第一章 その花々は可憐に咲く
ネット幼馴染
『レン~。この前のピックアップ引いた?』
ヘッドフォンから聞きなれた女の子の声が聞こえる。
彼女の名はゼラ。まぁ名前って言ってもネット内での友達だから、本名じゃないと思うんだけど。
彼女とは小学生のころ、引きこもりをしていた時期に知り合い、7年以上の付き合いになる。
それから、どうやら彼女は僕と同い年で、僕と同じ不登校らしい。
ちなみにリアルで会ったことは一度もない。ネット上だけの付き合いだ。
「凸ったよ。人権キャラだし」
『だよね~。うちもした。周回めっちゃ楽』
「分かる。今のイベントも報酬美味しいから、石砕いて周ってる」
僕は話題に上がっているソシャゲを起動しながら話す。
『周回中何見てる? 昨日までワ〇ピ見ながらやってたんだけど、最新話まで見終わっちゃって、次に見るの探してるんだよね』
「ようつべ見ながらやってる」
『ようつべの動画短いやつとかあって、いちいち次探すのが面倒なんだよね。アニメとかドラマならそのまま続き流せばいいけど』
「じゃあ、Vtuberは? あの人たちのアーカイブとか少なくても一時間以上はあったりするじゃん」
『人多すぎて誰見ていいか分かんないんだけど。レンは誰見てるの』
「僕はあんま見てないかな。でも、担任の先生がハマってる。小悪魔系Vtuber?っての。名前は忘れたけど」
『何やってる人? ゲーム配信とか?』
「ちょっとエッチなASMR」
『……………………………………………』
「あれ? ゼラ?」
急に声が聞こえなくなった。ただキーボードを叩く音だけは聞こえる。
『ごめん、今それらしいVtuber調べてた。そして、見つけた。多分この人。しばらくはこの人のアーカイブ見ながら周回する。とりあえず、メンバーに入っておいた』
「さいですか」
気に入ってくれてよかった。
先生に聞いた時からゼラが好きそうだなとは思ってた。
『てか、担任ってレンは学校行ってんの? 裏切り?』
「いや、違う。僕だって行きたくない。なのに、僕を無理やり学校へ行かそうとする人がいるんだ!」
『出た出た。いるよねー、そういう人。うちのパパも学校行きなさいってうるさい』
「そう言う場合ってどうすればいいの? 学校行きたくないし、勉強もしたくない」
『パパの息、臭いって言って、ファブリーズの中身丸ごとぶっかけたら、泣いてどっか行ったよ?』
「流石にそれはパパが可哀そうだよ……」
『学校行けって言う方が悪い』
「それは分かる」
『最近、付き合い悪いな~って思ってたら、学校に行かされてたんだ。でも、夜も忙しそうだよね』
「家庭教師みたいなのが来たんだよ。住み込みで。だから、夜とかも拘束されてる」
『えっぐ。うちなら発狂してる』
「しかも、わざわざ僕と同じクラスに転校して来たし」
『え、なに? 同級生なの?』
「らしい」
『それもうほぼずっと一緒じゃん』
「そうだよ。そのせいで付き合ってるとか言われて、変な噂が学校中に出回ってるし」
『付き合ってる? ん? もしかして、その家庭教師って女の子?』
「うん」
『可愛いの?』
「僕の命を狙ってくるファンがいるくらいには」
『甘えんな』
「え!? 急に何!?」
『美少女と同棲して何が不満なの!? しかも、四六時中一緒とか! 最高じゃん! 嫌なら変われ』
「いや、でも、学校とか行かされたり、勉強も強要されたり……」
『美少女と一緒なら構わない』
「暴力とかふってくるよ?」
『ご褒美!』
「………えぇ…………」
『ちょっとその子のことを詳しく教えて。身長体重スリーサイズ、髪色瞳口耳足のサイズ……』
とりあえず、怖いので通話を切った。
「おい、
ちょうどそのタイミングでプリムラが僕の部屋にやってきた。
「誰かと話していたのか?」
「大丈夫、今ちょうど終わったところ」
「そうか。それで朝は米、何升食べる?」
「だから、その単位で米食べてる人いないんだよ」
1升は10合のことで、茶碗換算で大体20杯ほど。
プリムラは毎食2升以上の米を食べる。その為、うちの炊飯器はいつの間にか10個くらいにまで増えていた。
大体、升なんて単位、プリムラが来るまでは知らなかったわ。
もちろん、おかずもそれに合わせた量になっている。
前まで使っていた冷蔵庫では食材が入りきれないため、冷蔵庫も2つほど追加購入された。
うちの家計は果たして大丈夫なのだろうか。
というか、プリムラはもう少し遠慮した方がいいと思うんだ。色々と。
食事もそうだし、僕の扱いに関しても……。
********************
「見つけだぞ! やつだ! やつがいたぞ!」「やつの心臓は俺がもらい受ける!」「いいや、ボクさ」「プリムラ様とお付き合いするのは私だ!」
「だから、こっちくんなああああああああああああああああああ!!!!!!!」
今日も僕は校内で男子生徒たちに追われていた。
プリムラが僕を倒した人となら付き合ってもいいと、正式に発表したため、僕は毎日命を狙われる羽目になった。
本人曰く、これも修行の一環だという。
ふざけるな! 無理だっつの!
とにかく、校内から出なければ。ここじゃ敵が多すぎて、すぐに挟み撃ちにされてしまう。
「……………あ、あれ?」
しかし、校門近くまで来たとき、すでに僕を追いかけてくる生徒たちの姿はなかった。
「き、消えた?」
いつもならここじゃまだ追いかけて来てたと思うけど。何か起きた?
「安心してください。外敵は全て排除しました」
僕の目の前に見知らぬ少年が突如現れた。
派手な赤い髪と鋭い目つき。耳にはピアス、指にはリング、腰にはチェーンとなんか色々じゃらじゃらつけてる。多分、僕が一生関わらないであろう人種。
制服を着ていないところを見るにうちの生徒ではなさそうだけど。
もしかして、僕の命を狙う新たな刺客!? ついに学校外の人にまでプリムラが認知され始めた!?
「…………っ!」
僕が動揺している隙に、その少年は僕の手を掴んできた。
ヤバい! 殺される……!?
そう思ったのだが……。
「俺に、あなたが魔王になるお手伝いをさせて下さい!」
「……………………………………………………………はい?」
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