したことになってしまった」

「う~ん…………」

「なぜ、おぬしが考え事をしておる? これはわしの問題じゃ」

「さっきの人って勇者関係者?」

「そうじゃのう。まぁ、あながち間違っておらぬわ」

「そっか。じゃあ…………



ウチくる?」

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