特異付与術師《ユニークエンチャンター》
長い銀髪を揺らした彼女が僕の前に立っていた。
「オッドゲイルか。見つかるまでまだ時間はあると思っていたが、お前が動いていたのなら納得だ」
「クローバーの
キンッ!
プリムラは鎌を振るいオッドゲイルを弾き飛ばして距離を取った。
「さてと、私は少し考えたんだが」
「え、なに?」
プリムラは僕の方をチラッと見る。
「どうすれば憐太郎が私の話を聞くのか」
「いや、今そんなこと言ってる場合じゃないんだけど!?」
ちゃんと話聞かなかったのは悪いと反省してるけど!
「私の力をちゃんと証明すれば、少しは言うこと聞くんじゃないかと思ったわけだがどうだろう?」
「どうだろうじゃないんだけど? 周り見えてる? 敵だらけなの!」
「そこで最初の授業は『魔法について』にしようと思う。で、いいサンドバッグがあるわけだが、彼らを使って実演をしよう」
え、ちょっと待って。この人、今、あの人たちに喧嘩売った? なんかみんなの目がめっちゃ鋭くなったんだけど。殺意マシマシなんだけど。
「誰がサンドバッグだと? 小娘が」
「ひいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」
3メートルをゆうに超えるであろう巨体を持つ魔族がそれ以上の大きさを誇る金槌を大きく振り上げていた。
「ちなみに私が使える魔法はたった1つだ。さっき説明したと思うが、付与魔法。私が使うのはこれだけだ」
「ちょ! やばい! プリムラ! 後ろ後ろ!」
プリムラは全く振り返ろうとせず、淡々と魔法についての説明を始める。
「付与魔法って言うのは、ゲームでバフみたいなものだ。攻撃力が上がったり防御力が上がったりとサポートという印象が強い」
「死ねえええええええ!!!!!!」
巨体の魔族がプリムラの脳天めがけて、金槌を勢いよく振り下ろす。
「だが、それは私が生まれる前の話だ」
ピッとプリムラは人差し指を上にあげる。
「
スゥー……。
「は?」
「え?」
僕もその巨体の魔族も言葉を失った。
だって、さっきまでそこにあったはずの金槌が一瞬にして消滅したのだから。
「ハハハ、流石だ。これが
ただ1人、オッドゲイルさんだけは笑っていた。
「私の手によって付与魔法はその在り方が変わった」
「今、……何したの?」
「消滅属性を付与した。これを付与されたものは存在そのものが消え失せる」
「消滅属性? そんなものあったっけ?」
「なかった。――――だから、作った」
「作った!?!?!?」
性格の付与の時も思ったけど、この人もしかして天才なのでは?
「小娘が! 武器を消したくらいでいい気になるなよ!」
巨体の魔族は武器の代わりに今度は拳を振るう。
「っ!」
しかし、プリムラは左手でそれを受け止めた。
「マジ!?」
「当然、筋力強化は付与済みだ」
2倍以上も身長差があるにも関わらずプリムラと巨体の魔族の力は互角……いや、プリムラの方がまだ余裕がある。
「寝てろ」
プリムラが鎌を振るうと巨体の魔族は軽く吹き飛んでいった。
「つえぇ……」
「さて、これで終わっては授業の意味がない。もう少し踊ってもらおう」
プリムラは敵の大群に向かって指をさす。
「
すると、段々と10数人が苦しみだした。
「え? なに? 何したの? 怖い」
「空気中の一酸化炭素を増殖させ、一酸化炭素中毒にした」
「殺意えっぐ」
「いや、殺しはしない。死なない程度に調整はしてある。次は――」
「クソがああああ!!!」「てめぇ! 何しやがった!」「殺す!」
仲間が急に倒れだしたことに動揺したのか、剣を持った魔族たちが四方八方からプリムラに向かって突っ込んでくる。
「
プリムラが何かの魔法を発動した瞬間、剣士の魔族たちが姿を消した。
「がっ!」「うっ!」「なっ!」
しかし、一拍おいて、彼らがプリムラを通り過ぎて自ら壁や木、味方にぶつかっていった。まるで自分の体を制御できなかったかのように。
「今のは誰でも出来るスピードアップのバフだ。ただ、強化値を高く設定したがな」
僕でも知ってる付与魔法だ。でも、敵に付与して自爆を誘うなんて聞いたことない。
「魔法を使う上で大事なのは固定概念を捨てること。そうすれば――」
「接近戦はダメだ! 遠距離から攻撃するんだ!」
魔族たちは地水火風様々な魔法で距離を取りながら、プリムラに攻撃を仕掛けてきた。
「
けど、その魔法は僕たちには届かなかった。
「な、なんだ!? 見えない盾?」
炎や水が僕たちを避けて、後ろに流れていく。
硬化……もしかして、空気を硬くして即席の盾を作ったってこと?
「魔法は無限に生み出せる」
「っ!」
さっきオッドゲイルさんはプリムラのことを
それってつまり、プリムラの魔法は教科書に載っているような汎用的な魔法じゃなくて、独自解釈して作り上げた自分だけの魔法。
「とは言え、私の魔法にも弱点はある。付与できる範囲は半径20メートル以内のものだったり、汎用的な付与魔法でないやつは私の魔力量の半分以上持っている生物には強制付与出来ないとかな」
弱点って……今まで僕が抱いていた付与術師の印象からしたら、それは弱点のうちに入らない気がするんですが。
「とりあえず、今日はこの辺でいいだろう。後はサクッと寝かせてくる」
そう言った直後、本当にあっさりと敵を全滅させた。
エンチャンターって後方支援だったはずなのに、これなら前衛でも余裕で行けちゃうじゃん。って言ってもこの人が特別なだけな気がするけど。
「こんなものか。
「あれ? 鎌が消えた」
さっきまで持っていたはずの巨大な鎌がポンっと消えてしまった。
「消えてはいない。小さくしただけだ」
そう言ってプリムラが差し出してきた手のひらを見ると、そこにはギリギリ目に見えるレベルまで小さくされた鎌があった。
「じゃあ、急に出てきたように見えたあの鎌って……」
「縮小させるのは付与魔法だからな。それを解除しただけだ」
結構便利な魔法だ。これで色々小さくできれば荷物の持ち運びとか楽そう。
「あーらら、もう武器をしまっていいのかい? まだ俺がいるけど?」
「うぇ!? あれ!? なんで!?」
敵を全員倒したと思ったら、オッドゲイルさんだけピンピンしていた。と言うか無傷だ。
「分かっている。だが、全て私が倒してしまったら、成長しないだろう」
「なるほど、つまり、俺の相手はそこの少年と言うわけか」
「は!? え!? ちょっと何言ってんの!?」
なんか僕が戦う流れになってんだけど!? どうして!?
「冗談だよね? 僕、喧嘩したことないし、魔法だって使えないよ?」
「確かにそうだ。今の彼じゃ俺の相手は務まらない」
「ほら! ね!? 相手もそう言ってるんだし、僕は戦わない。このままプリムラが頑張って!」
「私の後ろに隠れるな。お前に男としてのプライドはないのか?」
「僕にそんなものはない! 無理なものは無理!」
「ハハハ、そんな状態じゃ戦うのは厳しいんじゃないか?」
「ええ、でしょうね。そもそも、こんなにあなたと会敵する予定はなかった。だから――――」
「え?」
プリムラは僕の胸ぐらを掴み、グッと引き寄せた。
「ちょ、なにを……!」
何の躊躇もなく、口づけをした。
「ん!!!!!!!!!!!!?????」
なに!? なにこれ!? どういう状況!?
さらに訳の分からない状況に、僕の頭は考えることを止めた。
「へ~、無理やり魔力を解放するなんて、強引だね。でも、いいのかい? 彼、死ぬよ?」
「この程度で死ぬなら、私が育てる価値もない」
なになになになに!? キスされた上に死ぬ!? 何の話してるの!?
「うあ゛!!」
なに、これ……。体が急に熱くなって……。く、苦しい。
僕はまともに立っていられず、その場に倒れこむ。
あ、ダメだ……意識が……遠のく……………………………………………。
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