僕はもう神様に祈らない

「それ! ちょー気になってた! あれなんなの!? 魔王の魔力って何!?」


 それからなんでキスしたの!?


「その前に人の持つ魔力にはそれぞれ生まれながらに属性が決まっているのは知っているか?」

「うん。火属性を持つ人は火の魔法しか使えなし、水属性の人は水の魔法しか使えない。そして、属性は1人につき、1つだけ」

「そうだ。属性は今や多種多様な進化を遂げ、無限ともいえる種類にまで増えている。その中でも当然、特殊な属性は存在する。例えば、歴代勇者が必ず授かると言われる星属性とかだな」

「魔王の魔力もその特殊な属性ってこと? でも、そうだとしても、属性って何? 魔王属性とか?」

「いいや、属性と言う枠組みで言うのであれば、魔王の魔力とは闇属性に分類される」

「闇……? それって、え? あれ? だって、それって魔族にしか存在しない属性じゃなかったっけ?」

「その認識であってる。しかも、魔族の中でもそれを持つのはごく稀だ。何しろ、この闇属性の魔力を持って生まれることこそが魔王候補である証なのだから」

「なんでそんなレアリティが高いのが人間の僕に?」

「さぁ? 神がくじ引きで当てたとかじゃないか?」

「そんな席替え感覚で魔王候補にされるの!?」

「実際はどうか知らないがな。ただ、あの神は暇つぶしのために地球と魔界を繋げ、戦争を誘発させた。なんて話が出るくらいだからな」

「そんな神様はもう冥府に堕としちゃえ」


 ホントマジで許せない。神様嫌い。

 でも、僕が魔王候補に選ばれたことに深い理由がなくて納得してしまった。

 そうだよ。厳正な審査で選ばれるんだとしたら僕が魔王候補になれるわけないもんね。


「話それちゃったけど、闇属性の魔法って何? 火とか水とかならイメージつくけど、闇って言われてもあんまりピンとこない」

「魔力を解放しているだけで、身体能力が大幅に向上する。憐太郎れんたろうがさっきの戦いで使ってたのはこの能力だな。そして、闇属性の大きな特徴は全ての属性の性質を再現できることだ」

「何それチート?」

「火をイメージすれば、相手を焼くことが出来、氷をイメージすれば、相手の体温を奪うことが出来る。硬質化も軟化も液化も霧状にだって、なんだってできる万能属性だ。だが、デメリットも存在する。オッドゲイルが言っていた通り、闇は精神を蝕み、持ち主の寿命を大きく削る」

「そう言えば、そんなこと言ってたかも…………怖すぎるんですが。もしかして、これってひたすら死なないように他の魔王候補から逃げてても結局、闇の魔力ですぐに死んじゃうパターン?」

「そこは人による。精神が弱ければ、闇の魔力に取り込まれあっさりと死ぬ。逆にそれに耐えうる精神を持っていれば、寿命が削られることはない」

「じゃあ、僕、死ぬじゃん!」

「その心配はいらない。お前には闇の魔力に対する適性がある」

「なにそれ。もしかして、知らないうちに採血とかした?」

「さっきの戦いで無理やり魔力を解放させたのにもかかわらず、元の人格が残っている。すぐ死ぬような奴は魔力を解放させた時点で死ぬか、魔力を使い切っても元の人格に戻ることはない」

「ねぇ、僕が適正あること知ってた?」

「知っているわけがないだろう。まぁ、あれで死ぬくらいならどうせ魔王になれないしな」

「悪魔!!!!」

「いや、私は悪魔ではなく魔女だ」


 そういう意味で言ったんじゃないんだけど!


「ん、そう言えば、なんかそんなこと言ってたね。魔女の因子が何とかって。魔女ってなんなの? 魔族とは違うの?」

「生物学上は魔族だ。魔女って言うのは高い魔力を有した人間を指す種族名だ」

「男でも魔女なの? 女って入ってるけど」

「いいや、魔女に男は存在しない。魔族に分類されるほど高い魔力を持った人間は女だけだ。例外はない」

「そうなの? 絶対?」

「男と女では体の構造が少し違う。その為、体内に宿る魔力量が異なると研究結果が出ている。ちなみに具体的にどこが違うかと言うと――」

「あ、いいや。それ以上は説明されても分からないから」


 多分ここから先は僕が知らなくてもいいことだし、ガチのお勉強会になってしまうので避けたい。


「後、そうだ。魔女の因子ってなんなの?」

「闇の魔力を覚醒させるために必要なものだ。これが無ければどんな者であっても、闇の魔力を使うことは出来ない。その為、魔王候補者には必ず1人魔女が付く」

「それで、キスとは何の関係あったのさ」

「魔女の因子を取り込ませるためにした」

「え! もしかして、あの時、口移しで変な薬飲まされてた!?」

「何を言っている。



魔女の因子とは魔女の体液のことだ。

キスは私の唾液をお前に与える為の行為だ」



「エロ漫画じゃん!」

「何を想像している?」

「いや、だって! エロ漫画とかエロゲの設定でしか見ないよ、それ! 魔女って言うのはみんな魔王候補の人たちとちゅっちゅしてるん!? エッチじゃん!」

「それは誤解だ。一般的には魔王の魔力を覚醒させる時、魔女の血を飲ませることがほとんどだ」

「じゃあ、なんでさっきは唾液だったのさ! …………はっ!」


 もしかして、プリムラは僕とキスがしたかったから……。


「血をそのまま飲ませるとか衛生上よくないだろ」

「ですよね!!!!!! うん! 知ってた!!!!」

「本来、血を清潔に採取した後、体に害のある物質が混ざってないか検査し、そののち、血液を服用しても問題ないように調整した丸薬にする。他の魔王候補たちはこの丸薬を使って魔力の覚醒を行っている」

「じゃあ、僕もそれでよかったじゃん!」

「これは服用者によって、微妙にレシピが異なる。今日初めて会ったからな、憐太郎れんたろうに合わせた丸薬を作る時間がなかったんだ」

「じゃあ、しょうがないね。で、一応確認するけどその丸薬これから作るつもり?」

「当然だろう。お前はまだ魔王の魔力を使いこなせていない。丸薬なしでは魔王の魔力を解放させることは出来ない」

「よし! 製造中止!!!!!! 絶対やめて!」

「なんだ、大声出して」

「その丸薬作らないで! いらないから!」

「先ほど、夕食を作るついでに、試作品を作ってみた」

「ついででなんてもの作ってるの!? ……って夕食ってなに? プリムラが作ったの?」

「お母様に頼まれてな」

「その夕食、カエルとかトカゲとか入ってないよね?」

「魔女ってだけで、そう言う偏見はよくない」

「じゃあ……!」

「夕食には入れてない」

「夕食、には・・?」

「丸薬の方には少々エキスを入れておいた」

「人んちのキッチンで何してくれてんの!?!!!?」

「自由に使っていいと言われている」

「それは言外に常識的の範囲内でが含まれているんだよ。お母さんは止めに入らなかったの?」

「なんだ、聞いてないのか?」

「何の話?」

「これだ」


 プリムラから1枚の紙を渡される。



『レンちゃんへ


女の子との同棲生活展開に置いて、親の存在は邪魔だと思うの。何か間違いが起きた時とかね。

だから、お母さんは鳥取へ出張に行っているお父さんの所へ行きます。

ラブコメの波動を感じとれるお母さんでよかったわね。

それと家事に関してはプリムラちゃんが全部出来るみたいだから安心してね。


P.S.

孫が出来たら連絡ください。すぐに帰るから』



「発想がどっかのカプ厨と一緒なんだけど!!!!!!」

「と言うわけで、今日からこの家は私と憐太郎れんたろうの2人きりだ」


 プリムラと2人きりで同棲……それは良くない。それはマズイ。だって、だって……。


「これでお母様に気を遣わずにやりたい放題教育できる」

「絶対そう来ると思ったあああああ!!!!!!!!!!!!」




 プリムラとの同棲生活。

 甘酸っぱい雰囲気になるはずもなく、

 魔王になる為の教育と言う名の、

 地獄の日々が始まる。

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