所持金112円
なんだろう。なんかこう、言いたいことが山ほどあるんだけど……。
「さては、プリムラ関係だな!」
「プリ……? ああ、いつも一緒にいる女のことですか?」
「あれ? この反応……もしかして、関係ない?」
赤髪の少年はコクリと頷く。
「じゃあ、待って。なんで、魔王のこと知ってるの?」
「先日の
ウソ……! だって、あの時、人払いの結界があったって聞いたのに。
その時の話って誰にもしてないよね。大丈夫だよね。下手に話が広まったら、絶対面倒なことになる。
「あ、あの……これでどうか…………」
僕は財布からなけなしの100円玉を差し出す。これで僕の全財産は12円しか残らない。でも仕方ないんだ、こうするほかないんだ。
うっ……僕の大切な100円が…………。
「ドリンク買って来いってことですね! 行ってきます!」
「あ、いや、口止め……料…………行っちゃった……」
その後すぐに缶ジュースを片手に、彼は戻ってきた。
「こちらをどうぞ」
「ど、どうも……」
なんかよく分かんないけど、とりあえず受け取ってしまった。
でも、これ……僕がいつも買ってるバヤ〇ースのオレンジだ。たまたま?
「って違う!!!! 今のは口止め料だったんだよ!」
「口止め?」
「そう! あの時の戦いのこととか、僕が魔王候補だとかそう言うのだよ! みんなに言わないでねって!」
「魔王様の命令とあれば、もちろん黙っていますよ」
「あ、そうなんだ」
よかった。話の分かる人で。これでみんなにバレな…………。
「って! 魔王様ってなに!?」
「え? 魔王様は魔王様ですよね?」
「いや、ち、違、まだ違う。いや、まででもなくて、って言うか! その呼び方はおかしい!」
「? 何かおかしかったですか?」
「おかしいよ! 僕は魔王じゃない!」
「でも、この後、すぐなられるんですよね?」
「なられない!」
「なんでですか!?」
「なれるわけないでしょ! 僕みたいなのが!」
「なれます! あの戦いを見ていた俺には分かります!」
「あの戦い見て憧れるんだったらプリムラの方だよ! 僕ほとんど何もしてなかったよ!?」
「あの時の、あなたの姿に“王”の器を感じました。あなたこそ魔王になるお方です!」
さっきから会話してて、やっぱりと思ったけど、この人頭おかしい。
いきなり僕の所に現れて、魔王にする手伝いさせてくれって言ってきて、理由もなんか薄いし、なのに、俺のことはめちゃくちゃ上げてくれるし。
なんなの、この人。
「では、行きましょう。魔王様!」
「だから、その呼び方辞めてって……。って行くって?」
「俺の家です。ここじゃ、色々話すのには不便ですからね」
僕は辺りを見渡す。
すると、少し遠くの方で生徒たちがこちらをチラチラ見ていた。関わってはいけないもののように。
あ、そうか。僕たちが校門前にいることによって他の生徒たちが学校外に出れなくて困ってるんだ。
「では、行きましょう」
「あ、待って。その前に、名前聞いてもいい?」
「そうでした、まだ名乗ってませんでした。俺の名は
「神……代……?」
その名には聞き覚えがあった。日本人なら誰でも、いや、世界中で有名な名だ。
「それってもしかしてカミシログループの?」
「ええ、まぁ……そうですね。うちの父親がその代表ですね」
「………………マジ?」
カミシログループ。
それは日本のトップ企業の名だ。事業内容は多岐にわたり、特に力を入れている分野がMoTだ。
MoTとはMagic of Thingsの略で、簡単に言えば魔力で動く機器って感じだ。正直、僕もそこまで詳しいわけじゃないから何となくでしか分からないけど。
魔力や魔法技能に関わらず、誰でも一定以上の魔法が使えるようになる便利な機械って印象だ。
そんなMoTの最先端を行く企業がカミシログループ。
確かその代表は世界で3本の指に入る資産家だって聞いたことがある。
つまり、この神代梗夜君はとんでもないお金持ちの御曹司。
そんな人の家にこれから行くの? 大丈夫? ただの制服なんだけど。汚いって門前払いされない?
ってか最近のお金持ちの子供ってこんなチャラチャラした格好してるの? ピアスに指輪にチェーンって。いや、チャラチャラってかちょっと指輪とかの趣味が若干厨二臭い気もするけど。
「ここですここ」
そんなこんなですぐについてしまったようだ。
けど……。
「ここって、
つい先日、オッドゲイルさんに襲われた場所だった。
戦いの後はまだ残っており、えぐられた地面はそのままだった。
「まぁまぁ、ついてきてください」
ここを突っ切っていくのかな? 流石に公園の中には家なんてないよね。
…………いや待って。もしかして、秘密の入り口があるとか? とんでもないお金持ちだし、犯罪者に狙われないように家の中に入る時はこういう一見あり得ないようなところに隠し通路があり、そっから入るとか?
「ちょっと通りにくいですけど、こっちです」
神代君が向かった場所は雑草の生い茂る、普通の人は絶対に入っていかないような茂みの奥。
やっぱりそうだ。ここに地下へ行くための通路が隠されているんだ。
「着きました! どうぞ」
「へ?」
神代君は笑顔でこちらを振り向くが、正直僕は戸惑っている。
「どうぞって……いや、でも……」
そこにあったのは地下への隠し通路などでは決してなく。
「どう見てもテントなんだけど」
しかも、コンロや折り畳みのテーブルなんかが広げられており、チラッと見えるテントの中もゴミが散らばっていて、異様に生活感が漂っていた。
まるでここに住んでいるかのような。
「神代君の家って……」
「ここですよ? 一人暮らししてるんです」
「一人暮らしって言うか、キャンプだよねこれ!?」
何これどういうこと? お金持ちの道楽か何かなの?
「実はこれには深いわけがあるんです」
「深いわけ……?」
「俺、親と縁を切ったんです」
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