魔王の資格

「ほら、ダメみたいだよ。ただでさえ危険な魔王の魔力。それを人間が持って生まれてしまった。前例のない事象なだけに何が起きるか分からないのにさ~。魔女の因子で強引に覚醒させようとするのはどうかと思うよ?」

「確かにあなたの言う通り、人間がこの魔力を持つこと自体、異例の出来事。けど、リスクを取らずに魔王になるなんて方が、よっぽどどうかしている」

「うん、言いたいことは分かる。けどさ、彼、もう死んだんじゃないの?」

「あれ? Jジャックを与えられた者のセリフとは思えないけど? これのどこを見て、死んでいると?」

「っ!」


 何かを感じ取ったオッドゲイルは咄嗟に後ろに飛びのく。

 すると、その直後、さっきまでオッドゲイルが立っていた位置から爆音と共に土煙が上がった。


「まさか……!」


 土埃が去り、そこに一人、誰かが立っていた。


「どうやら、成功したようだ」


 肩口からドス黒いオーラを吹き出して、立っていたのは紛れもなく、憐太郎れんたろうだった。


「あーらら、こりゃすごい。流石は魔王の魔力と言ったところか。左肩から噴き出ている黒い魔力。うちのボスと全く一緒だ。だが、理性は残っているのか? まぁ、気にしてもしょうがない。さて、本腰入れてい――――が!」


 オッドゲイルが喋っているにもかかわらず、憐太郎れんたろうはさっきのお返しとばかりに蹴りをお見舞いする。


「う、ぁ……」


 蹴り飛ばされたオッドゲイルに対し、憐太郎れんたろうはその勢いが止まる前に上空へ移り、拳を叩き込む。

 その拳の威力はすさまじく、殴ったオッドゲイルと共に、地面を大きくえぐり取った。


「ぶぁ!」


 腹部に重い拳を食らった、オッドゲイルはそのまま地面に倒れ伏した。


「はぁ……はぁ……ここまで、とはな……。俺の負けだ……殺せ……」




はお前を殺せる。けど、は誰も殺さない」




「っ!」


 さっきとは全く違う憐太郎れんたろうの空気感にオッドゲイルは息を呑んだ。


「こうなったか――――」

「俺の勝ちってことでいいんだろう? プリムラ」


 そこにはおどおどしたヘタレも、自分に自信なさげななよなよした奴もいない。

 堂々とするその佇まいはまさしく“王”とそう呼べるだろう。


「こりゃ……想定、外、だねぇ~……。魔王の魔力、それは強力だが、精神を蝕む諸刃の剣。それを持って生まれた者は例外なく早死にするという。だからこそ、その危険な力を扱うためには最低でも5年以上の訓練が必要だ。それを何の準備もなく強引に枷を外すして、力に目覚めさせ、死ぬどころか理性すら持っているとは。その精神力という面に関してはうちのボス以上かもな……」

「説明の手間が省けた。今の聞いていたか? 憐太郎れんたろう

「ああ、聞いていた。それよりもこいつらの処分はどうする?」

「当然、そちらの不始末だ。やってくれるな」


 プリムラはオッドゲイルの首元に鎌の刃を突き立てる。


「はいはい、今回は俺の負け。今日のところは引き上げるとするよ」

「そうしてくれると助かる」

「あんたたちも勇者に見つかったらまずい立場だしね」


 プリムラは何も言わずに、憐太郎れんたろうを連れて初雁はつかり公園を後にした。


憐太郎れんたろう

「なんだ」

「今日の勝負、本当に勝てたと思か?」

「いいや、オッドゲイルは確実に手を抜いていた。まるでわざと俺の攻撃を受けているようだった」

「そうだ。よく分かっているじゃないか。悪魔は人間の姿のままでは半分の力も出すことは出来ない。それでありながらお前の攻撃を受け、お前が今どのくらいの力を有しているのかを測れる余裕があるレベルだった。それだけ実力差があったということだ」

「俺が正面から戦ったらまず間違いなくやられていた」

「それが分かってるだけでも今日の授業料としてはまずまずだな。帰ってからはお前のことをちゃんと説明するから大人しく聞いてくれよ?」

「ああ。それはいいんだが。……俺はいつ元に戻れるんだ?」

「まだ、力の切り替えは習得してないからなぁ。魔力が切れるまで待つしかないな」

「具体的にはどのくらい?」

「何もしてなければ、3日くらい?」

「……………え」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る